長いお別れ
作品情報
監督・キャスト
監督: 中野量太
キャスト: 蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山崎努、蒲田優惟人、中村倫也、北村有起哉、杉田雷麟、松澤匠、清水くるみ、倉野章子、不破万作、おかやまはじめ、池谷のぶえ、藤原季節、小市慢太郎
日本公開日
公開: 2019年05月31日
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2019年6月3日
2016年、各映画賞を総なめにした『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督作品。
あれにあまり乗れなかった自分だけれども、あれの評価でよく語られていた「残酷だけれど温かい」「泣けるけれどもホッコリ」「家族愛に溢れている」という文句をそのままこの映画に充てたい。
リアリティがあって逞しくて温かい。いつか誰もが通る道。
あらすじ
父、昇平の70歳の誕生日会。久しぶりに集まった娘たちに告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった―。日に日に記憶を失っていく昇平の様子に戸惑いながらも向き合うことで、自分自身を見つめ直していく家族たち。そしてある日、家族の誰もが忘れかけていた“愛しい思い出”が昇平の中に今も息づいていることを知る…(Filmarksより引用)
リアリティ
こういう映画は定期的に見なければいけないな、と時々思う。親を忘れがちな自分を思い出すために。夫への気配りが足らない自分を思い出すために。
だって、誰もが必ず死へと向かっていくのだもの。誰もが必ずそれを送らなければならず、また体験しなければならない。後悔しても遅いのだ。
自分の父の臨終辺りを思い出した。
あの頃の母がそのままスクリーンの中に居た。
子どもたちを実家に来させたくて、父に会わせたくて、少しでも家族の時間を持ちたくて……そして少しでも長く父を家に居させたかった母。
特にラスト近くの「あるシーン」で、母と同じ表情をした松原智恵子さんがスクリーンの中にいるのを見て、何という映画なのだろうと恐ろしくなった。
粗相してしまう老人の描写よりも、あれはもっとゾッとするリアリティだった。あのシーンで責められているのは私だった。
ユーモア
けれども、決して説教臭い映画ではなく、痴呆が進んでいく父親と娘たちの触れ合いにはユーモアがあった。
ボケていく人というのは、ある意味可愛いものだ。人間は老いて子供に帰って行くと言うけれども、まさにそれ。
山崎努さんが演じているから、より可愛くなるのだろう。深く温かい人生観が役の向こうに見えるから。
実は後ろの席にペラペラ喋りながらよく笑うおばさま方が座っていらして、「上映中に喋るなよ」と言いたいところだけれども、この方々が笑うタイミングがとても興味深かった。
『東京家族』の時にも同じような事を書いたけれども、人生経験が多いと「えっ、ここで笑うの?」というような所が可笑しいらしい。
つまり、私たちの年齢だと笑いごとで済まないようなことが、ご年配になるほど笑いごとになるらしい。
そうか……こんな悩みも、こんな苦しみも、いつかは笑いごとになるのかな。
そんな風に思いながら聞いていると、上映中の「あらあら」と言うつぶやきもなかなか味のある合いの手だった。
姉妹キャストの不思議な融合
正直、キャストを知った時、蒼井優と竹内結子という組み合わせに違和感があったんですよね。
これは『海街diary』の時に感じた綾瀬はるかと長澤まさみの組み合わせみたいなもので、ここを同じ画面に納めたら良くない異次元反応みたいなものが起こりそうな感覚(笑)
けれども、『海街』同様、余計な心配だった。名作の中ではそういう違和感は綺麗に消えてしまうものなんだね。
蒼井優さんはいつものように文芸作品にピッタリはまり、竹内結子さんは驚くほど自然に「蒼井優の姉」だった。
「長いお別れ」の意味
物語はゆっくりとユーモラスに、時に厳しく父の道のりを辿り、それと同時に姉妹それぞれの人生を描く。
「長いお別れ」とはどういう意味なのか。
それが語られるシーンで「ああ」って。(後ろのおばさまも「そういう意味だったのーー」と。つぶやいていた(笑))
それが家族にとって幸せなのかそうでないのかは、その家族の力に掛かっている気がする。
私はもの凄く冷たい娘だったなぁと、この映画を観てしみじみ反省した。
家族ってこんな存在じゃなきゃダメだ。
そう思わせてくれる作品。
以下ネタバレ感想
英語で認知症を「長いお別れ」(The Long Goodbye)と言うのだそうだ。
長い時間を掛けて少しずつ「さようなら」していくから。
お母さんは、そのLong Goodbye をずっと共に歩んできたんだね。
娘には娘の人生があることは分っていても、その長いお別れに参加してほしかった。
呼吸器で延命するかしないか。
最期、あのシーンで、
「あなたにお父さんの何が分るって言うの?」
と、初めて厳しい顔を見せたお母さん。
私が父の臨終近くに何か言った時、私の母もああいう顔を見せていた覚えがある。
一番近くに居た妻だけが理解できる夫の意思。
そこだけは、家族でも入ってはいけないテリトリーだったのね。
孫の今後は気になるけれども、漢字マスターの最期を彼は知っている。
きっと、親を嘆かせるような大人にはならない。
体験は、何よりも大きな教育。
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★前田有一の超映画批評★
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