アルキメデスの大戦
作品情報
監督・キャスト
監督: 山崎貴
キャスト: 菅田将暉、舘ひろし、田中泯、浜辺美波、柄本佑、橋爪功、小林克也、國村隼、小日向文世、笑福亭鶴瓶、波岡一喜、木南晴夏、山崎一、飯田基祐、奥野瑛太、矢島健一、角替和枝
日本公開日
公開: 2019年07月26日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2019年07月31日
日本人ならほぼ誰もが知っていると言っても良いほど有名な戦艦「大和」が生まれるまで……を描いたフィクション。大和がガンガン進み戦う軍艦物語ではなく、戦争をやりたい止めたいの攻防戦。
リアリティうんぬんの話はともかく、物語として面白い。
あらすじ
日本と欧米の対立が激化の一途を辿っていた第二次世界大戦前の昭和8年…。日本帝国海軍の上層部は超大型戦艦「大和」の建造計画に大きな期待を寄せていた。そこに待ったをかけたのは、海軍少将・山本五十六。山本はこれからの戦いに必要なのは航空母艦だと進言するが、世界に誇れる壮大さこそ必要だと考える上層部は、戦艦「大和」の建造を支持。
危機を感じた山本は、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を海軍に招き入れる…(Filmarksより引用)
実話ベースではないけれど
原作は三田紀房氏による漫画。この映画が公開された2019年7月時点で16巻まで刊行されている。まだ連載中ということで、そういう意味でも「あのラスト」は、とても上手い。
原作は未読なのだけれど、三田先生といえば、あの『ドラゴン桜』の作者ではありませんか。なるほど、きっとたくさん勉強されて、数学的にも造船的にも歴史的にもリアリティとスピード感のある作品に仕上がっているのだろうな。原作を読んでみたくなった。
そういう原作がベースにあるから、史実ではないストーリーでも納得できる設定なのだろう。ベースが良いって、大切なこと。
山本五十六が主張する「これからの戦争は航空機が主体になる。だから空母が必要なのだ。」という考えは現代から見ても当然の主張であり、「巨大軍艦を作って国の威信を示すべき。航空機は当てにならない。」という嶋田の主張は古すぎる、というよりも滑稽過ぎる。
しかし、日清・日露戦争の時点では大日本帝国に空軍はなかった。なので嶋田のように古い勝ち戦に夢を抱く軍人にとっては、飛行機みたいなものが巨大戦艦に勝てると思いたくない部分はあったかも知れない。
そういう話が導入になっているのはリアリティがあって面白かった。
史実の戦艦大和とその評価
1941年12月8日、日本は英米に宣戦布告、第二次世界大戦のアジア局面である太平洋戦争が開戦される。マレー作戦に続く真珠湾攻撃。戦艦大和が竣工されたのはこの8日後の事。
工事は最高機密として何処にも漏れないように行われた。姿を現した時は世界最大級の大きさと巨砲で人々を圧倒し、「大和が沈む時は大日本帝国が沈む時」と言われたという。
しかし、日露戦争の時とは違い、第二次世界大戦の主流はもはや航空機戦。大和はその性能も攻撃力も発揮できず、輸送船として使われ、大した活躍もできずにいた。
そして、終戦間近の1945年4月7日。特攻作戦として出撃させられ、集中砲火の末、坊ノ岬沖に沈んだ。乗員は3332名。生還者は276人だという。
この時の戦いの様子は『男たちの大和/YAMATO』などで観る事が出来る。
最高機密とまで言われていた大和が出来の悪い船だったはずもなく、きちんと使うべき時に使ってやらなかった事が活躍できなかった理由であろう。
少なくとも、その雄姿は見る者には安心感や希望を与えていたわけで、当然、沈没したショックも大きかったはず……。
軍人キャストも変ったなって
古くは三船敏郎が演じ、ここ最近では役所広司が演じた山本五十六を舘ひろしが演じているのを見た時は、「戦争映画の軍人キャストも年々変わっていくな」って(いや、色んな意味で(笑))。
櫂直は実在の人物ではないので(あれこれ混ざったモデルが存在するのかも知れないけれども)、菅田将暉が作り上げたちょっとド変態っぽい数学オタク学者っぷりは面白かった。某朝ドラでは数学オタクの姉を持つ役を演じていたので、そういう繋がりも面白い。
突然のお付きポジションに戸惑いつつ、付いていく柄本佑の熱血っぷりも良かったな。この2人のデコボコバディを楽しむ映画であった。
あとはもうーー。これ流しておけば間違いなしの佐藤直紀さんの劇伴が素晴らしい。あれだけで泣けるから、ずるいかも(笑)ラストの余韻がとても良くて、そこに掛かる劇伴に聞き入った。
残酷なシーンはほぼ無く、「会議を見る」「会議の準備を見る」戦争映画。
エンタメとして楽しめる1本。
以下ネタバレ感想
ツッコみ所も多かったのだけど、奥野瑛太演じる嶋田派の将校がステレオタイプの厭らしさでハラ立つわ。(上手いわ(笑))
尾崎の邸宅までわざわざ行ったり、嫌がらせの張り紙までしていたけれども、ヒマなのか(笑)
尾崎の娘に関しては、今や少佐にまでなっている櫂直と交際を禁じられる必要もないし、別にお互い独身なのだから姦通罪でもないし、男が公然と愛人を抱えられるあの時代にあんな張り紙……とか、色々とツッコみながら見ていた(笑)
娘の存在が必要だった気がしないのだけど、浜辺美波ちゃんは確かに必要なので、まぁいいや。
この船はどんな船よりも堂々としていなければならない。
そして、それが沈む絶望を国民に見せつけなければならない。
その時、この国は初めて「戦争に負ける」あきらめがつく。
沈むために、戦争を終わらせるために作られた軍艦。
その名は「大和」。
なんて可哀想な国なのだろう。
令和の今も、どこかで「大和」が作られている気がしてならない。
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★前田有一の超映画批評★
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