沈黙-サイレンス-
原題 : ~ SILENCE ~
作品情報
監督・キャスト
監督: マーティン・スコセッシ
キャスト: アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、片桐はいり、山田将之、美知枝、伊佐山ひろ子、三島ゆたか、竹嶋康成、石坂友里、佐藤玲累央、洞口依子、藤原季節、江藤漢斉、菅田俊、笈田ヨシ、 寺井文孝、大島葉子、西岡秀記、青木崇高、SABU、渡辺哲、AKIRA、田島俊弥、北岡龍貴、中村嘉葎雄、高山善廣、斎藤歩、黒沢あすか
日本公開日
公開: 2017年1月21日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2017年2月6日
煩い劇伴に物語が持っていかれる事はなく、神の沈黙が人々を苦しめる音だけが響く試練の時間。
ずっと祈る姿勢で観た。
神の声を伝えるために心を曲げずに殉ずることが正しいのか、命を救うために棄てることが正しいのか。ただ、ただ「踏む」それだけなのに。
身体よりも心に加えられる苦痛に喘ぐ人たちの姿を見た。
正しさとは。信仰とは。
◆あらすじ
江戸幕府によるキリシタン弾圧が激しさを増していた17世紀。長崎で宣教師のフェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕まって棄教したとの知らせを受けた彼の弟子ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライヴァー)は、キチジロー(窪塚洋介)の協力で日本に潜入する。その後彼らは、隠れキリシタンと呼ばれる人々と出会い……。(シネマトゥデイより引用)
原作は遠藤周作の小説『沈黙』。
史実に基づく物語とされており、モデルは日本で棄教したジュゼッペ・キアラ神父だという話。
遠藤周作は、そして、スコセッシ監督も、「棄教」とは宗教とは信心とは何かについて深く考えた末、この物語を紡いだのだろう。
「踏絵」という風習が日本にあったことは子供でも知っている史実。
「それを踏まなかったら殺される」という描写を様々なドラマや物語で見て、
ただ踏むだけだよ。
なぜそれが出来ないのか。
小学校の時から社会の教科書を見てそう思っていた。
人は「形」が大切で、それを崇めて生きている。
武士は武士であることが大切だから、お家が奪われれば腹を斬る。
国は国のものであることが大切だから、奪われれば戦争が起こる。
妻は妻であることが、夫は夫であることが、親は親であることが、会社員は会社員であることが……
と、形にハマることに必死な人生は現代まで続く。
それを踏み破る事の苦悩を黙って傍で見守る神。
遠藤周作の神はいつも沈黙していて、しかし、そこに居るのである。
友を失い、目の前で同胞の命を奪われ、誇りも失って、最後に残るもの。それが信心。
そこに辿り着くまでの長い長い物語だった。
アンドリュー・ガーフィールドは『ハクソー・リッジ』で観たばかりで、この人はどんだけ神に仕えたら気が済むのだろうと思わずツッコんでしまう。
殺さず、殺せず、でも救っていく『ハクソー・リッジ』とは違い、こちらでは救えない。救えないという事もまた試練なのだろう。
日本人俳優陣も、世界にしっかりハマっていた。
イッセイ尾形と浅野忠信は充分に「嫌気」を出していたし、キチジローを演じた窪塚洋介は物語をかき回す小ズルい男を好演。
モキチの塚本晋也は『野火』を思い出すと、これまた試練だらけの人生のように思えるし、偶然なのか選んだのか、役者それぞれの出演作が浮かぶと辛さが倍増する。
悪夢の中のような寂しい風景に神の憐みの視線を感じ取ることが出来れば、きっと救われる一本になるはず。
以下ネタバレ感想
「弾圧」といっても、ずいぶんとロドリゴに対する扱いは良いと思う。お上に逆らう者は問答無用で斬られる時代。イノウエは充分にロドリゴに生きる機会を与えている。
もっとも、それはイノウエ自身も言っていたように、気づいたから。
殺しても殺しても彼らは信仰を捨てず、むしろ喜んで殉じていく。
だから、「教えの元」を挫かなくてはならないのだと。
殺したら思う壺だと。
彼らが求めているのは「パライソ」であり、自決は出来ないから教えのために殺されるなら本望なのである。
ただ闇雲に暴力に屈させるだけではキリがないので、彼らは信者を人質にロドリゴを陥とす道を考える。飴を使いムチを使い。頭が良い。
彼らだってただの暴君ではない。お上の指図で虐殺を行っているのだ。
出来る事ならそんな事を繰り返したくないという人間の心は持っている。
だから言う。
「形だよ。ただ踏むだけでいいのだ。」
ただ踏むだけ。
それを裏切りだと思うか、踏む事で多くを救ったと思うか。
「形」を神自身はどう見ているのか。
それがロドリゴにも観客にも試される。
私はずっと共に居て苦しんでいた。
踏みなさい。
その苦しみは私自身が背負う十字架だ。」
ロドリゴが踏み出した足は、ただ「形」を踏んだだけ。
信仰は心にあり、心は冒されていない。
そういう結論なのだと、受け取れた人は幸い。
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