お嬢さん
原題 : ~ 아가씨 ~
作品情報
監督・キャスト
監督: パク・チャヌク
キャスト: キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・テリ、キム・ヘスク、ムン・ソリ
監督・受賞
第37回 ボストン映画批評家協会賞外国語映画賞他
第69回 カンヌ国際映画祭バルカン賞(リュ・ソンヒ)
他多数ノミネート、受賞
日本公開日
公開: 2017年03月3日
レビュー
☆☆☆☆☆
観賞: 2019年7月14日(Amazonプライム配信)
2017年といったら、あの『哭声/コクソン』と同じ年の公開ではないですか。『新感染』もだ。2016年は化け物級の韓国映画が何本も生まれた年だったんだね。ああ、劇場に行きそびれたことを後悔する美しさ……。
あらすじ
舞台は1939年の朝鮮半島。支配的な叔父と、膨大な蔵書に囲まれた豪邸から一歩も出ずに暮らす令嬢・秀子(キム・ミニ)のもとへ、新しいメイドの珠子こと孤児の少女スッキ(キム・テリ)がやってくる。実はスラム街で詐欺グループに育てられたスッキは、秀子の莫大な財産を狙う”伯爵”(ハ・ジョンウ)の手先だった。伯爵はスッキの力を借りて秀子を誘惑し、日本で結婚した後、彼女をある場所に隔離し財産を奪う計画を企てていた。だがスッキは美しく孤独な秀子に惹かれ、その計画は少しずつ狂い始めていく…(『お嬢さん』Amazonプライムより引用)
原作はサラ・ウォーターズの小説『荊の城』
これを未読なおかげで楽しめた部分はあるかも知れない。
もっとも原作にどれほど沿っているのだろうかと、ついつい読書感想を検索してみたら、かなり改変されている模様。原作も緻密な構造を楽しむ本のようだけれども、ここまで悪夢的幻想世界ではないみたい。
19世紀貴族社会のイギリス、これを1939年、日本統治下の朝鮮設定に、舞台を日本に持ってきて、こんなに優美で残酷で色っぽい世界になるなんて。
これは日本映画だったらきっと出来上がらない世界だし、さすが、パク・チャヌク監督。血色鮮やかな映像に魅入り、忙しい物語展開に目が白黒(笑)
カタコトの日本語はどう評価されるべきか
そして言語をカタコトの日本語に設定することで、エロチシズムと同時に妙な滑稽さが生み出されている。
真面目に聞いていたら気が狂いそうなあの…………シーンね。マ〇コ~もチ〇コ~も、不思議とフランス語のような響きに聞こえて来るのだった。
「カタコト」がわざとなのか、頑張ってもここまでだったのかは分からないが、狙ったのだとしたら凄い演出だし、偶然の産物だとしたらそれもまた凄い。(でも日本語字幕も欲しかったのは確か)
キャストの魅力溢れる
スッキ(珠子)役のキム・テリはこれがデビューなのだそうで。『1987、ある闘いの真実』の時も可愛い人だなぁと思っていたけれども、この映画では可愛い&瑞々しい。そしてふてぶてしく強い。
主演の秀子お嬢さま、キム・ミニの第一部と第二部の違いの凄さ。正義漢でもクズでも素晴らしいハ・ジョンウ。
3人の何面もの演技を楽しむ作品でもある。
これを言っただけでネタバレになるだろうけれども、物語は二転三転します。
楽しんで。
以下ネタバレ感想と勝手な考察
物語は三部構成。
第一部 スッキ(珠子)目線の「お嬢さん」
誰でも当然、第一部から見始めるわけだから、「あれ、主演はキム・ミニになっているけれども、キム・テリじゃん。」と思うわけ。
第一部は完全にスッキ目線で、秀子は純粋で騙されやすい「深窓の令嬢」であり、スッキは藤原伯爵に化けた詐欺師と組んで秀子を騙し、大金を手に入れる……そして秀子を精神病院に押し込むのがお仕事。
スラム街で育ったスッキにとって、金持ちのお嬢さんなんて敵に等しい。日本統治下なのだから日本人なんてますます敵に等しい。
しかし、秀子はスッキを目に掛けてくれ、お嬢様ごっこまでさせてくれた。その顔は美しく、体は柔らかく、心は無垢で、人形のよう。
伯爵の嫁になるための性の手ほどき。
太古からどこの国でも姫の乳母の仕事。
キスも知らない美しい姫の唇に自分の唇を重ね、その肌に手を滑らせ……いやぁ、ドキドキした(笑)
しかし、スッキの心を完全につかんだのは、秀子の生まれの寂しさが自分と重なった時。
母上はきっと喜んでおられます。
私の母もこう言った。
「死ぬ前にお前を産めて幸運だった。」
「悔いはない。」
なのに自分が性の手ほどきをした最高に可愛い姫は詐欺師に恋焦がれて行ってしまう。
仕方なく、自分自身の残酷な夢を実現させる計画に乗って、秀子を精神病院に連れていくスッキ。
けれども……
精神病院に「お嬢さん」として送り込まれたのはスッキの方だった。
伯爵夫人の奥様は実はスッキだった?!
あ、スッキは自分が何者だか忘れてしまっている精神が壊れた人だったというオチ?
と、反転する「お嬢さん」と「女中」のシーンに唖然とする第一部のラスト。
第二部 秀子目線の「お嬢さん」
ここから、主役はやはりキム・ミニだったのだな、と理解できる展開。
秀子は子どもの頃に母を失くし、叔父の上月に、ほぼ幽閉状態で育てられている。
その「育て方」が、もう、子どもの頃から性奴隷。
卑猥な書物を朗読させ、上手く読めなければ鉄の玉を口にくわえさせ、ムチで手を引っ叩く。
長じてからは、朗読は広間で行われるようになった。
多くの紳士を集めた朗読会。
その朗読はかつては叔母が行っていたのだが、彼女はある日突然、桜の木で首を吊った。
叔母の代りとなった秀子はそこで「ま〇こ~」だの「ち〇こ~」だのという文章を不思議なアクセントの日本語で朗読するようになるのである。
笑いも泣きもせず、無表情で鉄の玉を押し込む文を読ませられている秀子。
上手くできなければ、昔、叔母の死への疑問を投げかけた時に連れて行かれた「地下室」でおしおき。
藤原伯爵は、そんな秀子を開放し、財産は山分けさせようと考えた。
「このままでは財産目当てで上月と結婚させられてしまう。私と結婚して気が狂って精神病院に入れられたと見せかけ、代りに女中を病院に送りましょう。」
そうして、代りに病院送りにさせられるべく用意されたのがスッキだった。
第一部で印象的だった、
「死ぬ前にお前を産めて幸運だった。」
「悔いはない。」
の後に、陰でプッ!と吐き出すように笑う秀子が印象的。
しかし、ここでもトラップは用意される。
卑猥な本を朗読し、男たちの慰みの人形になっていた秀子は、スッキと抱き合う事で本物の愛に目覚めていたのね。
お互いに「藤原伯爵」と組んでいたことを打ち明け、そして、新たに女同士で組み直す。
私の人生を破壊するためにやって来た救世主。私の珠子……。
スッキはスラム街の仲間に頼んで精神病院から脱出。
秀子は藤原に毒を含ませて、財産を全て自分の物に。
そうして、女2人、解放のための逃避行が始まる。胸アツの百合物語。
第三部 藤原伯爵の地下室
そもそも上月と藤原も組んでいたようで。そうでなきゃ、上月は秀子を手放さないよね。
なのに、藤原は秀子に全て持って行かれてしまった。
商売に使っていた朗読用の蔵書も、スッキが去る前にメチャメチャにしていた。
金を無くした上月の怒りは大きく、藤原は秀子が折檻されていた「地下室」で、指を切断される拷問に遭うことに……。
(でも、直視できないほど痛い目に遭わされながら、藤原さんったらとっても嬉しそうなのね……。まぁ、結局、あの朗読会に来ていたような紳士はみんなドMだよね……痛そうで嬉しそうなハ・ジョンウさんの演技が何とも言えぬ素晴らしさ(笑))
藤原は、チ〇ポを切られて殺される寸前で、上月を水銀タバコ中毒に巻き込むことが出来たのだった。チ〇ポ、守れておめでとう。
この地下室の水槽に蛸がおりまして。
恐らく、秀子はここで北斎の『蛸と海女』のようなお仕置きをされていたのだと思われる。
鬼畜な男たちの食い物にされていた女たちが解放され、勝利を手にする物語。
スッキと愛し合い、お仕置きから守るために手放せなかった手袋もやっと捨てられて、自由になる話である。
2人がとにかく可愛くて美しい、良い百合物語だった。
反日という事ではないけれど
狂った男たちから自由になる女たちの物語でもあるけれども、時代背景から考えて当然、統治からの自由も表しているだろう。
抑制から抜け出したい心は、いつの世にも当然、ある。
戦争や監視社会は、地下室の蛸に等しいということ。
魅力的な深い穴のような作品。
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