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『風に立つライオン』がんばれ、がんばれ

風に立つライオン

     風に立つライオン

監督: 三池崇史   
キャスト: 大沢たかお、石原さとみ、真木よう子、萩原聖人、鈴木亮平、藤谷文子、中村久美、山崎一、石橋蓮司、ERICK OJIAMBOH 、PATRICK OKETCH 、NICK REDING 、LYDIA GITACHU

公開: 2015年3月14日

2015年3月10日。劇場観賞(試写会)

さだまさし原作で三池崇史監督って、一体どうなるのだろう…と、思っていたが、全く三池監督らしくない文部科学省ご推薦のようなエンターテイメントになっていた…。

見終って、結局描きたい事は一体何だったのだろう、と考える。

アフリカにおける内戦の悲惨さや子どもたちの心のケア、苦しい医療現地で働き続けるスタッフ、そんな中で人々に力と笑顔を与える1人の青年医師。

それだけで良かったんじゃないのかな。

あらすじ
アフリカ医療に尽力した医師シュバイツァーの自伝に感動し、医学の道を進んだ島田航一郎(大沢たかお)。ある日、彼は勤めている大学病院からケニアの研究施設へ派遣されることに。離島医療に励む婚約者・秋島貴子(真木よう子)と離れてケニアに渡った彼は、すぐさま現地の戦傷病院からの派遣要請を受ける。そこで目にした凄惨(せいさん)な環境に医師としての使命を感じ、同病院への転籍を決める。忙しい日々を送る状況で、ンドゥングという心と体に傷を負った少年兵と出会うが……。
「シネマトゥデイ」より引用

見終って一番初めに思ったのは、「これ実話なのだろうか。モデルはいるのだろうか。」という事だった。前情報は何もなく観たので。

内戦は当然実話である。震災も実話だ。けれども、そこに絡んでいるこの人たちは実在する人たちでエピソードは実話なのか

で、家に帰ってから検索したら島田航一郎さんのモデルは実在していた。アフリカ・ケニアで実際に国際医療活動に従事していた日本人医師・柴田絋一郎さん。

ただし物語は実話ではなく、柴田氏の話にインスパイアされて1987年にさだまさし氏が楽曲を発表。さらにそれを2013年にさだ氏自身が小説化し、さらに映画化と…そういう流れらしい。

つまりフィクションである。

だったらどうして…震災を入れ込みたがるのだろうとそこばかり気になった。繋がりが希薄だからだ。いや、原作に入っているらしいから原作者が入れたかったんですよね

(本日の朝ドラ感想記事にも同じことが書いてあるので、あっちから来た方にとっては「またか」ですいませんが)

個人的には戦争と震災で「風化させてはならない」事は違うと思っている。
生き残った人たちが復興のためにかける精神力などは同じかも知れないけれども「死」に到る意味は全く違う。

「日本もたくさん人が亡くなっているけれども頑張っているよ。だから戦争で大切な人を失くした国の方々も頑張ってね」みたいに見えちゃうんですけど。そういう事なのか

せっかくアフリカにおける内戦の悲劇を題材にしたのだから、もっともっと伝えられたはず。何せ139分もあるのだから。

なのに主人公の人生のアレコレや離島医療の問題や、と、あっちこっちに話が飛ぶのにガッカリしてしまったの。だから気になったのである。どこまでが実話で何が描きたかったのか。

アフリカロケによる壮大な風景、とりわけ空の映像は美しかった。

そして、大沢たかおのこういう役は抜群の安定感。仁先生を思い出す。みんなが島田航一郎を信頼し慕う理由は大沢さんの演技だけで納得できるほどの説得力。

真面目、かつ聖母のような看護師を演じた石原さとみも素晴らしい。最近ブリブリした役ばかり見ていたので、そういえばこういう役もできる人だったと再確認。英語力の凄さにも感動した。

だから、もったいないのは本当に構成とストーリーだ。

「人が死んだら感動」…という流れで他国の悲惨な真実を伝えようとするのは軽い。

そして二度と起こしてはならないと思うレベルの苦しい戦闘映像描写は本来、三池監督のお得意分野のはず。原作との相性は…とても良くは見えなかった。

 


以下ネタバレ感想

 

最初、ミケが何を持っているのかよく解らなくて人間の歯を持っているのかと思っちゃった。三池監督ならありそうでしょ…。 トウモロコシですか。そうですか。

実在の柴田絋一郎氏が現地に居たのは真実だが現在は日本に戻っている。もちろん…生きている。

なのに、なぜ死なせる必要があるのだろうか。そこがもう、不要な「泣かせ」。

青木の現在描写に関しては航一郎をインタビューのように語らせるだけなのに、秋島貴子の方はなぜ長々と描く必要があるのだろう。過疎化地域医療の問題と戦地の派遣医師の問題を絡ませたいのだろうか。これも全然違うと思うけれども。

秋島貴子の結婚の話なんてサラッと流して青木の方とバランスが取れる割合で描けばいいのに。

と、ずっと思いながら見ていた。(でも鈴木亮平はイイ感じ)

その謎は帰って原作を検索したら解けたけれど。

原作では航一郎と秋島貴子の成就しなかったラブストーリーにも重きが置かれているらしい。つまり、あれはどうしても入れたい部分だったのね。

だったら、もっと、過疎地医療にも重きを置いて、それぞれの場所で生きていく医師たちの物語…のように描いた方が違和感がない。入り方が中途半端。

ここをハンパに入れるよりは、ケニアの内戦と航一郎の闘いをもっと描いてほしかった。「少年たちの中には戦地に戻って行った子たちもいます」なんてナレーションで済ませないで絵にした方がずっと説得力がある。

戦争と震災は違うだろ…と上に書いたけれども、それでも被災地でミケが出会った少年の真っ直ぐな瞳には心打たれた。ここにも身内を失った子どもがいる。

遺族の心のケアをとことん考え続けた航一郎の遺志を継ぐミケの課題に相応しい。冷たい雪の中の出会い。
だから、この映画はここでバッサリ終わってほしかった。その余韻で「いい映画だった」と思わせてほしかった。

なのに、ダラダラと最後まで泣かせを続ける構成。

この作品の中で私がウルッとしたのは航一郎の死でも「幸せになって下さい」の手紙でもミケの生立ちでもなく、病院で航一郎と食卓を囲む子どもたちの笑顔だ。

こんな国のこんな状況でも純真な子どもたちの心は、ちゃんと生きている。

涙誘うエピソードよりも、笑顔に泣かされる事もある。映画は画力だ。

・「風に立つライオン」公式サイト

  

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