私は貝になりたい
作品情報
監督・キャスト
監督: 福澤克雄
出演: 中居正広、仲間由紀恵、石坂浩二、上川隆也、笑福亭鶴瓶、草なぎ剛、西村雅彦、平田満、マギー、武田鉄矢、六平直政、荒川良々、泉ピン子、柴本幸、加藤翼、伊武雅刀、片岡愛之助、名高達男、武野功雄、浅野和之、金田明夫、山崎銀之丞、梶原善、織本順吉
日本公開日
公開: 2008年11月
レビュー(ネタバレ含みます)
☆☆☆
8月15日TBS地上波放送「水曜プレミアシネマ」にて視聴。
大元は1958年・フランキー堺主演のTBSドラマ
劇場に行くのを見送ったので初見です。
この作品の大元は1958年にTBSで放送されたフランキー堺主演の同名ドラマである。私はたぶん2度ほど見た記憶があります。(再放送でだからっ! まだ生まれてないから!)
あらすじと概要
内地の日高中隊に所属した豊松は、厳しい訓練の日々を送る。
ある日、撃墜されたアメリカ軍B-29の搭乗員が大北山山中に降下。軍司令官の矢野中将による「搭乗員を確保、適当(2008年の映画版では「適切」)な処分をせよ!」という命令が、尾上大隊を経て大北山の最寄にいた日高中隊に下り、山中探索の結果、虫の息であった搭乗員を発見。
そこで豊松は、小隊長から滝田二等兵とともに銃剣でその米兵を刺すよう命じられた。
終戦後、豊松は無事に復職するも戦犯として特殊警察に逮捕され理不尽な裁判に人生を翻弄されるのであった。
(以上「私は貝になりたい」Wikipedia より引用)
理不尽な死刑の理由
初めて見た時の衝撃は今でも忘れられない。
こちらの言い分など何も聞かれず、最初から結果が決められている茶番のような裁判。
上官の命令で自分自身の命を守るためにやむを得なく行った残忍な行動によって主人公は簡単に自身の死刑判決を聞くことになる。
あんたね、上官の命令って言ったら絶対なんですよ!
なんで俺が!なんで俺が!なんで……!
別に訓練された志願兵でもなく、赤紙一枚で出征させられた町の気の良い床屋のおやじが、ただ命令通りに動いただけで戦犯として受ける死刑判決…。
それでも、主人公は希望を失わない。
希望を失わない…というよりも、「こんな理不尽がまかり通るわけがないから、判決は覆されるのが常識だろう」と考えて巣鴨プリズンと呼ばれる拘置所で日々を過ごす。
最初は緊張して日々を過ごしていた主人公・清水豊松たちにも、次第に「本当に死刑なんかないのでは」という楽天的な気持が芽生え、巣鴨プリズンの中の空気も明るくなっていく。
そんな気が緩みきったある日、突然下される執行命令……。
この淡々とした日々から突き落されるストーリーの作りが見事な事と、「ただの床屋のオヤジの悲劇」を演じたフランキー堺さんの表情の素晴らしさ、そして、あまりに理不尽な結末に涙も出ないほどのショック…。
ストーリーの細かい所までは覚えていなくても、ヒジョウに後味の悪い名作として記憶にずっと残るドラマになったのだ。
1994年・所ジョージ版リメイク
これが1994年、所ジョージ主演でリメイクされる。
この時にも「何でリメイク?」とは思ったのだが、何せフランキー堺版は映像が古い。
白黒だし、まぁ、あまり覚えていないけれども演出も古臭かったのだろうか…。せっかくの名作だから、新しい技術で世に残そうとスタッフは考えたのだろう……と解釈した。
1958年版当時では、フランキー堺さんは喜劇役者…というよりはいわゆる芸人だったらしい。
だから同じような味を出せる芸人という事で所ジョージさんが起用されたのかな。
元々フランキー堺版に関する記憶もおぼろげだったので、私にはほぼ同じ感じに思えた。
豊松は普通の町の床屋の気の小さい優しい亭主で、この時の奥さん役は確か田中美佐子さん。
ダンナが二度と帰ってこないなどと思いもせずに、床屋の留守を預かって明るく店を切り盛りする普通の奥さん。
常識では考えられない理不尽な結果を嘆いて死んでいく男とそんな事は予想もせずに普通に暮らす女房
だからこそ、見る者の心に残る後味の悪さ…こんな理不尽な事は絶対にあってはならないという怒り…そういう物が伝わるドラマになっていたと思う。
(映像としては、フランキー堺版は階段を上る所まで、所ジョージ版は執行まで…だったような気もする)
2008年・中居正広 劇場版リメイク
さて…
私がなぜ中居正広版を見に行かなかったのかというと、予告で見た主人公の人の演技が妙に熱すぎる感じだったから…。
後は同じく予告で妻役の仲間由紀恵さんが死刑執行反対の署名を集める旅に出ているようなシーンがあったから。
予告を見て思わず「ええーっっこんな話じゃないのに~」と言ってしまった。
きっと、さぞかしお涙頂戴な出来になっているに違いない……もう見に行かなくていいや~。と、予告で白けてしまったのである。
ドラマ版は確か妻は各地を回って署名集めなんかしなかった気がするし…だって、夫婦共に「こんな事があるわけがない」と思っているから、もっと冷静なのである。
なのにラストで突き落される現実に登場人物も視聴者も愕然とするのだ。
で、この度見てみてどうだったかというと……。
アリだな。
と思った。
まぁ…お涙頂戴を覚悟して見たからというのもあるけれども、泣かせようとしているシーンではウルっと来たし、私が一番「うぇぇぇぇ」と思っていた妻が署名を集めるシーンは山の紅葉や雪景色が美しく、映画にするなら確かにこういう映像入れないと…と思えるものだった。
そもそも実話なのか
元々ドラマだって実話ではないんだし…
はい、実話ではないんですよ。ただし有名なラストの手記部分は実物です。元陸軍中尉であった加藤哲太郎氏の手記「狂える戦犯死刑囚」の遺言部分から創作されたドラマです。
「遺書」
こんど生れかわるならば、私は人間になりたくありません。
牛や馬にも生れません、人間にいじめられますから。
どうしても生れかわらなければならないのなら、私は貝になりたいと思います。
貝ならば海の深い底の岩にヘバリついて何の心配もありませんから。
何も知らないから、悲しくも嬉しくも痛くも痒くもありません。
頭が痛くなることもないし、兵隊にとられることもない。戦争もない。
妻や子供を心配することもないし。
どうしても生まれ変わらなければならないなら、私は貝になりたい
ドラマと映画は別物
だと自分に言い聞かせて見れば大した事ないかなぁ…と…。
年齢的には合っているんだろうけれども、中居さんのルックスはやっぱり若いから、「ただの床屋のおやじ」に見えづらいのが難と言えば難……。
そして演技もやっぱり、ただの床屋の親父としては熱すぎる感じはする。
しかし、ストーリーの大筋はドラマと驚くほど変わらなかった。
ただ、夫婦愛のような物が誇張されている分、この時代の理不尽さのような物を描く部分はテーマとして半減されている気がする。
たぶん…映画のテーマ自体「夫婦愛」なんでしょ。
だったらこれでいいんじゃないでしょうか。
ただし、それだったら私が見たかった「私は貝になりたい」とは違うので、やっぱりお金出して見に行かなかったのは正解だったな。
見終わって、そう思った。
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