人魚の眠る家
作品情報
監督・キャスト
監督: 堤幸彦
キャスト: 篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、田中泯、松坂慶子、山口紗弥加、田中哲司、斉木しげる、大倉孝二、駿河太郎、ミスターちん、遠藤雄弥、利重剛、稲垣来泉、斎藤汰鷹、荒川梨杏、荒木飛羽
日本公開日
公開: 2018年11月16日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2018年10月16日(試写会)
日本で事故や病気で亡くなる方は毎年およそ110万人で、その1%弱の方が脳死になって亡くなると推定されています。
欧米をはじめとする世界のほとんどの国では「脳死は人の死」とされ、大脳、小脳、脳幹のすべての機能が失われた状態を「脳死」としています。イギリスのように、脳幹のみの機能の喪失を「脳死」としている国もあります。(日本臓器移植ネットワーク)
しかし、日本では人間の「死」は「心臓死」とされ、脳死判定は遺族が「死」を受け入れてからでなければ行われない。
◆あらすじ
二人の子供を持つ播磨薫子(はりま・かおるこ:篠原涼子)と会社を経営する夫・和昌(かずまさ:西島秀俊)。すでに別居状態の夫婦は、娘の小学校受験が終わったら、離婚することになっていた。そんなある日、二人の元に悲報が届く。娘の瑞穂(みずほ)がプールで溺れ、意識不明になったというのだ。医師からは「脳死」という宣告が下され、回復の見込みはないという。脳死を受け入れ臓器提供を希望するか、心臓死をただ待つのか…(Filmarksより引用)
「恐らく脳死」
原作は東野圭吾の小説『人魚の眠る家』。
「人魚」とはどういうことなのかと思ったら、ああ、痛々しい……。
「人の命が終わる時」とはどの段階なのか考えさせられる。
脳は死んでも心臓は生きている。
それが幼いわが子ならば、とても死んだとは思いたくない。
おまけに判定すらも行われない。医師の診断は「恐らく脳死」。これで子どもの命をあきらめろと言われても無理でしょう。
手放せない肉体。
徐々に狂っていく母を篠原涼子が熱演する。これが、本当にいい。等身大の母親の顔だった。
東野作品科学系
死んでいるのか生きているのか境界の分らない肉体を巡って人の思いが交差する。
娘の身体を「健康」に保つため、人工運動システムの研究をしていた星野が派遣される。
徐々に帯びてくるホラーの様相。
実は東野作品の「科学系」は映像化されると奇想天外すぎて苦手で。原作未読ながら、これもアレ系か……と少しガッカリしたのだけれども、人間ドラマの方が比重が重くて良かった。
人の愚かさや痛々しさ、それに伴う愛しさなど、堤監督作品の良い所が余すことなく生かされた一本になっていた。
大人から子役まで上手いキャスト
物語の中心に眠る個体、稲垣来泉ちゃんの存在感が素晴らしい。
無邪気に見せながら気を使っている幼い弟役の斎藤汰鷹くんも上手い。
神のようになっていく坂口健太郎くんの気持ち悪さ、悔恨の思いを抱えながら娘を見守る母を演じた松坂慶子さん、変わって行く婚約者に戸惑う川栄李奈さん、そして、変わって行く妻子をどうすることもできない夫、西島秀俊さん。
みなさん素晴らしくて。
ミステリーとしても、人間ドラマとしても、そして問題提起としても。
見る価値ある作品。
以下ネタバレ感想
自分のせいで孫が死んでしまったと、ただただ悔いる祖母がいて。
傍観的に妻子を見てしまう夫がいて。
自分が肉体を作った「父」のような気持ちになってしまっている研究者がいて……。
彼が神か悪魔のようになってしまったことを恐れる婚約者がいて。
大人たちが「不謹慎」を口に出せずに、それぞれの思惑の中で見守っている中、子どもたちはただ傷ついていた。
死んでいるのか生きているのか分らない姉に戸惑う弟。
そして、伯母の家族が壊れていくのは自分のせいだと言い出せなかった姪。
様子がおかしかったのは、「気持ち悪い」と思い始めたからではなかった。
どうしようもない運命の軋みにみなが巻き込まれていた。
「人は二度死なない!」
人がこれを「生きる死体」だと言うなら、心臓を刺したら殺人犯になるのか。
自分は娘を殺した事になるのか。
罪になるのなら本望だ。「生きている」と判定されたことになるのだから。
人は二度死なない。
刺したら瑞穂は本当の死を迎えるはずなのだから。
ハッキリしない「死」の判定。
自分が育ててきたのは、連れまわしてきたのは「死体」だったと言うのか。
娘を失いたくない気持ちが痛いほど伝わった。
脳死判定を受けることに決めて。
進藤医師は言う。
「心臓が止まることが「死」ならば、お嬢さんは生き続けますね。誰かの身体の中で。」
「人は二度死なない」のではなく、移殖をすれば「人は二度生きる」。
この結論に涙が溢れる。
構成としては、葬儀の医師の言葉でピタッと終わってほしかった気もするし、せめて、ハートの木を見つけたシーンで切ってほしかった気もする。瑞穂がドナーとなった子どもの部分は蛇足だと思った。
そういう泣かせ要素の引張りには辟易とする部分も少しあるのだけれど、それを差し引いても決して軽くはならない良作。
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★前田有一の超映画批評★
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