休暇
監督: 門井肇
キャスト: 小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣、柏原収史、宇都秀星、利重剛、今宿麻美、榊英雄、菅田俊、谷本一、滝沢涼子、りりィ
公開: 2008年6月7日
2014年5月1日。DVD観賞
テレビ朝日系で深夜に放送されている『ビートたけしのTVタックル』という番組の中でこの映画が紹介されていて、興味を持ったので借りてきた。
番組は死刑制度について是か非か討論する内容であり、死刑囚の日常や死刑囚が刑の宣告を受けるまでの説明に映像が使われていたのである。
しかし、映画自体は死刑の是非を問う物ではない。淡々と「人の死に関わる人たち」を描く作品であった。
死刑制度については映画の内容と共に語るような話ではないのでここでは避けるが、凶悪事件の報道を見てよく思うところの「こんなヤツ、死刑になってしまえばいい」…それが他人事だから言える事なのだということだけは理解できた。
「死刑になってしまえばいい」と私たちが思ったとしても、実際に手を下すのは私たちではない。
裁判官でも弁護士でもなければマスコミでもない。
実際にそれを施行する人たちの苦悩の大きさを考えたら、軽々しく言ってはいけない言葉だった。
この映画を観て、改めてそう思った。
死刑囚を監視する刑務官の平井は結婚を控えていた。
自分も中年で相手は子連れの再婚。派手な事はしたくないが、相手の子どものためにも人並みに新婚旅行の事も考える。しかし、有給は使い果たしていた。
そんな折り、収監中の死刑囚である金田という男の死刑執行が決定される。
「支え役」になれば1週間の休暇を得ることができる。
1週間の休暇は確かに欲しかっただろう。
けれども、平井が「支え役」を受けたのは、ただそれだけの軽い気持ちだったわけではない…と思うのだ。
バッグを置くガシャリという音にさえ異様な反応を見せる。
その瞬間がどれだけ関わった人の心を蝕むものか…。
物語は「新婚旅行へ向かう平井」という「現在」に、そこに至るまでの経緯を入れ込みながら進行していく。
死刑囚・金田は彼が描く絵のごとく色のない男である。
何を考えているのか全く解らない。自身が犯した罪を反省しているのかどうかさえ描かれない。そもそも、何をしたからここへ入っているのかも解らない。(原作は未読だが、原作では強盗殺人らしい)
どういう犯罪を犯したのか何の説明もないのは、見る者に感情移入させないためだと思う。
つまり映画は「こんな男死んでしまえ」と観客に思わせないように出来ている。
かと言って、同情するようにも作られていない。
ただ、淡々とそこにいる。
けれども、彼は生きているのだ。物を食べ、絵を描き、雑誌の切り抜きをしたり運動したり…何を考えているのかは解らないが、生きている…それを西島秀俊が本当に無表情に淡々と演じる。
そんな彼に対して、なるべく何の感情も持たないようにと自分に言い聞かせながらそれが出来きれない刑務官たち。
その描写は時に滑稽で時に苦々しい。何も分かっていない新人刑務官が本当に無神経でウザったい。
そんな中、結婚に踏み出すために平井は役を選んだ。
「支え役」。
1週間の休暇は別に楽しい時間を過ごすためではない。
恐らくそんな時間で心の傷は癒えるはずはなく、重たいものを支えた記憶は一生消えることはないだろう。
人の死は人生だ。結婚も人生だ。仕事も人生だ。
だからこそ…の決意。
人生は重い。その覚悟を両腕に受け止めながら、それでも生きている者には明日がある。
淡々とした作品ながら、この人の闇の深さ以上に人間の深さを感じる。
情も闇も超えて全て受け止める覚悟の人を演じた小林薫さんが素晴らしい。
予告動画
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
「さあ、目を上げて、あなたがいる場所から東西南北を見渡しなさい。
見えるかぎりの土地をすべて、わたしは永久にあなたとあなたの子孫に与える。
さあ、この土地を縦横に歩き回るがよい。わたしはそれをあなたに与えるから。」
刑の直前に金子に神父が読む「創世記13章」。
私は貴方を罪びとだと思っていません。ただ一人の信者として旅立つ事を祝福します。
こんな言葉が、今、死刑宣告を受け、今、死んでいく人間の心にどれほど響くだろう。
音楽の差し入れが、どれだけ心に沁みるだろう。
どうせ死んでしまうなら、罪を犯した臨終の身体を支えてくれる「支え役」の方が、どれほど強くて優しい存在か。
偽善でも上辺の親切でもなく、その仕事は本当の意味での献身だ。
落ちてくる金子の身体を支えるその姿は、結婚式の相談の時に眠ってしまった子どもを抱きかかえる姿に似ている。
おそらく、あの時、平井は「抱える」事を決意した。
妻とその子どもを支える新しい人生。
それは金子の死を支える事と同等の重み。
そんな覚悟で一緒になるのだから、きっと夫婦は幸せになる…。そう思いたい。
誰の心情も不親切なくらい語られない余白だらけの映画。
その余韻は、重苦しいけれどもなぜか温かい。
小林薫/西島秀俊/休暇 |
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