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『日本で一番悪い奴ら』坩堝に落ちる

日本で一番悪い奴ら

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監督: 白石和彌
キャスト: 綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄、ピエール瀧、中村獅童、青木崇高、中村倫也、音尾琢真、矢吹春奈、瀧内公美、田中隆三、みのすけ、勝矢、斎藤歩、木下隆行、是近敦之、小林且弥、長田成哉、松岡依都美、白石糸、高阪剛、信太昌之、地曳豪、大西信満、椎名香織、美泉咲、佐久間真由、武田幸三、菊野克紀、宮本浩二、中村宙矢、島岡亮丞、末吉司弥、山田将之、野中隆光、山川就史、草野浩之、NARU、坂本あきら、市オオミヤ、大村明華織、シブリ、加藤貴宏、樋江井梓利沙、竜のり子、宮川連、高井尚樹、税所伊久磨、鈴木雅成、芝原啓城


公開: 2016年6月25日  観賞: 2016年6月29日

 

主題歌のスカパラ「道なき道、反骨の。」がテレビから流れて来るだけで、何とも言えない気持ちになる。

なぜか、それは郷愁感に近い。

それがどんなに酷いことでも、酷い結果になっても、仲間がいて一緒に何かに向かっていて盛り上がって…それって青春なんだよね。

◆あらすじ
柔道で鍛えた力を買われて、北海道警察の刑事になった諸星要一(綾野剛)。裏社会に入り込んでS(スパイ)をつくれという、敏腕刑事・村井の助言に従い、Sを率いて「正義の味方、悪を絶つ」の信念のもと規格外の捜査に乗り出す。こうして危険な捜査を続けていった諸星だったが……。(シネマトゥデイより引用)

 

『凶悪』の白石和彌監督。あれも実録事件を元にした作品だったが、これも同じく。

予告映像を見る限りではPOPなコメディっぽく映るかも知れないが、これはこれでなかなか苦い。

もちろん、笑える部分も多々あるが、笑いながらも口の中で砂を噛んでいる感覚。結果的には、やっぱり眉間にシワが寄る。だって、犯罪だもん。

『凶悪』は映画としては面白かったものの、実在の事件がただただ残酷になぞられている以上の物を得られなかった気がしていた。この監督はとても真面目な人なのだろうなぁと思った。

今回も「ああ。真面目な人なんだろうなぁ」と思いつつも、『凶悪』よりも遥かにエンタメしている。2時間越えの作品、中弛みなく楽しんだ。

この作品でニューヨーク・アジア映画祭、ライジング・スター賞に輝いた綾野剛のクズ演技は本当に素晴らしかった。

NHK朝ドラ『カーネーション』の周防さんで全国の奥様を虜にするまではクズ役がほとんどだった綾野剛。愛しの黒服星人である。やっぱり上手いね。惚れ惚れするわ。♥
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クズと言っても、同情しようのないサイコパスではないんだもの。
「人間」なのだ。どうしようもなく。ここに誰でも陥るかもしれない坩堝がある。

人間、勢いに乗りすぎていると周りが見えず善悪すら解らなくなるらしい。
ポップな曲に乗ってエスカレートしていく犯罪。本人は間違っているとも思ってないのね。ある意味行き過ぎた「社畜」ってやつ。
嫌いな言葉だけど、ラストのこの人を見てまさにそれだと思った。
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綾野剛は元々大好きで注目しているので、そこはともかく。
太郎役のYOUNG DAISがとても良かった。
気づけばこの人を中心にストーリーを追っていた。

暴力に屈してとかではなく、心底「オヤジ」を慕うひたむきな姿勢に哀れみと愛しさを感じる。
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たぶん、この人が一番幸せだったと思うんだよ。数々の犯罪に手を染めつつも仲間を信頼して上へ上へと登っていた時期。

それは、見ている方からすれば明らかに奈落へ突き進んでいる道なのだけれども、本人にとってはきっと楽しかっただろうと思うんだ。
だから、この人の気持ちを考えると泣けてしまう。

笑いながらも緊張感と奈落への予感を常に感じ、恐怖に怯えつつ悲哀を楽しむ…POPなフィルム・ノワールである。

作品は元北海道警察警部・稲葉圭昭氏の手記をモチーフにしている。(稲葉事件 – Wikipedia)

だから、ラストのテロップに暗澹たる思いに襲われる。

こんな国でいいの日本……。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

スポーツ特待で道警へ入り、先輩から怒やされ、馬鹿にされ、尻を叩かれる。

警察官としてやる気はあるから、先輩のアドバイスに従って深く暗黒世界に足を踏み入れた。先輩に成り代わって裏社会との繋がりを仕切るようになるシーンへの一瞬の移り変わり。どんどん派手になっていく服。自信満々な歩き方。見事。

初めはそうなりたかったはずの「犯罪を倒し市民の安全のために努めること」

それは、いつしか「摘発の数を上げること」に替わってしまう。
どの企業でもある、目の前に見える数字を上げるという成績至上主義。

「銃の摘発」が海外から買ってきた銃の数になってしまうとは、ビックリだわ。しかも、それが個人の采配ではなくて警察公認の行いである事にビックリだわ。公の闇金なんて物が本当に存在するとはビックリ……。

中央と道警の数争い、より多くの数を上げるための裏工作、ヤクザも警察も手を携えての犯罪。これが犯罪摘発の実態なのだとしたら、市民の安全なんてどこにもない。

もちろん、一部が全部だとは言わないけれども、この件、このままでお終いなの信じられない。

『トガニ』のように、この作品が切っ掛けになって声が大きくなり正されるということはないのだろうか。

初めて麻薬に手を染める時の諸星の表情がリアルで凄い…それを打つ太郎の辛い表情も…。信頼が全部崩れたのはこの時。

テロップは公園で首を吊った上司も、拘置所で死んだ太郎も「死亡」と記している。「自殺」とは表記していない。自殺じゃない…きっと。

ヤクを持って逃げたという黒岩ももう生きてはいないだろう。

悪事の絶頂にあっても、4人で楽しかった頃の笑顔が懐かしい。

そう思いながら聞くEDに泣けた。

『日本で一番悪い奴ら』公式サイト

 

 

日本で一番悪い奴ら [ 織川隆 ]
価格:756円(税込、送料無料)

 

 

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価格:1728円(税込、送料無料)

 

 


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★前田有一の超映画批評★

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comment

  1. BROOK より:

    >『凶悪』よりも遥かにエンタメしている。
    これも綾野さんの演技の賜物でしょうか♪
    彼の弾けた演技がなかったら、ここまでエンタメ性が強くなかったと思います。
    ほんとテンポ良くって、最後まで一気に観ることの出来る作品に仕上がっていましたね。
    それにしても、銃の摘発がまさか自作自演だったということには驚くばかりです。
    道警はこの作品が公開されて、どう考えているのか、気になりました。

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