女王陛下のお気に入り
原題 : ~ The Favourite ~
作品情報
監督・キャスト
監督: ヨルゴス・ランティモス
キャスト: オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーン、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、マーク・ゲイティス
受賞
日本公開日
公開: 2019年02月15日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2019年2月20日
三つ巴、それぞれに魅力的。魅力的でラストまで恐い!
賢くて思い上がった女、頭の中まで下品で短絡的思考の女、老害女。
「勝ったと思ってるの?」
誰が勝ったと言えるのだろう。
あらすじ
18世紀初頭、フランスとの戦争状態にあるイングランド。人々は、アヒルレースとパイナップル食に熱中していた。
虚弱な女王、アン(オリヴィア・コールマン)が王位にあり、彼女の幼馴染、レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)が病身で気まぐれな女王の世話をし、絶大な権力を振るっていた。
そんな中、新しい召使いアビゲイル(エマ・ストーン)が参内し、その魅力がレディ・サラを引きつける…(Filmarksより引用)
「コメディ」らしい
『ロブスター』の時にもヨルゴス・ランティモス監督は「コメディだ」と言っていて、今回も「コメディだ」と言っている。
これがコメディだとしたら、どんだけ腹黒いんだ、どんだけ~~?と、私の中の誰かが叫び出すのである。ラストのアレの大群描写ときたら、もう、震えるほど笑えるんですけど。
個人的にはEDに流れるお歌が今一つ世界観にマッチしていない気がしたのだけれども、あの違和感含めてコメディなのかも知れない(笑えない。泣く。)
テレビCMでは「大奥」と宣伝されていたけれども、まぁ、確かに……王の身の回りだと考えたらそうとも言えるかも。
アカデミー賞受賞は逃すも美しい意匠
ノミネートされていた美術賞も衣装デザイン賞も逃したけれども、ウットリする美しさだった。建築・調度・衣裳……全て、美しく冷たい。気品と厳格さ溢れる背景の中のドロドロ物語はえげつない。
表情コロコロかわるエマも、上品で冷たいレイチェル・ワイズも美しかった。世界観にピッタリマッチ。
物語の中に「男」の雄姿はほぼ無く、女がカッコ良く、またカッコ悪い作品。
史実はきちんと踏んでいる
登場人物は一応、誰一人として架空の人物ではない。
アン女王と歴史的評価
イギリスの歴史上、エリザベス一世やヴィクトリア女王は有名だが、アン女王はあまり注目されていない気がする。けれども、イングランド・スコットランド同君連合国から、合併してグレートブリテン王国に変わる過渡期に居た王であり、つまり、イングランド王国最後の君主。そしてグレートブリテン王国最初の君主ということになる。
イギリスでは「女王の御代は国が栄える」と言われていて、アン女王の時代も例外ではない。
スペイン継承戦争では多くの勝利を挙げ、この映画の中で描かれる「決断」によって戦争を終結させた。
17回妊娠したが全ての子が育たず後継を自分の血筋に託せなかったが、「ステュアート家の血を引く者(ハノーファー選帝侯妃ゾフィーの子孫)でイングランド国教会信徒のみが王位継承権を持つ」という王位継承法を制定して、王位争いの種を摘んだ。
妊娠・出産が上手く行かなかった背景には虚弱体質があり、それは作品内で描かれている。
ダイアナ妃の先祖・マールバラ公爵夫人サラ
マールバラというのは爵位であり、本名はサラ・チャーチル。あのウィンストン・チャーチルの先祖であり、ダイアナ・スペンサーの先祖にもあたる。
映画の中のストーリーのような事があったかなかったかは分らないけれど、女王との交流関係は大よそ正しく……まさに女王陛下のお気に入りの位置を独占していた女性。ちょっとフランス・ルイ16世妃アントワネットとポリニャック夫人を思い出した。
もっとも、映画の中のサラはポリニャック夫人よりも遥かに王家に誠実な人だったけれど。
アビゲイル・メイシャム
創作のような彼女の存在も実物のモデル付き。
あんな人だったかどうかは分らない(笑)
孤独な老害
権力者は常に孤独であり、どんなに身分が高い人でも求めているのは優しい理解者である……という人間の本質を描き出した作品。
嘘を言わない厳しい親友か。
とりあえず気持ちのいい優しさを振りまいてくれる崇拝者か。
弱った身体と心にどちらが幸せをくれるか。
……という虚しい話。
ラストのリンク映像が本当に恐ろしい。
ゾワゾワするホラーのような名作(コメディ)。
以下ネタバレ感想
「ウサギはウサギ」と言い放っていたサラも、権力が弱くなればウサギに挨拶をする。
大切なウサギを足で踏むエセ親友は、女王に足で踏みつけられる。
ウサギは女王の心そのもの。
大切な思い出であり、愛情の量り。
サラがウサギをもっと大切に愛おしんであげていたら、そういう性格だったら、もっと信頼されていたのかもしれない。
サラに対する女王の愛は深かった。けれども、サラはその幸運に慣れ過ぎた。
釣った魚にエサをやらなければ逃げられるのは当然で。
アビゲイルがウサギを踏みつけるような娘じゃなかったら、もっと女王の寵愛を受けられたのかというと……彼女の愛は初めから全て自分自身のためだけのものなので、それもないだろう。
かくして、女王は追い出した親友を後悔しながら、嘘つきな親友の頭を踏み続けるのである。
サラ・チャーチルはアン女王の死後、イングランドに戻るも宮廷には復帰しなかった。
けれども、後継のジョージ1世は夫を取り立て、自らは爵位の存続に力を尽くしたらしい。(おかげさまで上記したようにマールバラ公は続き、首相を出したり、血縁関係から王妃を出したりしている。)
アビゲイル・メイシャムはアン女王の死と共に宮廷を去り、メイシャム男爵という爵位も消失した。
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