億男
作品情報
監督・キャスト
監督: 大友啓史
キャスト: 佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也
日本公開日
公開: 2018年10月19日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2018年10月24日
お金に追い立てられ、お金に引っ掻き回される人生……痛い。ああ、あれをただの紙切れだと思えたら、どんなにいいかねぇ……。
◆あらすじ
兄が3,000万円の借金を残して失踪して以来、図書館司書の一男(佐藤健)は、夜もパン工場で働きながら借金を返済している。妻・万佐子は度重なる借金の返済に苦心し窮屈に生きることしか選んでいない一男に愛想を尽かし、離婚届を残して娘・まどかと一緒に家を出てしまうのだった。
そんな踏んだり蹴ったりの一男だったが、突然宝くじが当たる。当選金額3億円!これで借金を返せるだけでなく、家族の絆を修復することができるはず。だがネットを見ると、宝くじの高額当選者たちはみな悲惨な人生を送っているという記事ばかり・・・。怖くなった一男は、大学時代の親友であり、起業して億万長者となった九十九(高橋一生)にアドバイスを求めることにする。久しぶりの再会と九十九プロデュースの豪遊に浮かれて酔いつぶれた一男が翌朝目を覚ますと、3億円と共に九十九は姿を消していた──。(Filmarksより引用)
原作は川村元気の小説『億男』。
もしも三億円当たったら……(というところは予告でも散々やっているのだからネタバレじゃないですよね?)私だったら、もう少し上手くやるなぁ。こんなヘマはしないわ。
って、誰もがきっと思うんでしょうね。
交錯する過去と現在
ストーリーは、現在を見せつつ、説明のために遡る形で進行する。
予告でも見せている通り「親友が消えた」。それを探す物語。
主人公は親友・九十九を探すために、大学卒業後の彼と関わってきた何人かの人間と出会う。
そして「自分に何が欠けていたのか」気づいて行くのだった。
観客は「なんでこんなことに?」「どうしてこの人に?」と「現在」に疑問を持ち、後から解答が来る形。
展開は予告からも(予告は見せ過ぎ)想像できるし、結末は想定内だが、そこに辿り着くまでの各人間物語の映像が優しくて。
あそこに戻りたい主人公の気持ちがグサグサ刺さる。お金で買えない一番の宝物は「時間」だとしみじみ思う。
キャストの魅力
健も一生も普段から「何か欠けている人」の役が多く、それがまた抜群に上手い。
その2人が親友だというのだから、もう見ている内に守ってあげたい気持ちでいっぱいになってしまう(笑)キラキラの学生時代からヤサぐれた現在に至るまで素晴らしい演技。
ストーリーにはツッコみ所があるものの、「億男」たちの言い分には納得できることが多くて勉強させられた。
北村一輝なんて誰だか分らなくてジーーッと見続けたし、竜也も変なキャラ作ってきたなぁ(笑)
みんな必死なんだ。
人を食い人を支配する、それがお金。
音楽の魅力
もう、テレビドラマ『ハゲタカ』の頃から大友監督の作品には佐藤直紀さんの劇伴がピッタリだと思っていて、今回はまたそのタッグで嬉しい。
その劇伴からラストに入るモロッコの映像とBUMPの主題歌のなんと合うこと。
良い物見たなぁと思えるEDはとても大事。
啓発物語
お金とは、豊かさとは、という内容なので、最終的には啓発ものになるわけだが、描き方のせいか個人的には「説教臭い」と思わずに済んだ。
予告がサスペン寄りに出来上がっているので、それを想像して見ると、つまらないと言う評価になってしまうのかも。
「お金の正体が知りたいんだ」
九十九は結局分かったの?
お金が紙切れだと思える人生がほしい。
あの紙切れに振り回されたことがある人は、きっと響くものがあるはず。
以下ネタバレ感想
結局、これって、九十九と一男の愛情物語ですよね……。金を持って消えた先にあるのは「愛」に他ならない。
なぜ九十九に連絡したのか
九十九が大学を中退してから会ってもいなかったように見えたので、宝くじに当選した時に相談する相手が「なぜ九十九だったのか?」という疑問は出て来たけれども、そこも含めて「モロッコ」なんだろうなぁと。
理由のない無駄な金は使わない九十九が、自分のために大金を使ってくれた。何よりも大切だと言ってくれた。
共に落研を盛り上げた仲。
キラキラした青春時代。
その思い出で出来た物語。
例えブランクがあっても、その信頼感は変わらなかった。
百瀬と千住
百瀬は
「その金は元からなかった金」「頭の中で金が行ったり来たりしただけ」「お前の3億と同じ」
と言う。
千住は
「それはただの紙切れ」「人は生まれた時からそれを信仰してしまう」「価値を決めるのは自分」
と言う。
なんだか無性に納得してしまった。
そう言いつつ、この2人は金に振り回され続けて生きているわけだけれども。
よく分らない「バレエ」のお稽古
登場人物の思考で一番理解できなかったのが、実は妻・万左子だったりする……。
「娘の発表会を2人で一緒に見る」その思い出づくりを続けたかった。という気持ちは分る。
けれども、昼も夜も働かなきゃ生きていけない借金を抱えた家に、15万の発表会があるお稽古は現実問題無理だわ。
その喜び、プライスレス!とか言っていられる範囲を超えた贅沢だと思う。
この妻は「一緒に苦労したかった」と言うが、一緒に働いていたのかなぁ。その辺の事情はよく分らなかった。
こんなよく分らない妻とは別れて、九十九と一緒に暮らしなさい、というのが私の結論だ……
芝浜
「芝浜」は有名な古典落語の一つ。
女房は、男が酔っぱらって寝ている間にそれを隠し、「そんなもんは知らない。夢でも見たんだろう。」と言い張る。
男は、そうか夢だったのかとあきらめて奮起し、頑張って働いて金持ちになった。
三年後の大晦日、妻はあの日の出来事を全て話して男に詫び、男はそんな金がないと思ったから頑張れたと妻に感謝するのだった。
「久しぶりに」と止めていた酒を勧める女房に、男は言う。
「いや、よそう」「また夢になるといけねえ。」
これをモロッコで見せる贅沢さ……。
一男の場合は「芝浜」とはちょっと違う気もしないではないが、そもそもパーティの話に乗ってしまわなければ金を隠されずに済んだということなのかも。
しかし、せめて3千万だけは置いて行って欲しかったよね……。
一男は3千万を返すことができれば、それ以上の贅沢は別にしなかった「かもしれない」し。
とりあえず、これを言ったら元も子もないけれども、3000万もの他人の借金を負ってしまった場合は自己破産した方がいいと思う……。
私に3億当たったら。
3億持っても変なパーティは開かないと思う。
あんなことやこんなことに使いたい。
紙切れは人を狂わせもするけれども、たぶん夢もくれる。
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