共喰い
監督: 青山真治
キャスト: 菅田将暉、木下美咲、篠原友希子、光石研、田中裕子、岸部一徳、宍倉暁子、淵上泰史、福山莉子、原田健汰、古賀光輝、三枝優希、小川丈瑠、小森悠矢、鈴木将一朗、横川知宏
公開: 2013年9月7日
2014年4月16日。DVD観賞
雲の流れる空も汚水が流される川も古びた町の風景も。
青味がかって見える。鮮明に目に焼き付く。寂しい。けれども、美しい。
映像が多くを語る映画。
苛立ちも不安も川の水面のように次第に満ちてくる緊張も。
昭和63年。夏。17歳の高校生・遠馬は、山口県下関市で父親と父親の愛人・琴子と暮らしていた。
子どもの頃に自分を置いて家を出た母親の仁子は川向うで魚屋を営んでいる。
母は性行の度に暴力をふるう父親に愛想が尽きて出て行ったのだ。
そして、今は琴子がそれと同じ暴力を受けている。
遠馬は自分の彼女である千種に同じことをしてしまうかも知れない自分を恐れていた。
ある日、遠馬は琴子から父の子どもを妊娠したと打ち明けられる。
「やる」しか能がない…。
と、父親を評しながら、親子の繋がりは求めている。
親子で繋がっていられるから、ウナギを捕ることは苦にならない。
父が頼み、自分が釣り、母がさばく。
それだけの繋がり。
それを求めていながら、父の血を呪い、自分を産んだ母を責める。
仁子の気持ちも琴子の気持ちも女として共感はできないけれども、遠馬の闇の深さは切なく伝わる。
菅田くんが、クズ…というかクズ予備軍の不安をドロドロと演じている。
今までもいくつかのドラマでクズっぷりは見て来たけれども、ある意味これが最強かも。
フィリップ@仮面ライダーWや朝ドラ『ごちそうさん』で菅田くんのファンになった人は菅田くん目当てで見ると度肝抜かれるだろうからお薦めしません。
クズっぷりに性描写が関わって来るから、たぶん辛いと思うのね。
ストーリー自体も賛否あるだろうし。
個人的には当然の末路だと思うけれども、害だから消えてしまえって考えはどうなのよ、って人もいるだろうし…。
まぁ、女は強く男は弱い…って話。
クズなりかけだけれども、菅田くんにとっては新境地だろう。
そして、ホンマもんのクズ、父親・円役の光石さん…ほんとにもう…鉄板のクズっぷり。
そして、戦争で手首を失った母・仁子を演じる田中裕子さんのくたびれた…けれども戦う女の佇まいがいつもながら素晴らしいのだった。
3人の女がいて、
1人は繋がりを断ってくれる。
1人は命の喜びを教えてくれる。
1人は性癖を断ってくれる。
遠馬は愛されている、と思う。
テーマ曲『Torna a Surriento』帰れソレントへ 。
汚水が流される川はアマルフィとは大違いだけれども、そこにいる女は強く美しい。
以下ネタバレ感想
『共喰い』の意味は、本来ならば同種の物が同種の物を喰うこと。
円としては父と子で1人の女を喰うこと……。
そういう事なのだろうけれども、商売女と息子の彼女は違うでしょ。
暴力を振るわないと興奮できないという異常性癖は相手してしまう女の方にも責任はあるという見方もされる事が多いが、余所さまの娘さんにあんな事をするのは完全な婦女暴行罪じゃん…。
けれども、こういう男は警察から出てきたらまた同じことをする。
だから消してしまうのは正しい…と、個人的には思ってしまう。
けれども、道徳的に考えれば警察に突き出して裁いてもらうのが正しいわけで…。
その辺で見る側にモヤっとしたものを残すのは確かだろう。
1人の女を共有する=支配する…というだけではなく、円は子どもも自分の物だと思っている。逃げた琴子への怒りで叫ぶ。
わしの子どもを持ち逃げしよって!
あいつの子どもはあんた1人で充分。だから2人目は掻き出した。
という仁子。
それでも、1人はこの世に残したんだ。
たぶん、残したかったのは円の血ではなくて自分の血。
そして実は円も自分だけの物にしておきたかった。
あの男の子どもを産めるのは私ぐらいのもんじゃ。
そこには、殴られる嫌悪感だけではなくて、女の情念のような物も感じたの。
殴る事で熱を感じる男。
そして、手首がなくて、貰ってくれる男がいない女。
共喰いし合う夫婦。
「あの人」が起こした戦争のせいでこういう手になったのだから、「あの人」が死ぬまでは生きていたいと思った。
時代は昭和63年。翌年からは平成になる。
時代は変わる。
仁子の戦いは終わった。
解放された遠馬には、もう悪しき血は残っていない。
彼は新たに食われ始めるのである…SからМの道。
そう考えると恐ろしい。
愛は複雑だ。他人には何が愛なのか解らない。
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★前田有一の超映画批評★
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