少年は残酷な弓を射る~ WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN ~
監督: リン・ラムジー
出演: ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー
公開: 2012年6月30日
2013年1月10日。DVD観賞。
何とも不気味で後味悪く、虚しさでいっぱいになる名作だった…。
原作はライオネル・シュライヴァーの同名小説(「We Need to Talk About Kevin」)。
ドロドロした赤いシーンから始まり、もうその後も全体的に「赤」で表現された画面。
ストーリーは過去の様々なシーンを行ったり来たりして現在に辿り着くので、最初は何が起きているのか混乱するほど。
主人公であるエヴァの髪型が現在と過去では違うので、最初は別の人物だと思っていたくらい。
見ている内にだんだんと過去と現在が繋がってきて…クライマックスでは「そういう事だったのか…」と、ゾッとする。
ゾッとする、なんて陳腐な言葉では表現できないくらい。奈落の底に突き落とされる気持ち。
母親として、もうどうしていいか解らなくなる作品だった。
映画は何の情報も評価も耳に入れずに全くネタバレのない状態で見たい方なのだが、この作品に関してはネット上でいくつか評価が目に入ってしまっている状態で観た。
しかし、実際に見てみると、思っていた以上の衝撃だった…内容も勝手に想像していたストーリーとは全く違ったし。
自分的には、ティルダ・スウィントン演じる母親が子どもを虐待したり放置したり…もっと愛情薄く育てたせいで親子の間に亀裂が生じるストーリーだと思っていたんですよね。
でも、実際には一生懸命育てている。
あやしてもあやしても泣きやまず…。
ボールを投げてやっても無反応で睨みつけるだけ。
幼年期から少年期に至るまで可愛い→美しいケヴィン。
可愛いから余計に恐ろしい。美しい「最悪子ども」である。
え~…だって、これ、エヴァはどこか悪いですか?これでどこか足らない親だと言われたら、誰も子育てなんてできない。
母親という物に世の中は一体何を求めているのだろう。
完璧な愛情って何?
これを見ている間、私は「悪の教典」を思い出していた。ああ、サイコパスはこうやって成長するんだな、と思っていた。
ラストシーンが無かったら、きっとずっとそう思って終わったに違いない。
もっとも…ラストを見たからと言って納得しているわけではない。
頭の片隅では、きっとサイコパスなんだと思ってる。
そうであって欲しいという親としての願望なのかも知れない…。
親は子どもに愛情を与えて育てなければならない。
子どもは親に愛されたいと本能的に感じているものである。
親はそれに答えるべきだ。
子供を虐待するなんてとんでもない。
それは悪魔のする行為だ。
…という世の中の考えを根本から覆す恐ろしい作品だった。
ケヴィンを演じたエズラ・ミラーの残酷なまでの美しさが印象的。
こういう造形の人は、特殊な役以外どんな役で光るのかしら…。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
あなたが来るまではママは幸せだった。
エヴァは、言ってしまう。
それも、淡々と。
ケヴィンは全く無反応だ。
そりゃ、言いたくもなるよね…。
母親に対しては悪意を剥き出しにし、父親の前では明るくて無邪気な子供を演じている。
何歳になっても喋ろうとせず、おむつも取れない。
病院に連れて行っても成長に異常はなく、耳にも障害はない。
実際の知能は天才レベル。
おむつは「取れないのではなく、取らない」。口も「喋れないのではなく、喋らない」。
それが、すべて母親を困らせるためにやっている事なんだから……恐すぎる。
普通に育って普通に親に愛情を示し示される妹がケヴィンには気に入らない。
いや、気に入らないと言えば何もかもが気に入らないのか。
可愛い顔に痛々しい眼帯…。
妹の目を潰すことくらい、何とも思わない心のない人間。
しかし、実際には彼の心は「ない」わけではなく、全てエヴァの手と心を煩わせて自分だけに感心を向けたいがための行動らしい。
究極のヤンデレ(「デレ」がないか…)であり、究極の「かまってちゃん」なのらしい。
だって、ついには社会の全てを敵に回し、それと同時に母親も世間から爪弾きにさせる大事件を引き起こすのだから。
大量殺人と、自分を可愛がってくれていた父親、たった1人の妹までもの消滅。
ケヴィンはオモチャだったもの全てを切り捨てた。
彼を育てたエヴァも1人になった。
エヴァに抱きしめられて。ケヴィンがやっと子供の顔を見せた…気がした。
親になった事その物が、重い十字架を背負う事。
1人の人間を作る事は難しい。
母親になる事は難しい。
こんな子どもなら…悪いけど私は要らない…。
でも、育てなくてはならないし、責任を取らなくてはならないんだよね。
母親って、重い重い職業だ。
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