ディアーディアー
作品情報
監督・キャスト
監督: 菊地健雄
キャスト: 中村ゆり、斉藤陽一郎、桐生コウジ、染谷将太、菊地凛子、山本剛史、松本若菜、柳憂怜、政岡泰志、佐藤誓、信川清順、川瀬陽太、木村八重子、菅野久夫、井原道、池下リリコ、村上ユキヒコ、小笠原治夫、川連廣明、隅田恵里子
日本公開日
公開: 2015年10月24日
レビュー
DVD観賞: 2016年6月9日
「ディアーディアー」は、初めは「Dear Dear」なのかと思っていたの。
「Dear Deer」だったんだね。
シシガミさま?いいえ、リョウモウシカ。
あらすじ
◆あらすじ
山間部の地方都市、幻のシカを発見した3きょうだいは有名人になるが、虚偽だったとみなされてしまう。25年後、町に残った長男・冨士夫(桐生コウジ)は家業の工場が抱える借金を背負い、うそつきと言われたことがトラウマとなった次男・義夫(斉藤陽一郎)は精神病棟で生活し、妹・顕子(中村ゆり)は駆け落ちして上京した。ある日、父親の危篤をきっかけに義夫と顕子は10年ぶりに帰郷するが……。(シネマトゥデイより引用)
シッカリしていそうでどん底な兄。メンタルの弱い弟。奔放そうで自由になれない妹。ダメなアラフォー、アラサー?兄妹の物語。
感想
近年、ダメな大人の物語が多いような気がして御時世なのかなぁと思っていたのだが、つい最近見たドラマのおかげで向田邦子の『阿修羅のごとく』を思い出す機会があり、普遍的なものなのだと思い直した。
まぁメンタル的な部分では徐々に徐々に弱くなっているのは確かだけれども、年を取ろうが結婚しようが親になろうが、人間、どこか愚かなもんなんだろうな、と。
一生懸命生きてるつもりで(あるいは一生懸命生きることを投げ捨てて)空回りしている人たちの物語は好きだ。
好きだ、というよりも、まるで自分を見ているように切なくてバカバカしくなってくるから。だから、笑いながら泣く。
これも、そういう作品だった。
「ぜんぶ、シカのせいなんだーー!」という過去に縛られたまま、父の危篤に際して久々に集まる解散家族の思い出手繰り寄せ。
昨年、亡くしたウチの父の葬儀を思い出した。色んなシーンがアルアルだった。
昔の昔の事まで、ぜーーんぶ振り返って闇になって襲って来るから葬式は本当に怖い。振り返りは恐い(笑)
過去が何か足枷になっていて、そのせいで進めない人生。
甘えられるものが無くなった時に始まるのかも知れないと、自分が常々思っていたことがストーリーの中に描かれていた。
カオスな状況を面白くしているのは、三兄妹の演技あればこそ。
斉藤陽一郎さんの義夫がね…もう、ホント、見ていてイライラした(笑)身内に居るので、こういう人が。本当に上手いわ~。
桐生コウジさんの長兄・冨士夫はお母さん的立場。お父さんを看取ってきた苦労が病室でのワンシーンで表現されていた。
中村ゆりさんの顕子が本当にイケスカナイ美人で(笑)しかし、こんなに色っぽいバストの持ち主だったとは~今まで見たどの作品でも気づかなかった!
怒鳴り声が交差する多くのシーンよりも何故か印象に残る数少ない自然の沈黙。
優しさを引き出したり、ホラーのような音にドキッとさせられる劇伴から、EDの主題歌まで、岡田拓郎さんの音楽も良かった。
これが長編初だという菊地健雄監督作品。
混沌とした世界の中に一筋、山の上からの優しい視線を感じたわ。
騒々しくもユーモラスで優しい。良作。
以下ネタバレ感想
闇だと思っていたことが逆に家族の絆だったり、ぜーんぶシカの…だと思っていたことが自分のせいだったり、そういう「気づき」の物語。
兄妹の父は最後まで映さない。
この人の育て方や、この人が作ってきた「家庭」が子どもたちの人生に大きく影響しているはずなのに。
兄妹にとっては、実家=父=リョウモウシカ なんだろうな。
振りかえりたくない過去。追って来る過去。
けれども、カメラを覗く父の笑顔は覚えていたりするのである。
殴られて育てられた思い出も、その人の死によって浄化される。美しい思い出に気持ち悪いほど変わっていく。我が実家も体験したばかりなのでよく解る(笑)
病室で父の呼吸器を外そうと手を掛ける兄。
介護に苦しんだ経験のある人ならば、あれも理解できる部分だろう。
よく解っている脚本だなぁと思った。
親を失った時に初めて子どもは大人になる。
大人に成りきれずに嘆いてわめいて鹿のせいにして…
不倫殺人も空き巣も狂乱も、停電に救われる。
通夜であんなことになっちゃって告別式はどうするんだよ、と思ったら、ボロボロの大人になった三人の葬列。
工場がダメになったって、離婚したって、まだ不安定だって、シカが居たって居なくたって。この人たちはこれからは大人の顔で生きていける。そう思った。
ダメな大人でも生きていていいんだって思える作品だった。
過去ときちんと向き合えば、家族はきっと絶滅しない。
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