長州ファイブ
監督: 五十嵐匠
キャスト: 松田龍平、北村有起哉、山下徹大、三浦アキフミ、前田倫良、寺島進、増沢望、原田大二郎、泉谷しげる、榎木孝明、田中俊、綱島郷太郎、矢島健一
公開: 2007年2月10日
2015年6月27日。動画観賞
今月いっぱいで無料配信が終了する他の映画を見るつもりでGYAO!に行ったら、これが偶然目に入ってしまい、ついつい見てしまった。。もちろん、本年の大河ドラマ『花燃ゆ』繋がりである。初見。
『花燃ゆ』視聴で、せっかくの長州目線の幕末を堪能できない苛立ちに襲われているあなた。脳内映像補填として、これは見ておくとよろしいかと。
あの大河では味わうことができない幕末の志士キャラの熱さも滑稽さも可愛さも味わえる、かも。想定外に面白かったわ。
◆あらすじ
文久3年(1863年)攘夷の嵐が吹き荒れる幕末。長州藩主から洋行を言い渡された志道聞多(井上馨)と山尾庸三、遠藤謹助、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)の5人は「生ける器械」となって技術を取り入れ、国に持ち帰って藩を強くするために英国へ留学する。そこで見た物は到底今すぐ追いつけるとは思えないほど発展した文明であり、彼らは次第に異人を追い出そうと図る日本の無謀さに気づいていく。
歴史を元にしたミステリーやサスペンスなどという部類では無く、ほぼ史実を描いているだけなので(盛ってはいるけれども~)、このレビューに関してはネタバレ欄は特に設けません。(史実がネタバレだって方には、もう、すいませんねとしか言えない。。)
「長州ファイブ」って戦隊ヒーローみたいじゃね?
…と、初めて聞いた時はたぶん誰でも思っちゃうわけだが、ロンドン大学にはこの名称で(「Choshu Five」)碑が建てられているので、あちらの方が付けて下さった本格イングリッシュ名称なのである。顕彰碑が建てられたのも日本よりもあちらの方が先らしい。何だかカッコいいよね。
なのに日本ではほぼ無名のような扱い。もしかしたら教科書にも載っていないかも。あんな時代に命の危険を冒してまでも海の外に旅立った若者たちがいた。その事実…もっと現代の若者にも知らせた方がいいと思うんだけど。
・志道聞多(井上馨)… 外交の父
・山尾庸三… 工学の父
・遠藤謹助… 造幣の父
・伊藤俊輔(博文)… 内閣の父
・野村弥吉(井上勝)… 鉄道の父
一番有名なのは、それこそ必ず教科書に載っていて昔の千円札にもなっていた伊藤博文であろう。けれども、5人が5人とも激動の時代を生き抜き明治政府で活躍し、留学で得た知識と技術を国に伝えたのだから本当に素晴らしい。
物語はほぼ山尾庸三(松田龍平)を主役として進行する。ここがなかなかいいな、と思った。伊藤博文じゃないんだよ。
もっとも伊藤博文は1年もロンドンに居らずに帰国してしまうので、留学を描こうと思ったら主人公としては確かに不適当なのである。伊藤を主人公にしない代わりに、この作品からは馬関戦争などの日本の情勢はバッサリと削られている。それでいいと思うのだ。描くところは絞らなければ描ききれないものね。
当方、長州五傑に関しては本で読んだのみだったので、映像で見る留学生活は大変新鮮だった。現行大河でスルーされたエゲレス公使館焼き討ち事件もガッツリ描かれてます。
悪そうな高杉と久坂も燃える公使館を見ながら笑ってたよ…。どうしてこれをスルーしてしまうんだ、あの大河は…ぃゃ、今は大河の事は関係ないから……。
このイギリス公使館焼き討ち事件、長州藩士の仕業だろうと解っていながら幕府のお咎めなしだった点など疑問でいっぱいだったのだが、この作品を見たら何となく理解できたわ。
伊藤と井上があまりにも早く帰国してしまったのも「国のため」と言われても今いちピンと来ていなかったのだが、この映画を見たらその熱い思いが解った気がする。
死罪になるかもしれない危険を冒して密航して来たのにすぐに帰る。当然学業は半ばだ。それでもこの国の文明の発達の凄さを国に伝え、無駄な戦いを止めなくては…。元より、危険な中、ここまで来たのも国のため。また帰っていくのも国のため。
学業を遂行して「生けるきけえ(器械)」となって技術を持ち帰る目的は友が必ず果たしてくれる。この信頼感。
今までずっとただのテロリスト集団のように思えていた長州藩士がとても愛おしく見えた。
初めて乗った汽車に子どものように喜び、30年も前から走っているという驚きであちこちいじりまくる長州5…ほら、ちょっとカワイイ…。
勉強熱心な彼らを人種差別するよりも助けてくれるロンドンの人たちの姿も観ていて嬉しかったわ。なんか感謝してしまった…日本人として。。
ウィリアムソン夫人の世話で写真を撮るシーンは感動ものだった。最初、棒のように突っ立っている姿も笑えたし…。
夫人のいう通りにセッティングされて…。
これが出来上がるのね。
有名な長州ファイブのあの写真である。こんな話があったかどうかは解らないけれども、このシーン、好き。夫人のセンスと人柄が窺える。
実際にはこの洋行前に伊藤と山尾も暗殺に関わったりしているので(映画ではそこはスルー)、全く善良で無垢で純真で可愛くて…という人たちではないのは解っている。
しかし、この作品の中で、彼らはちゃんと私がずっと思っていた事を口にしてくれていた。
「攘夷っちゅなあ、異人を斬ることなのかのう。」「無人の公使館を焼き討ちする意味はあるのかの。」「こねえなことして幕府困らせてなんになるんかのう。」
もちろん、これらのセリフは監督が疑問に思っていた事を登場人物に言わせただけだろうけれども。こういう冷静な人も当時居たのだ…居たかも知れない、と思わせてくれたのは嬉しい。
日本は自分たちの国力が外国の文明の発達から遠すぎる事に全く気付いていなかった。戦えば勝てると思っていた。命を失っても国と誇りのためなら惜しくないと考えていた。
長州ファイブは技術や文化だけではなく「生きて」「現実を見て」何ができるかを留学で学んだのだ。
山尾庸三が日本へ持ち帰ったものの中に「手話」がある。
この話に関して、作品中ではちょっとロマンティックなエピソードを創作している。もっとも、山尾さんがなぜ聾唖学校設立に燃えまくっていたのかについて本当の理由は特に語られていないらしいので、事実は解らないよね。こんな事があったのかも知れないし……なかったかも知れない。
このエピソードについては賛否あるところだと思われる。個人的には 嫌いではない。
映像的にはスクリーンで見るとまた違うのかもしれないけれども、小さい画面で見た限りではセットも良かったし、船での苦労も新しい世界に沸く高揚感も映像で味わえた。安川午朗さんの劇伴も良かったわ。
長州サイドから見た幕末、初めて「至誠」を感じましたよ、松陰せんせー。
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