桃さんのしあわせ
原題 : ~ 桃姐/A Simple Life ~
作品情報
監督・キャスト
監督: アン・ホイ
出演: アンディ・ラウ、ディニー・イップ、チン・ハイルー、ワン・フーリー、イーマン・ラム、アンソニー・ウォン、ボボ・ホイ、チョン・プイ、ホイ・ソーイン、エレーナ・コン、ジェイソン・チャン、チャップマン・トー、サモ・ハン、ツイ・ハーク、ニン・ハオ、レイモンド・チョウ、ジョン・シャム、ロー・ラン、和田裕美
日本公開日
公開: 2012年10月13日
レビュー
☆☆☆☆
2013年5月16日。DVD観賞。
何だろう…。
特に何かすごい事が起こるわけでもなく、大きなテーマを突きつけられているわけでもなく、なのにほぼ全編に渡って泣き続けた。
泣くと言っても「号泣」というのではなく、たぶん物すごく身近にいて思い出をたくさん共有している誰かを失くしたら、思い出すたびにこんな風になるんだろうな、という涙。
あらすじ
60年間、同じ家族に仕えてきたメイドの桃(タオ)が脳卒中で倒れてしまい、それまでごく当たり前に身の回りの世話をしてもらっていた雇い主の息子ロジャーは、桃の介護に奔走することになる。そのことをきっかけにロジャーの心境も変化していき…(映画.comより引用)
病で倒れた母の最期の時まで、何か特別な事ではなく日常の優しさを感謝と共に返し続ける息子の物語。
もっとも、桃さん(「モモさん」じゃないよ。「タオさん」だよ)は、お母さんではないのだけど。
疑似母子の物語
13歳の時から60年間、4代にわたって梁家に仕えてきた桃さんは家政婦だ。
僕が生まれた時、桃さんはすでに家にいた。
僕は20歳で米国に留学し、30歳で香港に戻ってきた。
留学期間を除き、桃さんはずっと側に居た。
主人公・ロジャーと桃さんの関係はこれだけしか説明されない。
基本的にロジャーは家では無口だ。
余計な会話はせず、桃さんが次々と出してくれる食事を当たり前のように黙って食べ、新聞を読みながら黙々とデザートを食して「最近は肝を出してくれないね」とメニューに文句をつける。
これは、桃さんが家政婦でロジャーが主人だから威張っているわけではなく、普通~の母親と息子2人暮らしの家の風景。
桃さんも無理にロジャーに話しかけることはなく、台所の猫に話し掛けながら淡々と家事をこなす。
そんな無理や不自然のない、本物の母子のような風景がずっとずっと描かれる。
桃さんの最期の時まで本物の母親に対するように接し、色々な所に連れ出し、たくさんの物を見せて楽しく過ごさせる。
人が「晩年」という時間をどう過ごせば一番幸せか。
それを提案されているように思えた。
ある時は頑固、ある時は少女のように可愛らしく、むくれたり照れたり表情がクルクル変わる桃さんを演じるディニー・イップが素晴らしい。
そして、この作品に惚れこんで企画しノーギャラ出演しているというアンディ・ラウの普通~の中年男っぷりが素晴らしい。
側にいるのが当たり前だった人を失くすと気付いた時、今までと同じ生活からその人のために尽くす生活に切り替える。
仕事人間で、家では甘やかされてのんびり過ごしていた不器用な中年息子が精一杯見せる思いやり。
嫌な事は何も起こらず嫌な人も誰もいない。
優しい優しい映画だ。
映画プロデューサー、ロジャー・リーの実体験に基づくストーリーという事で、出演者もポッポッと豪華に顔を出すのでそこにも注目。
サモ・ハンとツイ・ハーク監督とアンディ・ラウさまが一度に顔を揃えるシーンには思わずニタニタする。
自分が男子の母なので、こういう話には元々めっぽう弱いわけで…。
なんでこんなに泣いてるんだってほど涙が止まらなかった。
母親にとっては夢のような物語だ。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
以下ネタバレ感想
冒頭の、桃さんとロジャーの普通の母子のような無言のやり取りも好きなシーン。
何も話さなくてもそこに居る存在だと思っているから、料理を出されても感謝もないし無言だし文句もいう。
居なくなって初めてありがたみが解る。
けれども、別にイライラするでもなくアタフタするでもなく、洗濯機の説明書を出してきて老眼鏡で読んでいるロジャーが微笑ましい。
老人ホームには少し驚いた。
個室といってもパーテーションで仕切ってあるだけでドアはカーテン。
ここで「任侠ヘルパー」みたいな事が起こるのかと思っちゃった。
ロジャーが桃さんの居ない生活に戸惑うのと同じように、桃さんも他人との共同生活に戸惑う。
「来なくていいわよ」と言いつつも、ロジャーが遊びに来てくれるのを心待ちにしている様子が可愛らしい。
自分を「母」だと言ってもらって、最後の時のために家族でたくさんの感謝の気持ちを伝えてもらって、たくさんの優しさを貰う。
桃さんの人生は、きっと幸せだった。
ロジャーと腕を組んで歩くシーンは頬がゆるむ(そして泣く )。桃さん、いいなぁ。
これを見ていて、自分は最期に誰と過ごしたいか…どう過ごしたいか、早々と考えてしまった。
しかし、感謝される人生じゃなかったら、この結末はないんだよね。
良い晩年は良い行いの元に成るものなのだった…。
まだ間に合うかな。
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