キャタピラー
監督: 若松孝二
出演: 寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ、石川真希、飯島大介、安部魔凛碧、寺田万里子、柴やすよ、椋田涼、種子、折笠尚子、小林三四郎、金子貴明、地曵豪、ARATA、篠原勝之
公開: 2010年8月14日
2010年ベルリン国際映画祭・銀熊賞最優秀女優賞受賞
DVD鑑賞で。
とにかく衝撃的である。
長い時間、身じろぎする事も出来ず、あっという間に終わった。
かと言って、もちろん楽しく見ていたわけではない。
見終わった後味の悪さ。
もう、ずっと眉間にしわを寄せて見ていたくらい。
ラストには敗戦後、日本で起きた戦犯処分のカットや、
元ちとせの、なぜか原爆の歌(別に広島の話ではない)が流れるが、そこに物凄く違和感を抱いてしまった。
だって、この作中で描かれている事は、戦争のせいで起きたわけではないんだもの。
もちろん、夫があんな姿になったのも、妻がお世話人生活を強いられるのも戦争のせいである。
しかし、根本にある物は違うでしょう。
監督は、この映画で「戦争は悲しい物だ」という事を本当に描きたかったのでしょうか?
(どうも、EDなど見ていると、そんな雰囲気もあるんだけど)
私だったら、この映画の宣伝文句はこう書く。
DV男に苦しんでいる女性たちに捧ぐ。
受賞した寺島しのぶの演技は、もちろん素晴らしかったけれども、夫役の大西信満の演技が本当に壮絶だった。
以下ネタバレ感想
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この夫婦が、元々すごく愛し合っていて、涙ながらに別れ、こんな事になってしまった・・・というなら、これは間違いなく反戦映画と言えるだろう。
しかし、夫は子供が出来ない事で妻を責め、殴っていたというのだから、もう、この夫の帰還後の生活は全く「夫婦愛」や「反戦」とは別の意味を持つ物になってくる。
むしろ、妻にとっては、最初こそ絶望感に陥ったものの、「こんなことになったからこそ」の復讐の快感が味わえたのでは…と思えてしまう。
妻として役立たずだと言われ、家政婦や「穴」のような生活を強いられていた生活から一転、妻は夫の命さえ握る存在になる。
ご褒美として「穴」を与え、エサのように食事を食べさせ、「軍神の妻」として周囲に称えられる日々。
夫は、この妻にしてきた仕打ちを、戦地で敵国の女にした仕打ちを、少しは後悔しただろうか。
この作品は「穴」にされた女たちのリアルな復讐劇なのだ。
だからこそ、恐い。
終戦後、この妻は、案外しぶとく1人で生きていく気がする。
夫は、この後も続くだろう生活への絶望感からの自殺かも知れないけれども、周囲は「軍神」として敗戦の責任を取って自殺した、と思ってくれるだろう。
弱者をいたぶる者は報いを受ける。
そんなメッセージをタップリ見せつけられた後の反戦感ばりばりのED曲が何だか虚しかった。
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