大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]
監督: 金子文紀
出演: 堺雅人、菅野美穂、尾野真千子、柄本佑、要潤、宮藤官九郎、西田敏行、田中聖、市毛良枝、榎木孝明、由紀さおり、堺正章、桐山漣、竜星涼、満島真之介、郭智博、永江祐貴、三浦貴大
公開: 2012年12月22日
2012年12月22日。劇場観賞。
2012年第4クール秋期TBSの連ドラ「大奥~誕生~[有功・家光篇]」の続きとして上映された映画版。(「大奥~誕生~[有功・家光篇]」感想 at ドラマ@見取り八段)
TBS系列の「大奥」であり、フジテレビ系のドロドロ大奥とは違います。
男女逆転大奥であり、将軍は女。仕える大奥の面々は男子である。
2010年には嵐の二宮和也主演で八代将軍・吉宗の代が映画化(感想→)されている。
原作は、よしながふみ氏の同名コミック。
男女逆転しているものの、史実との辻褄は色々と合わせてある。このシリーズの面白さの1つがそこにある。
だから当然、先週まで連ドラ放映されていた「家光編」は三代将軍。次が家綱、そして今回の「綱吉編」は五代将軍。ちなみに2010年の「吉宗編」は八代将軍です。
そんな事はここで説明しなくてもいいですよね。 要するに史実通りだという事です。
家康→秀忠→家光→家綱→綱吉→家宣→家継→吉宗
五代将軍・綱吉は、三代将軍・家光の娘である。ゆえに繋がっているキャラクターは何人もいる。綱吉自身も連ドラに出演している。
ただし、連ドラ「家光編」から年月が30年近く流れているので役者さんは全員変わっています。ドラマ編の有功さまはもういないし、連ドラでは子役だった徳子・綱吉は菅野美穂になっている。
ドラマ版を見ていなかったら解らない内容…という事はないので、映画でシリーズ初見という方もただ普通にSF大河として楽しめばいいと思う。
スタッフはほぼ同じだが、2010年の映画「吉宗編」よりも遥かに見ごたえのあるストーリーになっている。 単なるイケメン大奥ではないので、2010年にガッカリしたという方も、こちらでは切なさに涙できる…かも知れない。
連ドラファンは、終わったばかりの「家光編」を妙に懐かしく感じる事が出来るだろう。ストーリーが繋がっている部分に驚いたり感心したりしながら見る事が出来るのは楽しいところ。
史実に沿っているので…と言えば、徳川綱吉が行った「小学校の社会の教科書にも載っている「あの法令」」も出てきます。そこもドラマ版エピソードと繋がっているのでお楽しみに。
ただ、先週まで「家光編」に毎週どっぷりと浸っていた身には、この2時間の映画はとてもエピソードが足らないように感じられてしまった。
堺雅人さん演じる右衛門佐と菅野美穂さん演じる綱吉の心の繋がりが、ちょっと薄く荒く思えるのだ。
連ドラでは丁寧なエピソードに堺さんの渾身の演技がハマって、視聴者は切ない涙を流し続けてきたわけだが、この劇場版ではさすがの堺さんの演技力でもこのエピソードの薄さは補いきれない気がする。
これは、「家光編」と同じく、連ドラにしてほしかった…と個人的には思ってしまったのだった。
役者さんは皆さん素晴らしい。
桂昌院・西田敏行さんは、もう彼だからあの玉栄をここまで痛々しく切なく描けるのだと思うし、綱吉の菅野美穂さんは小悪魔的色っぽさと可愛さと将軍の気高さの演じ分け、さすがである。
ドラマ版有功と右衛門佐を二役で演じた堺さんは、こちらでは食うために公家から身を落としてきた権力欲の塊っぷりが楽しめる。
ナレーションと右衛門佐の付人・秋本を演じた柄本佑さんの出過ぎない安定感、柳沢吉保を演じた尾野真千子さんの色気と怖さ。何だか可愛い綱吉の側室・伝兵衛の要潤さんなど、みんな印象的なキャラクター。
ただ、どうしても男大奥は彩は画的に地味だよね…。 いくら裃を華やかにしても、女性の打掛には勝てないもの。
奥よりも女だらけの表の方が華やか…というのは、この設定の悲しい所。
そして、メインキャラ以外の男衆に関しては深く描かれていないし、通り過ぎていくだけなので…「吉宗編」のようにイケメンパラダイス大奥を楽しむだけが目的の方は止めといた方がいいです。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
松姫、松姫、松姫……。
綱吉の悲しみの全てが松姫への愛で出来ている。
柳沢吉保に抱かれてむせび泣く綱吉の叫びが切なすぎる。
幼いころに母・家光を亡くしてから愛に飢えて生きてきた綱吉。
唯一真実の愛を与えてあげられる存在である小さな松姫を失ってからの綱吉がとにかく切ない。
父・桂昌院は、子供を子供を、と、それだけしか言わない。家光編で有功のために子を作り、やっと将軍の座が回ってきた娘の血筋でなければ桂昌院は納得できない。大奥でライバルだったお夏の孫にだけは将軍職を継がせたくない。ただの意地である。
それだけに、もう子を産めぬ身体になってしまってからの高齢の綱吉が、それでも父の悲願を叶えるために閨の相手を選ぶ様は、もう痛々しさでいっぱいだった。
男と寝るのは父のため。生類憐みの令も父のため。
すごく親孝行な娘である。
それを押し隠したいから楽しそうに男を選ぶ。鬼畜な所業にも及ぶ。
右衛門佐は、公家の子息でありながら、京で身体を売って生きてきた。
男が少ない世界で、子種は金になった。それしか家族を養う術がなかった。
右衛門佐と綱吉は似た者同士。2人とも夜の闇をさまよい這い出でる事の出来ないネズミ同志だったのである。
貴女様に、ひと目で恋をした。
と右衛門佐は言った。
これは同類の匂いを感じ取ったからなのか…。
ただね、その描写はとても薄かったと思う。
ひと目ぼれだったと言って最初で最後の願いを叶えた右衛門佐の言葉は本当に真意なのだろうか、と思ってしまったくらい…。
この心の繋がりをもっと深く描いてくれていれば、あのシーンにもっと切なさを感じ取れたのかも知れないけど。
なんか、夜這い…?慰めついでにレ〇プ…みたいなツッコミを心の中でしてしまったのでした…。
あとまぁ…堺さんも菅ちゃんも美しい役者さんなんだけど、あのシーンがもう老いてる設定だから、やっぱり絵的にワクテカしきれないというか…ああ、ごめんなさい。
冒頭の牧野成貞の妻お手付きの話は史実である。(…と、言われている。)
もっとも、史実はもちろん逆ですが。つまり綱吉が成貞の妻と娘に無理やり手を付けたと言われている。
でも、これはちょっと…男女逆転だと切なさが伝わらないよなぁ…と思った。
妻が無理やり上司にやられちゃうのと、夫がやられちゃうのじゃ…ねぇ…。
全然違うよね。男の方は無理やり…って事はないだろう……。
それから、大奥でもどんどん閨の相手を変えてたけど、あれ、もし子供が出来たら誰が「お腹さま」か解らなくならないの?
あと、柳沢吉保との関係がちょっと不明瞭。たぶん、綱吉と愛人関係だと思われる吉保がただの忠義の臣なのか愛憎入り混じった感情があるのか、判断しづらかった。
ここは、軽~く百合シーンがあっても良かったのではないかと~。
そんな様々なツッコミを抱えたのでした…。その辺、どう描かれているのか原作で確かめてみたい。
初めての愛を知り、父が嫌うお夏の孫を世継ぎに定め、やっと解放されて愛する人の元へ走る綱吉の輝く笑顔で終わるラストは印象的であり、だからこそまた切ないのだった。
…うん…でも…やっぱりエピソード増やして連ドラでやり直してもらいたいと強く思う。
もちろん、同じキャストで。
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