ソ満国境 15歳の夏
作品情報
監督・キャスト
監督: 松島哲也
キャスト: 金澤美穂、柴田龍一郎、清水尚弥、清水尋也、三村和敬、金子昇、大谷英子、田中律子、二階堂智、上田耕一、小林勝也、香山美子、田中泯、夏八木勲
日本公開日
公開: 2015年08月1日
レビュー
☆☆☆☆
観賞: 2019年1月5日(DVD)
最初にババーンと「文部科学省推薦」みたいな情報が出てきて、「しまった、子供用のゆるいお涙道徳映画を借りて来てしまった…」と思ったけれども、分かりやすくてとても良かった。
敗戦時、ソ連満州国境に置き去りにされた中学生たちを現代から振り返るドラマ。本当にこの年代に広く見てほしい。
あらすじ
日中戦争下、ソ連と満州の国境近くに勤労動員として送られた新京第一中学校の生徒たち。昭和20 年8 月、ソ
連軍の爆撃が降り注ぐ中、ソ満国境に取り残され、過酷を極める必死の逃避行が始まった・・・。原作は田原和
夫「ソ満国境 15 歳の夏」……(Filmarksより引用)
ソ満国境とは
出典: 朝日新聞デジタル『モンゴルに旧ソ連軍の巨大基地跡 並ぶ廃虚、空撮で全貌』
「ソ満国境」とは、その物、ソ連と満州の国境の事である。
1945年8月9日、日ソ中立条約を破棄したソ連軍によってソ連対日参戦が各地で開戦された。日本統治下だった満州国もその一つ。
ソ連と満州の国境近くにいた居住民は置き去り状態のまま日本は敗戦した。
終戦当時、満州在住の民間邦人は約155万人もいたという。内、引き揚げたのは127万人。約24万5千人が命を落としたといわれている。
満州へ行けば土地が貰えて豊かに暮らせるという国策に乗った人、あるいは口減らしのため送り込まれた若者、「満蒙開拓団」という夢を持った人々の多くはソ満国境に近い辺地に暮らしていた。
そのため伝達は遅れ、ソ連軍に襲われ、多くが病や自決で亡くなっていった。
満蒙開拓団と引き揚げを描いた映画やドラマ
満州からの引き揚げは、死と病と、ソ連軍、現地人の襲撃という過酷な中で行われ、日本へ帰れなかった残留孤児・残留婦人の問題は現代までも尾を引いている。
本も映像作品もとても多いので、機会があったらぜひ見ていただきたい。
映画
『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』
『赤い月』(原作 : なかにし礼)
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ドラマ
『大地の子』(原作 : 山崎豊子)(NHK)
『開拓者たち』(NHK)
『遠い約束~星になったこどもたち~』(TBS)
『どこにもない国』(NHK)
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原作は田原和夫氏の自伝
原作者の田原和夫氏は、実際に勤労動員として15歳の夏にソ満国境近くの軍用農場で従事していてソ連軍の侵攻に遭ったらしい。
映画の中では少年たちが、いざとなったら関東軍が助けに来てくれると信じ込んでいる様子が描写されている。関東軍はとっくに引き揚げてしまっていたのだけど。
満州引き揚げに関する本やドラマはたくさん見てきたけれども、100人を超す中学生が大人に見捨てられたまま収容所に入れられていた事など全く知らなかった。
劣悪な環境で飢えて死んでいく友達を見る生活。現代よりも遥かに精神的に大人だとはいえ、たった15歳。どんなに心細かったか。
3.11震災の子どもたちと被らせる
映画は、この子どもたちを福島の子どもたちと被せて描いている。
本来、震災原発問題を戦争と絡ませようとするのは好きじゃないのだけれども、なるほど、「置き去りの民」「手を差し伸べる理由」「大人のせいで理不尽な目に合う子どもたち」と、リンクする所を上手く拾ってドラマ化している。上手いなぁ。
中学生キャストの中に清水尋也くんがいて、やけに幼く見えてビックリした。
田中泯さま、夏八木勲さんという名俳優の落ち着いた演技が、子ども役者たちの瑞々しさと交わるキャスティングも素敵。
夏八木勲の遺作
夏八木さんは『希望の国』であんなことになって、ここではこんなこと……と因果な繋がりを感じた。
300本以上の作品に出演したという人生の中で、『マイウェイ 12,000キロの真実』でノモンハン事件と関わり、『希望の国』で福島と関わり、そして、この作品でソ満国境と関わる……。
最後がこの作品で、テーマは「返す事」。良い締めになっただろうなぁと勝手に考える。改めて素晴らしい存在感。
決してお涙ちょうだい映画ではなく
この作品は日本の戦争映画に有りがちな「被害者で可哀想な日本の子ども」目線で描かれているわけではなく、どの国が非道だなどという描かれ方をされているわけでもない。
「戦争は酷い」
「でも、困った人は助ける」
それは当たり前の事です。
というテーマの元に作られている。
だから確かに文科省推薦作品なのかも知れないけれども。
非常時に人の情けがどれだけ有り難いか。それを当たり前だと言ってやってくれる人の存在がどれだけ尊いか。
感謝の気持ちを何十年も受け継いでいくこと。
大事なことを考えさせてくれる良作。
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★前田有一の超映画批評★
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