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『ヒトラーと戦った22日間』絶滅収容所・ソビボルからの脱出事件

ヒトラーと戦った22日間

原題 : ~ Sobibor ~
 
『ヒトラーと戦った22日間』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: コンスタンチン・ハベンスキー
キャスト: コンスタンチン・ハベンスキー、クリストファー・ランバート、フェリス・ヤンケリ、ダイニュス・カズラウスカス、マリア・コジェーブニコワ、セルゲイ・ゴディン

日本公開日

公開: 2018年9月8日

レビュー

☆☆☆
 
劇場観賞: 2018年9月12日
 
もう、いいかげん、タイトルに「ヒトラーと、の、を、に」を付けるのは止めた方がいいのでは……。ヒトラーは出てきません。ナチスがポーランドに設営したソビボル絶滅収容所からの囚人脱走事件を描いた作品。実話ベース。原題は、そのまま『Sobibor』
 

◆あらすじ
アウシュヴィッツと並ぶ絶滅収容所ソビボル。死が待つとは知らず、多くのユダヤ人が国籍や貧富の差関係なく列車で送り込まれ、ガス室で大量殺戮されていった。残った者には虐待と屈辱の日々が続く。そんな中、秘かに脱出を企てるグループがあった。しかし彼らには強力なリーダーがいない。そこに1943年9月、ソ連の軍人でサーシャことアレクサンドル・ペチェルスキーが収容者として移されてくると、彼と仲間は、緻密な計画のもと前代未聞の反乱を計画する。それは収容者“全員の脱出”だった。これまで歴史に隠されてきた“絶滅収容所で起こった最大の反乱”は、一体どのように成し遂げられたのか。(Filmarksより引用)

 

ソビボル絶滅収容所

ソビボル絶滅収容所は三大絶滅収容所の1つといわれている。(あとの2つはベウゼツと、あのコルチャック先生が収容されていたトレブリンカ。)

ベウゼツに次いで2番目に「ユダヤ人の最終解決」のためにガス室が作られたのはここだという話。列車で到着後、すぐにガス室送りになった人たちもいるらしく、まさしく労働よりも最終解決のための収容所だった。

 

ここで1943年に計画的脱走事件が起こる。この映画はそれを描いたもの。

ソビボル収容所はこの事件の後、閉鎖されている。

アクション映画っぽ……

脱走劇を描くのだから、まぁ、そうなるよね……とは思うけれども、今まで見てきたホロコースト作品の中では「史実ベースなのに創作っぽい」雰囲気でいっぱいの稀有な1本。

脱走計画のリーダーは史実でもユダヤ系のソ連赤軍将校であり、軍人だから戦略に明るく戦闘力もあるわけだけれども、何だかサーシャのヒーロー映画のように見えてしまった。

だから駄目というわけではなく、殺害計画の実行描写は素人が色々やらかしてボロボロだし、ドキドキするのだけれども、やはりどうしても抜けないB級感。

ナチスの兵士たちも本当に絵に描いたような悪者っぷりで、理不尽な処刑・処罰シーンに拳を握りつつも……でも、なぜか大袈裟に見えてしまう。

何もかもがドラマティックすぎて……そう、映画だからドラマでいいのだけれど。

史実の脱走劇

サーシャがソビボルへ収容されてから計画は練られ始め、わずか22日間で実行に移されたのは史実らしい。この人は捕虜収容所時代にも4回も脱走を試みており、つまり「あきらめない男」としてスカウトされた。短期間で実行に移すあたり、行動力にも並みならぬものを感じる。

看守をおびき寄せて実行したことも史実らしく、ようするに映画の内容は本当に「創作っぽいけれども創作ではない」のだ。
 
ところどころファンタジックに感じてしまうのは、やはり「悪」と「正義」の対比が大きすぎる演出のせいかなぁ。好みの問題もあるのかも。

 

どんなに正義が頑張ろうと、「この脱走劇の結末」という変えられない史実があって。

だから、とてもスカッとはできないのである。

 


以下ネタバレ感想

個人的には、かなり好みの美人妻が冒頭でサッサとガス室送りになってしまったのはショックだった。普通、あのレベルの美人はもう少し生き残るよね……。その後、夫がずっと妻の指輪を大事にしていたり、妻の死のせいで狂っていくのが不憫で……(ダンナさん……奥さん、不倫してたんやで……)。

 
私の中でこの作品をファンタジーにしていた大きな理由が「ルカという女」。

 『ヒトラーと戦った22日間』感想
 

働かないとガス室送りになったり、叩かれたりしている酷い環境の中、この女はどうしていつもフワフワと好き勝手に行動しているのだろう。なぜサーシャとルカには2人きりの逢引きタイムが出来ちゃったりするのだろう。

脱走計画前日の人馬拷問の後も、サーシャを探し回って抱きしめたりできるのって、ああ、きっとこの女はサーシャの妄想なんだ。すでに死んでいる人とサーシャはいつも話をしているんだね(涙)……と思っていたのに……。

えっ、撃たれて死んでるし。妄想の妖精じゃなかったのかよ!!

というツッコみがグルグル回っていた。というのが、あの脱出シーンの私の頭の中でした。

 
あと、「女の遺体を抱いて逃げるよりも、あんたが巻き込んだ少年たちの事をもっと気にしてやってくれ」と思いながら見ていた……。何とも複雑な気持ち。
 

もっとも、誰も彼もが自力で脱出しなくてはならない状況であっただろう。

脱走したのは600人。内、射殺されることなく森へ逃げ込めたのは半数の300人。そしてその後も捕えられることなく生き延びたのは50人ほどだったというから、強い意志と生き延びる信念と、あとは運。
 

劇中の拷問描写はステレオタイプに映った、とはいえ、実際に生死をオモチャにされていたのだから、そこで生きる希望を少しでも見出せたことは良かったのかも知れない。

わずかな希望さえも戦わなければ手に入らなくなった時、あきらめない心を持つ事が出来るか。

そう問われる話。

 

 

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★前田有一の超映画批評★

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