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『ブルージャスミン』虚飾の花

ブルージャスミン~ BLUE JASMINE ~

   ブルージャスミン.png

監督: ウディ・アレン   
出演: ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ルイス・C・K、ボビー・カナヴェイル、アンドリュー・ダイス・クレイ、マイケル・スタールバーグ、タミー・ブランチャード、マックス・カセーラ、オールデン・エアエンライク
公開: 2014年5月10日

2014年5月14日。劇場観賞。

第86回アカデミー賞主演女優賞受賞(ケイト・ブランシェット)

コメディなのかと勝手に思っていたけれども、クスリとする要素はなかった。
(苦笑)というシーンは多いけれども。

物語は主人公ジャネットがサンフランシスコの妹・ジンジャーの家を訪ねてくるところから始まる。
ニューヨークで実業家の夫とセレブな生活を送っていたジャネットは「ある理由」から妹の世話になるためにやって来たのだった。

シャネルのジャケット、エルメスのバーキン、高いヒール、美しい指先…ケイトには高価な物がピッタリ合う。

けれども、中身はボロボロ。
外を飾りたて、嘘で中身を繕い、偽の名前を作る。外から見れば滑稽にしか思えない夢を語る。口から出るのは過去の栄光。

痛々しくて痛々しくて見ていて辛いくらい。

ジャネットという名を「ジャスミン」に変えたのも名前から優雅になりたかったから。
見ていない方には申し訳ありませんが…現行朝ドラの「花子と呼んでくりょ」を思い浮かべた。
みんな名前から変わりたいんだな。

ただ「花子」は夢大きい小娘だがジャスミンは、もう、いいお年。
夢見て自分探しするお年頃にはちょっと遠い。

それでも、人は違う自分を求めて足掻く。
その痛々しさが理解できてしまう…。
誰だって上に行きたいし、上でいたいし、落ちたくはない。
現実を受け入れられない辛さ。
  ブルージャスミン1.png

過去と現在を行ったり来たりするシーンに妙な演出は差し挟まれない。過去の栄光と挫折はいつも現実の隣にある。

ダメ人間かも知れないけれども、人間の欲と願望の元はみんなこんなもんなんだろう、と思うのだ。

だから、哀れだけれども愛おしい。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


冒頭の飛行機のシーンから、もう苦笑。
最初は母親とでも旅行しているのかと思っていたのね。まさか初対面のアカの他人とは…。

現実を直視できず、いくつになっても精神的に独立できず、自分の能力に見合った選択をできず、役立つか解りもしない資格取得に金を掛け、上へ行く夢を見る。感情的で子どもっぽくて酒と安定剤で自分を保つ。

時々、後悔する。
あの時こうしていれば、こうしなければ…。
そういう時は過去が悪夢になって近くに来るので、口から言葉が溢れ出てしまう。
そうしてまた不安定に。

すごくリアルだと思った。結局は他人への依存が強くて孤独なの。

継子への依存心が一番強かったとは意外だったわ…全く描かれてこなかったし。

…と、思ったら…。

依存心ではなくて、罪悪感だったのか。
まさか、自ら夫を売ったのだとは思いもしなかった。

これも一時の感情から引き起こした大きな誤算。

ジャスミンは全て手に入れたかった。
金も友も愛も。
けれども全て失った。

継子に現実を突きつけられて。
茫然と街のベンチに座るジャスミンが、この後どうなるのか。

ジャスミンの花は白か黄色。ブルーの花は亜種になるだろう。
本物になれなかった人間が本物になりたがる。

痛々しいけれども、それも人の本質なんだよね。

何だかんだ言っても妹のジンジャーだってもっと良さ気な男が現れればそっちへ行くんだし、ジンジャーの元夫だってクジで当たった金を失っただけだ。

みんな紙一重で「自分ではないもの」になりたがっている。

黒いアイメイクが下まぶたについているのにも気づかないほど取り乱した女をリアルに演じ切ったケイトの女優魂は紛れもなく本物。

「ブルージャスミン」公式サイト

 


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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