任侠ヘルパー
監督: 西谷弘
出演: 草なぎ剛、安田成美、夏帆、風間俊介、香川照之、堺正章、杉本哲太、宇崎竜童、黒木メイサ、品川徹、りりィ
公開: 2012年11月17日
2012年11月28日。劇場観賞。
この作品を「任侠でヘルパー?ギャグかよ」とか思ったり「どうせジャニーズ映画でしょ」とか思ったりして避けている人は、とてももったいない。
「任侠ヘルパー」は、2009年第3クールにフジテレビ系列で放映されていた連続ドラマだ。(最終回レビュー→)
一見コメディなのかというようなタイトルだけど、中身はコメディどころか、ものすごく苦かった。
介護問題をギャグなどにできるはずがなく、行政でさえ解決できない老人問題の数々を誰がどうやって救うのか。 そこを真剣に描いた非常に考えさせられる作品だったのである。
今さらの映画化は一体どうなんだ……とは思っていたけれども、こうして映画化されて見直してみると、連ドラの時には毎回涙しながら見ていたのに3年経ってスッカリ平和ボケして忘れている自分に喝を入れられた気がした。
連ドラから3年経つ内に、自分の両親も主人の両親もますます年を取り、ますます身近になってきた問題だから余計に苦かった。
また、この作品は主役の草彅 剛の新境地とも言える役柄で、その演技は素晴らしかった。
どうせ良い人の役ばかり、とかジャニーズ演技とか思っている人にも、ぜひ見ていただきたい。
私が草薙くんは凄い役者だと思っているのは、この翼 彦一を見たからなんだもの。
映画のテーマは連ドラとほぼ同じ。
連ドラ時のラストに「俺たちは、目の前にいる年寄りを放っておく事は出来ねぇ」と、行政を敵に回して目の前の弱者に手を差し伸べる事こそ任侠道だと言っていた翼 彦一も再びムショに入れられて出てくると結局ヤクザの道に戻るしかなく、老人相手に年金や手当を巻き上げて劣悪な環境の施設に押しこむお仕事を始めちゃっている。
しかし、子どもと美女の涙には勝てないところも相変わらずの彦一さんなのだった。
大河内教授にも柳先生にもクレーマー爺さんにもボケた老人にもなれる品川徹さん…。品川さんだからこそ、かつてはきっと良い仕事をしていたのにこんな所に入れられて…という哀愁が出るんだよね。
※品川徹さんは、ブログやっていらっしゃるんですよね~。お忙しそうなご様子。書かれている事がただの宣伝ではなくてエッセイとして読みごたえあります。
素敵な役者さんですね。 http://blogs.yahoo.co.jp/jcbsf264
どうせヤクザと絡んでるんでしょ、と思ったら、正義感溢れた議員の2世ボンボンだった香川照之。珍しく明る~い舎弟役の風間俊介くん。幸薄いシングルマザー安田成美。アウトレイジな宇崎竜童と杉本哲太。
主役の草なぎくんだけではなく、役者さん皆さん素晴らしい。
私的には「コドモ警察」で可愛すぎてニヤニヤだったスマートさんこと秋元黎くんが普通の子どもの演技をしていたのが嬉しかった~。相変わらずカワイイっっ!
そして、夏帆ちゃんは最初誰だか解らなかった。メイクですごい変わりよう…。
劇中、何度も本気で泣きそうになった。だって、やっぱり心痛いから。
連ドラと同じく、ビターな後味で終わった。決して綺麗ごとには出来ない。当たり前だ。だって、綺麗ごとだけでは解決できない問題なのだから。
それでも、出来る限り綺麗ごとにするために、彦一たちはたくさんの血を流して痛い目に遭う。
老人介護の問題は、誰だっていつかは他人事ではない。誰もがいずれは痛い思いをしなければならない。
タイトルや先入観で避けずに、多くの人に見ていただきたい1本。
全く別の所から始まるので、連ドラを見ていなくてもついて行けます。ぜひ。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
働くために痴呆の母を高級施設に預けたら、薬漬けにされて自分や孫の事さえ判別できないようになっていた…。
無理やり施設から連れ出して逃げるように車に母と子どもを押し込む。ボロい車はなかなかエンジンがかからず、何度も回していたら折れてしまうキー。
もう、誰も救ってくれない、どうにもならない絶望感で泣き崩れる葉子のシーン……。
あまりに苦しくて、一緒に泣いてしまう。
どうすれば救われるんだろう。
彦一はここからまた「弱きを助ける道」を歩き始める。
人手は雇えない。だからボケて押しこんでいた老人たち自身に手伝わせて、ゴミや汚物で腐ったようになっている「うみねこの家」を生まれ変わらせる。1日中寝たきりで何もできなかった入居者たちの顔が輝き始め、どんどん積極的になっていく。
人は必要とされて初めて生かされるものだから。
「ここは自分の家じゃない」と、出て行こうとしていた認知症の老人が、火事の後には「うみねこの家」に帰ってきている。楽しかった思い出が詰まった家。
物語の流れはドラマと本当に同じで、彦一は自分の身を犠牲にして目の前の弱者を救う。
八代も彦一の生き方を理解する病院でのシーンも好きだ。
行政もヤクザも弱者を救わない。弱者を救うのは、そこにいる人の「手」。ただそれだけ。
最終的には、何かが丸く収まるわけではない。
「うみねこの家」が再建されるかどうかは解らないし、あの老人たちはまたバラバラに劣悪施設に押し込められるかもしれないし、極鵬会が丸ごと逮捕されたって新たなヤクザが弱者から搾り取る行為をまた始めるかもしれない。
それでも、彦一がこの地に戦う人たちを残して行ったのは事実。
少しずつでも希望が見えれば、今はそれでいい。
理想だけに走るのではなく、そこに「人の手」がある事を教えてくれるこの作品が私は好きだ。
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