残酷メルヘン 親指トムの冒険~ LE PETIT POUCET ~
監督: マリナ・ドゥ・ヴァン
出演: ドニ・ラヴァン、アドリアン・ド・ヴァン、レイチェル・アルディティ、ヴァレリー・ダッシュウッド、イリアン・カラバー
公開: 2012年10月6日
2013年4月2日。DVD観賞。
別に最近「ヘンゼルとグレーテル」を見たからといって童話づいてるわけではないんですよ。
本当に偶然、ホラーの棚で目に留まったの。もっとも、以前から「 本当は怖い世界の童話 」などが好きなので、その流れで興味を持ったというのはあるけど…。
でも、これホラーじゃないですよね。
どちらかというと、ダークなファンタジー…。とにかく恐くはないので、ホラーを期待している方は止めた方がいいかと。
そもそも、親指トムでもないし~。
私が知っている「親指トム」は、「おやゆびひめ」のように小さくて…あまり覚えてないけど魚に飲み込まれて王様の食卓に上がり、中から出てきて王様に可愛がられるとか…そういう話だったはず。
…と、思って見終わってから調べてみたら、私が子どもの頃に読んだのはイギリス童話の「親指トム」で、この映画の原作はシャルル・ペロー版らしいんですね。
で、結構原作に忠実な話みたいです。
トムは生まれた時に親指ほどの大きさだったから「親指小僧」と呼ばれているらしい…。
映画でも、実際にトムは少し小さいかなという程度の普通の子どもでした。
童話ベースと言っても、映像は美しくてリアル。そこが見どころ。
物語ではよく「みんなで働きましたが貧乏で食べる物が無く…」などと表現されていますが、こうやってリアルに再現されてみると、どれだけ貧しいのかがよく解ります。
家族みんなで泥土をほじくっているので何してるのかと思ったら、あまりにも食べ物がないから地面の中から食べられる物を掘っているんですね。すごい。
「スープの中に野菜がひとかけらだけ浮いている…」というのも映像化されてみると、見るだけで飢えた気分になってきます。
ストーリーとしては、鬼の家に行ったり鬼が出てきたり鬼の子が出てきたりと、本当に童話的なのですが、それが写実的に描かれる様が何とも不気味。
ただ、鬼の娘たちはとっても可愛らしい人間的な顔立ちで、どこも鬼には見えなかったんですけど~。
可愛らしい顔して「早くこの子たちを食べたいわ」とかいうから恐い。
ストーリーは、まともに見るとツッコミ所だらけになるわけですが、そこは童話なので。
ペローがこの童話を書いた1690年代、フランスでは大飢饉が起き、200万人の人々が亡くなっています。
そういう時代背景を踏まえて作られた話だろうから、太陽王と呼ばれたルイ14世の元でブルボン王朝が最盛期を迎えていた頃、下々の者はどれだけ苦しんでいたのか想像すると悲しくなる物語ではあります。
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親に捨てられるからパンくず落としながら森へ入るとか「ヘンゼルとグレーテル」じゃないか、とか、お腹切り裂いて出て来たり「赤ずきんちゃん」か、とか、色々と被る…。
そうして、泣きながら子どもたちを森へ捨てておいて、もうセ●クス始めようとするとか何事?
でも、これが当時の子だくさん家庭の現実だったのかなぁ…。やったら出来ると知ってて産めや増やせやで出来たら殺してたらもう…キリがないわ。
盗んだり殺したり捨てたり…誰1人満足に食べられない状態じゃ仕方ない。
原作では子どもたちは鬼に食われていないみたいなので、あそこはこの映画なりの「赤ずきんちゃん」エピソード挿入らしい。
昔から思ってたんですよね。普通噛むよね。噛まなくても食われたら胃でドロドロに溶けるよね。と。
鬼の腹の中はあんな風になってたのか。別に死なないで済むならあれはあれでパラダイスな気もする。動物もいっぱいいたし。
文字通りお腹の中に切り目を入れたらすぐに外に出てこられて、とっても非現実的なのに、その切れ目のせいで出血多量で鬼が死んじゃうというリアルさとのアンバランス。
印象的なのは、ラストシーンのトムの涙よね。
王様のように贅沢な椅子に腰かけて、自分を捨てた両親と自分を虐めていた兄弟たちにエサを放るように食べ物を投げ与えるトム。
この家で一番偉くなり、食べ物にも困らなくなったのに流す涙。
もう、壊れてたのかな。助けてくれた女将さんを裏切り鬼の娘たちを殺し鬼を殺し、その家から財宝を盗んで…。トムはもう天国には行けない。
貧しい食事シーンでも、鬼の食事シーンでも、必ず出てきたお祈り。
「殺したら天国には行けない」という両親の言葉。
貧困でギリギリの世界では生き延びるためには子どもでも何でもやり、結果、天国の門からは閉めだされる。
罪悪感と孤独。可哀想で残酷な話だ。
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