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『ソローキンの見た桜』松山と日本に咲く桜

ソローキンの見た桜

『ソローキンの見た桜』

作品情報

監督・キャスト

監督: 井上雅貴
キャスト: 阿部純子、ロデオン・ガルチェンコ、山本陽子、アレクサンドル・ドモガロフ、六平直政、海老瀬はな、戒田節子、山本修夢、藤野詩音、宇田恵菜、井上奈々、杉作J太郎、斎藤工、イッセー尾形

日本公開日

公開: 2019年3月22日

レビュー

☆☆☆

劇場観賞: 2019年3月25日

 
ハーグ陸戦条約 第2章「俘虜」 

俘虜は博愛の心を以て取扱ふへきものとす。

あらすじ

2018年、駆け出しTVディレクターの桜子(阿部純子)は、ロシア兵墓地の取材を皮切りにロシアに行くことが決定していたが、興味を持てずにいた。しかし祖母(山本陽子)から自身のルーツがロシアにあることを知り、さらにロシア兵と日本人看護師の、二人の日記を紐解いていくうちに衝撃の事実を知ることに——(Filmarksより引用)

史実の俘虜(捕虜)収容所

海外の収容所や強制労働所はよく話題になるけれども、日本にも捕虜(日露戦争時は「俘虜」という)収容所があったことはあまり知られていない。

大正時代、日露戦争や青島で捕獲した捕虜を収容する施設が国内に12か所もあった。(その内、ドイツ兵を収容した徳島県鳴門市の板東俘虜収容所は映画『バルトの楽園』で描かれている)
 

坂東もそうだが、この映画で描かれた松山収容所も捕虜の扱いが良く、地元の人たちとも交流が生まれて新たな文化として様々な物を生みだした……。という話が有名だ。

「日本人が撮った映画だから身びいきなんでしょ。」ということでもなく、「日本人は優しいから拷問などという非道なことはしない。」ということでもない。

日本には古くから拷問の文化が立派にあるし、第二次世界大戦時になると海外で日本が作った収容所では捕虜の扱いが劣悪になり、戦後、捕虜を虐待したことにより戦犯として処罰された元軍人もたくさん出て来る。

この第一次世界大戦や日露戦争時、日本はようやく世界と渡り合い始めたところだった。

そこで、「世界に準じていますよ」というアピールのためにもハーグ陸戦条約を大切に考えたわけ。

「俘虜ハ博愛ノ心ヲ以テ取扱フヘキモノトス」

実際にはどのくらい守られたのか知らないが、坂東や松山の捕虜になった人たちからは大変好評だったらしい。
 

ロシア兵墓地

前述したが、この後の時代になるほど捕虜の扱いはどの国でも酷くなっていくので、この時期に良い思い出作れた兵隊さんはラッキーだったかも。

実話じゃないけど手記はある

映画は戦争うんぬんよりも収容されたロシアの将校と看護婦の恋を中心に描いている。

完全な実話ではないが、将校の手記が元になっているらしい。

綺麗ごとに感じられる部分もあるものの、風景と共に見応えのあるご当地ドラマになっていた。

ロシアの海軍将校・ソローキンと、松山の蝋燭屋の娘・ゆい。

この2人の恋を、ロシア人墓地を取材する桜子の振り返り視点で追っていく。

ただの恋愛ドラマではなく、国を思う捕虜たちの憂鬱、親の意向に逆らえないこの当時の娘、ロシアのお国事情まで絡め、最終的には「日本で桜を見られなかったはずのソローキンの手紙」についてのミステリーも。全て興味深く見ることができた。

ヒロイン阿部純子の透明感

阿部純子さんといえば最近では朝ドラのイメージが大きいのだけれど、この作品では大正時代の健気な看護婦と平成の自由な娘の二役を上手くこなしていた。

ロシア将校がホレるだけの優しさも醸し出し、そして美しい。

ソローキンも実直なイケメンっぷりだった。

キャストの美しさも風景も松山の温かさも味わえ、歴史ロマンに浸れる良い映画。

 


以下ネタバレ感想

 

桜がない季節にロシアへ戻って行ったソローキン。

手紙に記した「ニホンノサクラハウツクシカッタ」は、まさに人心と ゆい 自身のこと。

生涯独身で革命で亡くなったというソローキン。

命を懸けてソローキンを逃がした ゆい。

壮大な恋物語。
 

小娘が頭を下げたくらいで革命派の脱出に協力してくれる将校なんていないだろ……とは思うものの、ここはドラマとして美しいので良いと思うの(泣いたし)。
 

それにしても、一番の漢は ゆいさんの旦那さんよね……目の色も髪の色も違う子どもを自分の子として育ててくれるとは。

いくら松山の人たちが捕虜に温かかったといっても、あの時代じゃ下手すりゃ村八分相当の冒険だわ。

ゆいさんは旦那さんに感謝して幸せに生きた……と思いたい。
 

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