エリカ38
~ ERICA38 ~
作品情報
監督・キャスト
監督: 日比遊一
キャスト: 浅田美代子、平岳大、窪塚俊介、山崎一、山崎静代、小籔千豊、古谷一行、木内みどり、WORAPHOP KLAISANG、菜葉菜、鈴木美羽、佐伯日菜子、真瀬樹里、中村有志、黒田アーサー、岡本富士太、小松政夫、樹木希林
日本公開日
公開: 2019年06月07日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2019年6月12日
数字が入ったタイトル作品は神秘的で好きなのだけど「38」ってそういう意味だったのか………無理やろ!!と心の中で叫んだ。
故・樹木希林さん、最初で最期の企画作品ということで、とても興味があった。
あれだけ多くの作品に出演してきた希林さんが撮りたかったものとは、どういう作品なのか。ふーーん……なるほどーー…という感想。
あらすじ
渡部聡子・自称エリカ(浅田美代子)は、愛人・平澤育男(平岳大)の指示のもと、支援事業説明会という名目で人を集め、架空の投資話で大金を集めていた。だが実は、平澤が複数の女と付合い、自分を裏切っている事を知る。彼女は平澤との連絡を絶つと、金持ちの老人をたらし込み、豪邸を手に入れた。老人ホームに入っていた母(樹木希林)も呼び寄せ、今度は自ら架空の支援事業の説明会をおこない金を詐取していく…(Filmarksより引用)
実話ベースの物語
2017年4月。山辺節子という日本人女性がタイで身柄を拘束され、日本への空路移送中に機内で逮捕される。容疑は出資法違反。
モチーフとなった山辺節子の詐欺事件とは
“つなぎ融資”という名目で20億もの金を集めたという女。そういえばテレビで見たなぁ……と思い出した。
詐欺うんぬんよりも、ド派手なスタイルと「60代!?」と驚く容姿が世間を騒がせた。
本作の渡部聡子は、その山辺節子をモデルとして描かれているらしい。
「私も被害者なのよ」
テレビで見た山辺節子よりも派手さが少し控えめな浅田美代子の渡部聡子。
物語は、手記を書くための被害者インタビューを挟みながら、割と抑揚無く進んでいく。
前半は聡子と組む平澤育男のオーラで成りたち、後半は聡子自身の狡猾さと滑稽さが見どころ。
オレオレ詐欺のニュースなどを見ていて、よく「なぜこんな単純な話に引っかかるのか」と不思議に思ったりするけれども、結局は話術の上手さとオーラに引っかかるのだろう。
言っていることは、何だかメチャクチャだもんね。何に「投資」しているのかよく分らないままお金を出してしまう被害者たち。
お金の力と欲と妄信……。
人間の愚かさがガッツリと見える「軟禁」パートが面白い。
悪魔のように尊大で、しかし恰好よく、実は滑稽な愛人を演じた平岳大が素晴らしく上手い。
「私も被害者なのよ?」「なにがいけなかったの」と言い張る聡子を演じた浅田美代子も絶妙なキャスティング。浅田さんが無邪気に笑いながら演じると心の底から騙されているように見える。
樹木希林さんが浅田さんのために企画したというのも分かる気がする。
樹木希林という「女」
樹木希林さんの出演映画は生涯110作を超える。(出演作としての遺作は、これから公開されるドイツ映画『ゴンドラの唄』)
そんな樹木さんが「企画」した題材とはどのような作品なのだろうかと。個人的にはただそれだけの興味で見た。
結婚後1年半で家を出て行き自由奔放に生き、勝手に離婚届を役所に提出するような夫と意地でも別れず、「妻の座」を保ち続けた。
けれども夫を恨んではおらず、感謝し続け、支えて生きたうんぬんと……
亡くなった当時は、いいニュースがたくさん流れてきたけれども、私には希林さんの生前密着番組などを見ていて、そんな割り切った風には見えなかった。
『万引き家族』のレビューにも書いたけれども、私があの映画の中で違和感を持った、「浮気して離婚した夫の再婚先の子供の家」に金を貰いに通うシーン。
あれが希林さんの発案だと知った時に「ああ」と思ったのである。
ああ、割り切っても許してもいない、この人はこうしたい人なんだと。
そして、この映画の中にも「女」は見えた。
ああ、こうしたかっんだと。
実際にした事があったかも知れないし。
意地悪な見方なのかも知れないけれども、別れたがって出て行った夫を恨みもしないで妻の座を守る女よりも、きちんと恨み節を見せてくれる女の方が人間らしい。
大女優が普通の女で良かったと、私はそう思っている。
映画の感想とは違うかも知れないけれども、私はそういう意味で大変面白く観た。
以下ネタバレ感想
平澤育男という男も、あの黒幕の女社長も、一体どこへ行ったのか。
実際の事件でも、山辺節子の愛人であったらしいその男は別に捕まっていない。
では、渡部聡子は誰に騙されたのだろう。
「監禁」パートで、被害者の怒号の嵐になっているというのに、まだ「投資」させようとしている聡子。
言っていることは間違ってはいないのよね……「私はただお金を集める係だっただけ」「どうなっているのかよく分らない」「上に聞かないとどうにもならない」。こんなに実体のないものに振り回されていたこの被害者たちの方にも驚くわ。
そして、殴り殺されてもおかしくないあの状態から、まだ客を引き留めて金を出させようとする姿に本当に驚くわ。
「お母さん、一緒に死のうか」
と問うて、
「いやぁ……私はいいわよ」
とご遠慮申される。
このシーン以外で、聡子に哀れさを感じる間はなかった。
エンディングで流れる実際の被害者のインタビューでも、お金が悪いのであって彼女も可哀想みたいなことを言っている人がいましたよね。
こうなっても、なお庇われるって、本当に凄い女。
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