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『ザ・デット ~ナチスと女暗殺者~』秘密の事後処理

ザ・デット ~ナチスと女暗殺者~~ THE DEBT ~

   

監督: アサフ・バーンスタイン   
出演: ギラ・アルマゴール、ネタ・ガーティ、イエズケル・ラザロフ、アレクサンダー・ペレグ、エドガー・セルジュ、オーデッド・テオミ、イタイ・ティラン
公開: 2007年制作:日本未公開

2013年7月30日。DVD観賞。

イスラエル諜報機関・モサド…と聞いたら、一番最初に頭に浮かぶのは2005年のスピルバーグ監督作品『ミュンヘン』

見終わって、同じような切なさと後味の悪さが残る。
主人公は恐らくやり遂げたのだろうけれども…。

1965年。モサドの工作員・ラヘル、エフド、ズヴィの3人は逃亡していたナチス戦犯、マックス・ライナーを捕獲し殺害した事で、英雄としてイスラエルに帰国した。
時を経て1997年。ラヘルはその時の事を自伝として出版もしていた。
仕事から30年経ってスマートだった身体は年を取って膨らみ、昔のように素早くは動けない。
そんな中、彼女に新たな「仕事」が出来る。それは、自分たちが作った「ある秘密」の処理であった。

ユダヤ人という人たちの悲しみや苦しみは、日本人である私たちには推しはかろうとしても理解しきれない部分はあると思う。
大戦時に彼らは「ユダヤ人である」という理由だけで狩られ、ユダヤ人であるだけで次々と殺されて行った。その数は600万人に及ぶと言われている。

多くのユダヤ人が今もその恨みを抱えて生きているわけでは無いだろう。しかし、赦せずに復讐を考える人たちがいてもおかしくはない。
「戦争も終わったのに今さらさ」「もう平和な世の中なのに何やってるの」と言える資格は当事者ではない人間にはないのだ。

マックス・ライナーは、かつてビルケナウ(アウシュヴィッツ第二強制収容所)でユダヤ人を使って人体実験をしていた。 モサドはその罪ゆえに彼を戦犯として追った。
終戦後20年。ライナーはベルリンで平凡な産婦人科の開業医をしている。

普通の平和な町から1人の人間を消すための工作。
その計画にはハラハラさせられる。
えっ、こんな事が簡単に成功していいのという感覚は『ミュンヘン』と同じ。

人間は平和に暮らしていればいるほど鈍感になって行くらしい。

日本語サブタイトルは、ちょっとB級感が漂っているし、女スパイが悪を倒すために立ち回るアクションもののようにさえ感じられてセンスが悪い…。

硬質なサスペンスであり、史実に基づいているわけでは無いらしいが歴史は踏んでいる。目的を達成する事と、命について考えさせられる良質な映画だ。

マックス・ライナーが、あまり人間らしい面が見えない事、ユダヤ人について思い切り悪態をつく事など、やはりイスラエルの目から見たイスラエル産の映画なんだなぁ…と思ってしまったな…。

成功したからといって何が残るわけでもないだろう…もう年なんだし、もっと平和に生きれば…とラヘルに何度も言ってあげたくなった。

そんな風に思いながら彼女を見ていた私にとっては虚しさばかり感じられるラストだったけれども、彼女にとっては泣きたいほどの達成感だったのも知れない。

2010年に『ペイド・バック』としてハリウッドリメイクされている。けれども、こちらも日本未公開。本作よりもリメイクの方が何かと演出がドラマティックらしい。
機会があったら見比べてみようかな。サム・ワーシントンが出ているらしいし。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


ライナーはいうのだ。

「当時、ユダヤ人には何をしても許された。」
「ユダヤ人は殺し方を知らない。殺されるだけだ。」

と。

ユダヤ人には率先して民族を守る気持ちがない。だから大人しくガス室に運ばれる。自分の身を呈して守る事もしない。だから殺されてもいいのだと…。

考えようによっては、ライナーも自分自身にそう言い聞かせなければ人体実験なんて出来なかったのではないだろうか。

「戦争は多くの人生を変えた」

それは、戦争で苦しい思いをしたラヘルの母に対する社交辞令ではなく、ライナー自身の本音も言っていたのだろう…と思いたい。

しかし、あの時に殺してしまったのかと思っていたのに拉致するだけだったとはね。命令が捕縛じゃなくて暗殺だったら、きっともっと楽だったのに。

捕まえた人間のヒゲなんて剃ってやらなくていいじゃん…と思ったんだ。そして、あんなにロープをチェックしていたのに、なぜカミソリを持っている事に気づかないんだ。

自分が逃がしたのだから、自分が後始末…。
老人ホームに入っても、ライナーの冷たい性格は変わっていなかった。

ここで、あの息子や孫がライナーの身内ではないことも…やはり、ライナーという人間を少しでも「良い人」には描かない作り方だと思った。

たぶん…想像だけれど、ハリウッド版リメイクは殺される方にも多少の「人情」を与え、「鬼畜も人間だから心はあるのですよ。それでも殺しますか」のような主人公の葛藤があるのでは~。(単なる想像です )

イスラエル産であるこの映画は、ナチス戦犯に「人間らしい心」など与えない。

そして、かつて「ユダヤ人は殺し方を知らない。殺されるだけだ。」と言った男は、「恐怖を知る」人間らしいユダヤ人の手によって殺されるのであった。

30年前「話さなければ真実は葬られる」と決めて、ターゲットを殺した事にして英雄になった3人。
ラヘルはかつての自分の尻拭いをやり遂げて倒れた。
通りすぎる列車の中に、失意の苦さを抱えたかつての自分を見るラストが印象的。

 

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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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