暁に祈れ
原題 : ~ A Prayer Before Dawn ~
作品情報
監督・キャスト
監督: ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
キャスト: ジョー・コール、ポンチャノック・マブラン、ヴィタヤ・パンスリンガム、ソムラック・カムシン、パンヤ・イムアンパイ
日本公開日
公開: 2018年12月08日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2018年12月10日
説明も主人公のセリフも劇伴も少なく、言葉の分からない環境にポンと放り込まれる異邦人の不安や苦しみがそのまま伝わる。
大袈裟な演出は何もなく、ひたすらリアリティを追及する姿勢。
あらすじ
ボクサーのビリー・ムーアは、タイで自堕落な生活を過ごすうちに麻薬中毒者になってしまう。ある日、警察から家宅捜索を受けたビリーは逮捕され、タイで最も悪名高い刑務所に収容される。そこは殺人、レイプ、汚職が横行する、この世の地獄のような場所だった!死と隣り合わせの日々を過ごすビリーだったが、所内に設立されたムエタイ・クラブとの出会いが彼を変えていく。世界的なベストセラーをベースにした真実の物語(Filmarksより引用)
衝撃的なタイの劣悪刑務所
日本でこんな「刑務所24時」が放送されたら、人権保護団体から大ブーイングが起こる……。という劣悪っぷり。
何せ看守が何も見ていないし、中に入ったら守ってくれる人は誰もいない。寝転がっている人間が息をしていようがいまいがお構いなしである。
金やブツを持っている者が強く、持たない者は大切にしてもらえない。集団リンチが横行し、力のない者は淘汰されていく……。
しかし……
こんな酷い環境に主人公を閉じ込めるなんて!!理不尽な扱いに抗議したい!!
という映画ではないのだ。
だって、ここに入れられるだけの理由があるんだもん。
主人公はイギリス人のボクサーだったが、タイへ移住してヤク漬けに。そのあげくの逮捕劇。冤罪などではないので、とりあえず逮捕されたこと自体は仕方ない……。
主人公視点の監獄体験
カメラが主人公の視点、あるいは主人公を見ている視点、で動いているので、とにかく「近い」。人物のアップや身体の一部のアップが多いけれども、決して単調なわけではなく、次にどう目線が動くか分らないのでハラハラしっぱなし。
視点は違うが『サウルの息子』に近い感覚。
説明も、主人公のセリフも、劇伴も少ない。あるのは「リアルな音」と「リアルな声」。だから恐い。
囚人たちはよく喋っているが、タイ語にはあまり字幕が付かない。言葉がわからない不安を主人公と一緒に体験する。
言葉が分らないと言うと、手振りで首チョンパを説明してくれる親切なボスとか……(泣)
スポコンドラマではない
劣悪環境で主人公も結構なクズなのは、ある意味救いかも知れない。(気弱な善人だったら生き残れないし)
しかし、どんな環境でも、人は這い上がる。
所内のムエタイ・クラブと出会い、自分がやるべきことを思い出すビリー。
正直、自分はボクシングが苦手で、格闘技にも興味がないのでこの映画も迷っていたのだけれども、そもそもスポコンドラマでは無かった。
ボクシングは、彼の唯一の才能で、唯一の生きる希望で、唯一の夢で。
そういう物があれば、人は生き残るのだと。
そういう希望を与えてくれる映画だった。
事実ベースの物語
薬は恐いから、やってはいけない。というメッセージと、這い上がれ!!というメッセージが伝わる力強い物語。
囚人役はリアルな囚人たちがやっているのだそうで……我が身を振り返って少し反省してほしいわ。
気になっていた「人」が現れるラストに涙し、その配役に驚く。
以下ネタバレ感想
リアルなのは凄いけれども、正直、囚人は誰が誰だか全く見分けがつかなくて(笑)ちょっと悪い人と、ちょっとイイ人が最後まで混同した。まぁ……大した問題ではない。たぶんビリーもそうだろう。
レイプからの首吊りには言葉を失う。ホラーよりも恐い現実。いくら囚人だといっても、もう少し配慮するべきでは……。
最初は、タイの牢獄は男女混合で大丈夫なのか?と思った「レディ・ボーイ」ね。バンドのグループ名などではなくて、まんま言葉通りの意味だった。ああいう特権(ではなくて性を使った最低の「罰」か)もお国柄なのかなぁ。
手紙を書いたという、国のお父さん。命をかけた試合は見に来てくれないのね……と思ってガッカリしていたので、ラストシーンで涙が出た。
しかも、リアル・ビリー本人。
かつてのダメな自分を温かく見守る今の自分……。
そう思ったら感動も倍になる。
いい表情だった。
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★前田有一の超映画批評★
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