ウトヤ島、7月22日
原題 : ~ Utoya 22. juli ~
作品情報
監督・キャスト
監督: エリック・ポッペ
キャスト: アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スベネビク、アレクサンデル・ホルメン、インゲボルグ・エネス、ソロシュ・サダット、ブレーデ・フリスタット、アーダ・アイド
日本公開日
公開: 2019年03月8日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2019年3月11日
2011年、ノルウェーウトヤ島で起きた無差別乱射事件を描いた作品。話題になった72分長回し逃走映像が、敵も見えず本当に辛いし、リアリティーあるカメラも演出も凄い。
実際の事件でも乱射は72分に渡って行われたらしい。それをただただ体感する。……本当に、ただただ体感する映画。きつい……。
あらすじ
2011年7月22日。治安が安定した北欧の福祉国家ノルウェーが、悪夢のような惨劇に襲われた。午後3時17分、首都オスロ政府庁舎爆破事件により8人が死亡。さらに午後5時過ぎ、オスロから40キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が発生。ノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた十代の若者たちなど69人が殺害された…(Filmarksより引用)
面積わずか10.6ヘクタールの島
カメラはずっと主人公・カヤを追う。カヤの見る物を見、カヤが聞く音を聞き、カヤの行動を映し出す。情報はない。
2011年7月22日。
この島に来ていた若者は、みんなこんな不安と恐怖を耐えていたんだ。72分間も。
ウトヤ島とは、面積わずか10.6haの島らしい。
分りやすく比較すると、北海道の松前小島が154ヘクタール……神奈川県の江の島が37ヘクタール…分りにくいかも。よくある「東京ドーム何個分」で言えば、東京ドームが4.7haなので2個ちょっと。つまり本当に小さなレジャー島だ。
そもそも、ノルウェー労働党の青年部が所有している島であり、青年部が集会やキャンプのために使用している。建物は集会とキャンプのための物しかなく、隠れる場所は島を覆っている森の中くらい。
ほんの10年ほど前の話で、携帯があるとはいえ、どこから発生しているのか分らない銃声を断続的に鳴り響かせられ、逃げ惑う友達を見ながら……一体、どのくらい冷静に行動できることだろう。
考える余裕もないけれども、自分だったらどう動くか一応考えながら見る。
割と簡単にあきらめてしまうかも知れない、と思いつつ、いざとなったら生きたいだろうなぁ。
なぜ、こんなただ惨酷な映画を作るのか
公式サイトではこの映画を製作したことに関して監督の言葉がとても重い文量で丁寧に掲載されている。
事件が与えた傷に多くの人が未だに苦しんでいることに心が痛む。同時に、この物語をドラマチックなフィクションにするのは避けるべきだと強く感じた。この事件を基に長編映画を作ろうとする計画が起こらないか、大きな不安を感じている。(公式より引用)
本当に、お涙ちょうだいな物語は一切なく、感動に溢れたセリフもなく、ヒーローも出て来てくれない。
ただやられていく仲間を眺め、自分の順番を想像するのみ。
この映画には「恐怖」しかない。
けれども、上記したページでも語られているように、それが監督の目的なのだ。目的は追体験。
観客に味あわせたいのは残虐性と理不尽。
ノルウェー労働党青年部の集会だったからこそ
これは映画を観る前に頭に入っていた方がいいかどうかは分らないけれども、犯人は最近よくある「やってみたかった」とか「むしゃくしゃした」とか、そんな犯行理由で行動していたわけではなかった。
犯人の目的は政治不信。目的は労働党の若い芽を摘むことであり、だから青年部のキャンプが襲われた。
そういう意味では「無差別」殺戮ではなく、目的は果たしたわけである。
ノルウェー労働党は移民の受け入れを積極的に支持している党であり、日本人にはあまり理解されにくい移民問題や宗教問題がこの事件の背景にあった。
「銃弾がお前に当たればよかったのに」脅迫を受けるノルウェーテロ生存者の今、ネットで生きる犯人の思想(Yahoo!ニュース)
という記事がある。
近年、労働党への反感からSNSなどで犯人を神格化する連中も出て来たらしい。
この映画は、そういう人たちに体感させたくて作ったのだろうと思われる。
説明もなく、とにかく殺される恐怖や無念や絶望を味あわせるために。
見るといいね。
そういう輩が。
そういう目的だと思えば、本当に素晴らしくよく出来た作品。
こんなに恐ろしく、哀れで酷いことはない。
どんな思想の違いがあっても、人の命を勝手に奪っていいはずはない。
それだけは本当に痛いほど伝わる。
Netflix で、この事件の前後まで描いた作品が配信されているらしいので、そちらも見てみたい。
以下ネタバレ感想
遠くから断続的にする銃声。しかし犯人の姿は見えず、逃げて来る仲間たちも何から逃げているのか分らない状態。
隠れているのだから携帯を頻繁に鳴らすことはできず、情報も伝わらない。
こんな恐ろしさに耐えていたなんて。
犯人の姿が見えなかったのも、銃声がずっとしているわけではなかったのも、史実の事件を知れば納得が行く。
犯人はたった一人。
ノルウェー人、ブレイビク。
隠れている人たちには犯人が1人である事も伝わらなかった。(1人だと分っていたら、もっと出来ることがあったかも知れない)
ラスト、妹・エミリエが生きてボートに乗っていたことだけが、この映画の救い。
姉のように怪我人を励まし、庇い、姉よりも冷静に働いていた。
この姿をカヤに見せてあげたかった。
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・象のロケット
★前田有一の超映画批評★
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comment
いごっそうさん
>もしかして…『7月22日』ですか
そうですそうです!
この映画よりもそちらの方がストーリー性があるようなので、そちらを見てからこちらを体感すると、より伝わるのかも。
Netflix で、この事件の前後まで描いた作品が配信されているって、もしかして…『7月22日』ですか(゚Д゚;)
この記事読んでめっちゃ気になりました。
『7月22日』スルーしていたけど、観てみます!