ヒトラーに屈しなかった国王
原題 : ~ Kongens nei ~
作品情報
監督・キャスト
監督: エリック・ポッペ
キャスト: イェスパー・クリステンセン、ツヴァ・ノヴォトニー、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、カール・マルコヴィクス、カタリーナ・シュットラー、アーネ・ケーラー、アルトゥール・ハカラーティス、ヴェイン・ティンドベルグ、ケティル・ホーグ、ゲラルド・ペッテルセン、ヤン・フロスタッド、エリック・ヒヴュ、ソフィー・ファルクゴール、イングリッド・ロス・ラフテモ、マグヌス・ケーティルソン・ドビー、ロルフ・クリスチャン・ラーセン
日本公開日
公開: 2017年12月16日
レビュー
☆☆☆
観賞: 2018年9月17日(DVD)
◆あらすじ
1940年4月9日、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻。ドイツ軍の攻撃に交戦するノルウェー軍だったが、圧倒的な軍事力によって、主要な都市は相次いで占領される。降伏を求めてくるドイツ軍に対しノルウェー政府はそれを拒否し、ノルウェー国王のホーコン7世は、政府閣僚とともにオスロを離れる。一方、ドイツ公使は再度の降伏要求のため、ノルウェー政府に国王との謁見の場を設けることをつきつける。翌日、ドイツ公使と対峙した国王は、ナチスに従うか、国を離れて抵抗を続けるか、家族のため、国民のため、国の運命を左右する究極の選択を迫られるー。(Filmarksより引用)
第二次世界大戦下、北欧の歴史を学ぶ
ホーコン7世
ホーコン7世は、デンマーク国王と王妃(スウェーデン=ノルウェー国王の娘)の次男としてデンマークで誕生した。そして、ノルウェーがスウェーデンから独立したために、ノルウェーの国王として選出された。即位の時は33歳。後継ぎとなるオーラヴ5世も連れての即位となった。
国民投票によって王になる?
投票によって王になったといっても、別に大統領や首相の選挙のようにそこら辺の国民がヒョロッと選出されるわけではなく、当然、王家の血筋であるから「承認された」という形。
ホーコン7世のお家はグリュックスブルク家という由緒正しいお家柄で、デンマークとノルウェーの現国王はこの家系の方々にあたる。
なぜデンマークから王を迎えたのか
本当にザックリと書くと、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーは元々が親戚(というわけではないけれども、ザックリだからザックリ)のようなもので、古くから争ったり婚姻関係を結んだり、争ったり、支配したりされたり……しているわけなのだった。
14世紀には三国はマルグレーテ1世という女王様(正確には女王じゃないけれどもザックリなので)によって1つにまとめられ、16世紀にスウェーデンが独立するまで同じ王によって治められていた。
そんな中、デンマークやスウェーデンの共同統治下にいたノルウェーは、1905年に独立する。
父はデンマーク王、母は元スウェーデン王女、兄も後を継いでデンマーク王だったホーコン7世が、独立したノルウェーの王に治まるのはごく自然な流れのことだった。
ちなみに、「ホーコン」はノルウェーに伝わる王の名で、現王太子の名もホーコンである。
立憲君主制王国
独立時からすでにノルウェーは立憲君主制王国であった。つまり「王は居るけれども政治は国民(議会)が行う」という、日本と同じ形。
しかし、日本は戦時中は君主制の国だった。
ノルウェーは戦時中からすでに国を治める絶対的な権限は持っていなかったのである。
つまりナチスドイツは「立憲君主制だから政治的絶対権限は持たない国王」に対して国の命運を決めさせるという難題を押し付けてきたのだった。
歴史を踏まえての感想
なぜ長々と歴史解説したのかというと、劇中のストーリーだけでは理解できないと思ったから。
つまり、ノルウェーは何世紀にも渡る他国の支配からやっと独立したところだったのだ。
ずっと独立したかったのである。
なのに、ここでナチスの支配下に入ったら、また他国の物になってしまう。
ホーコン7世は、自分を国王に選んでくれた国民の、その気持ちを誰よりも理解していた。
国民のためにも国は売れない。
何度も何度も「祖国のために祖国のために」という言葉が出て来るが、ここに詰まった思いはこの国の民でなければ理解できない合言葉。ドイツ公使は頑張ったけれども、そこは考えられなかった。
上から目線の「ウチがちょっと緩い条件で助けてやるから」交渉。
だから言われてしまう。
この国の未来はこのような密談では決定されない。
投票で決まるのだ。
あくまでも「祖国の意志」を大切に考える。
この決断は正解だったのか
歴史上の事だから正解も不正解もないわけだが、上にも書いた通り。余所の国の物になるのがもう嫌ならば、Nein!と言うしかないわけで。
この後、王はイギリスへ亡命するわけだけれども、それは無責任でも何でもないと思うし、国民はそれで良かったと思う。
だって、国王はすでに「国」そのものなのだから。
駒が全部取られてしまっても王将が残っていれば勝負は終わらない。「国」が生きていれば国民は安心できただろう。
ドキュメントのよう
全体的に余計な音楽もなく、淡々と、でも正確に事実を伝えるように描かれた作品だった。
陸戦も空襲も迫力があり、祖国と国王のために戦う人々と、国民のために闘う国王の姿が愛情深く映し出された。
王室一家の家族物語としてもところどころ涙誘われ。
そして同じように皇室を戴く国の国民としても、ちょっと考えさせられたのだった。
あまり取り上げられない国だけに、興味深い一本。
|
・ヒトラーに屈しなかった国王@映画生活トラックバック
・象のロケット
★前田有一の超映画批評★
◆Seesaaのトラックバック機能終了に伴い、トラックバックの受け付けは終了させていただきました。(今後のTBについて)
comment