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『彼が愛したケーキ職人』「1人は良くない」を埋める

彼が愛したケーキ職人

原題 : ~ The Cakemaker ~

『彼が愛したケーキ職人』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: オフィル・ラウル・グレイツァ
キャスト: ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス、サンドラ・シャーディー

カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭 エキュメニカル審査員賞受賞

日本公開日

公開: 2018年12月1日

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 2018年11月21日(試写会)

 

この作品で、多くの俳優の中から主役に抜てきされたというティム・カルクオフの瞳の色が綺麗で。本当に本当に光に照らすビー玉のように美しくて。しばらく目にばかり見とれてしまった。

恐らく、彼が惹かれたのもソレ……。

 

◆あらすじ
主人公は恋人を不慮の事故で失ったドイツ人のトーマスと、夫を亡くし、女手ひとつで息子を育てるイスラエル人のアナト。同じ男性を愛し、同じ絶望と喪失感を抱える2人は、哀愁漂うエルサレムでめぐり逢い、ケーキ作りを通して運命的に惹かれ合っていく。(Filmarksより引用)

少ないセリフ

美しい色の瞳は口よりも物を言う……。

とてもセリフの少ない静かな作品。劇伴はドミニク・シャルパンティエのピアノ楽曲。ベルリンの時間は詩のように流れる。

突然会うことが出来なくなった恋人。当然、実感はない。トーマスは恐らく「実感」を求めて旅立ったのだろう。

ユダヤ人とドイツ人

気づくのが遅いわ。と我ながら思った。ホロコースト作品を漁るように見ているのに、舞台が現代になったら頭からポンっと抜けていた。

そうか。戦時中は迫害し、される間柄だった二国。立場が逆になれば奇異の目で見られるのはこちらか。

 

もちろん、戦後70年も経って、信仰が浅く、歴史に興味を持たない世代はどちらにも存在する。

逆に、70年も経っても、覚えている人は根が深い。ことさら「ドイツ人」という呼び方が引っかかる。

ユダヤ教の戒律

お国柄描写がしっかり描かれていて、生活、とくに仕事描写が面白かった。

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こんなに細かく決められていたら、外食産業はなるほど大変そうだ。

安息日

何度も何度も「安息日」が出てくる。

これがエルサレム描写のキモになる。

 

この国にとっては大切な日。信仰心が深くない者にとっては押しつけの日。面倒くさい日。外国人には関係のない日。

 

でも、優しい日。

ケーキを買って帰ろう。

複雑な人間関係、複雑な宗教、複雑な気持ち……。同じ男を愛した2人が出会った事で、それが甘く苦く溶け合う物語。

 

そして、散々、黒い森のケーキやクッキーを見せられた帰り道、ケーキを買って帰ったのは言うまでもない。

 


以下ネタバレ感想

 
トーマスがエルサレムに「来ちゃった」気持ちは何となく分る。

「突然の死」は目の前で見ていなければ実感がないし、彼の足跡を追いたい気持ちもあっただろう。

彼の血を引く子どもも見てみたかったし……首筋からキスしてもらっている女房も見たかった。

 
けれども、アナトの方の気持ちはよく分らなかった。

なぜ、それをやってしまうのか……とジリジリしながら見ていた。(そして、注文いっぱい取って忙しいんだから、働いてくれ~~と思いながら見ていた(笑))

 
寂しいから影を追う。

 
気づいたから誘ったのかと思っていた。

違ったんだね。

 
面倒くさい「安息日」。

しかし、ユダヤ人のモティは「安息日に1人なのは良くない」と誘ってくれた。

ガチガチな宗教行事ではなく、安息日とは家族や大切な人と感謝して過ごす日なのだそうだ。

 
「僕は1人じゃない。仕事だってあるし、キミとも会える。1か月に1度。」

 
1ヶ月に一度しか会えなかったはずの「きみ」は、トーマスと生涯を共にする気持ちで居てくれた。

それに怒りをぶつけ、結果的に夫を死なせてしまったアナト。

 
3人で暮らす日は生きている間は来るはずもなかった。

居なくなった人はどんなにズルくても責められない。ただただ可哀想で泣く。

 
「1人は良くない」を埋めるために、アナトはベルリンへ行ったのか。
 

映画は多くを語らない。

このストーリーの先が知りたい……そう思うラストシーン。

 

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★前田有一の超映画批評★

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