ヘイト・ユー・ギブ
原題 : ~ The Hate U Give ~
作品情報
監督・キャスト
監督: ジョージ・ティルマンJr.
キャスト: アマンドラ・ステンバーグ, レジーナ・ホール, ラッセル・ホーンズビー, K・J・アパ, コモン,サブリナ・カーペンター,アンソニー・マッキー,アルジー・スミス
日本公開日
日本未公開
レビュー
☆☆☆☆
劇場観賞: 2019年4月17日(優秀外国映画輸入配給賞上映会)
国内未公開だそうで、何ともったいない!
事件の概要は『フルートベール駅で』を思い出す。撃たれた理由は「黒人だから」。
あらすじ
白人社会と共存していく方法を小さい時から教えられてきた黒人の女子高生スター。白人が通う学校に通いボーイフレンドも白人。黒人であることを忘れたかのような毎日を送っている。しかしある日、幼馴染が自分の目の前で白人警官に射殺される。しかし、警察は警官の行為を正当化しようとし、事件は事実と異なった報道をされていく。事件によって変わりゆく周囲とスターの心。覚悟を決めた彼女は、大人社会の矛盾に立ち向かう決心をするのだった―…(ヘイト・ユー・ギブ(Amazon)より引用)
実話モチーフの原作
原作は、2009年カルフォルニアで無抵抗の黒人青年を警官が射殺した「オスカー・グラント事件」をモチーフに書かれたベストセラー小説。
オスカー・グラント事件
2009年1月1日。カリフォルニア州で無抵抗の黒人青年オスカー・グラント三世が警官に取り押さえられ銃殺される事件が発生した。事件は駅で発生したため目撃者や証言も多く、発砲した警官は有罪となった。(たった11ヶ月の禁固刑)
この事件により数々の抗議運動が起きている。
NYタイムズのベストセラー小説
原作は小説であり、オスカー・グラント三世射殺事件をそのまま描いたわけではない。
だから、そう考えると本当にプロットからセリフまで素晴らしい。
ヒロインは黒人社会に引け目を感じて生きている少女だ。子どもたちを守るためにゲットーの高校ではなく、白人が通う私立に入れた母。
その中で、ヒロイン・「スター」は白人に溶け込むように生きている。自分の家は白人の彼氏には明かさない。白人の友達が使っているスラングも使わないようにしている。「上手くやっている」そんな日々が事件を切っ掛けに崩れていく。
スター役・アマンドラ・ステンバーグの繊細かつ情熱的な演技。笑顔が可愛いんだ。本当に。
The Hate U Give Little Infants Fucks Everybody
平穏に無難に暮らしていたはずだったスターの日常に、突然、差別や恐怖がなだれ込んでくる。
タイトルも事件の概要も人種差別を表しているので、それと闘う話かと思いきや。
この映画は、差別は止めようという有り触れた話には留まらない。憎しみを断つためにどう動くかという正義のテーマ。
『The Hate U Give Little Infants Fucks Everybody』
おまえが与えた憎しみが、子どもたちに植えつけられる。
家族の物語
そして、どんな時にも正確に子どもを守り力になる親の存在を描いた物語でもあった。
カーター夫妻と子どもたちは、もう初めから最後まで好きでいられる存在で。観ている方も、この親なら安心して頼れると思ってしまうのだった。
実はこの日は上映会の前に『ビューティフル・ボーイ』を観に行っていて、親子の難しさについてドップリ悩まさせられていたので、ちょっとホッとしてしまった。状況は、ちっともホッとできるものではないのに。
自信と黒人の誇りを教えられる父親、悪い事は悪いと叱ることが出来る母親。愛し合う両親。
善きファミリーの絆の基。
未公開なので配信かディスクで…
本当にもったいないことに、日本未公開なので……。現在のところは配信で視聴するしかない模様。
第57回 優秀外国映画輸入配給賞授賞式にて
社団法人外国映画輸入配給協会が主催している「優秀外国映画輸入配給賞授賞式」の上映会で観た一本。この作品自体が受賞したわけではないが、20世紀フォックスさんが最優秀に輝いたおかげてこの作品と出会う事ができた。感謝します。
第57回 優秀外国映画輸入配給賞
・最優秀賞 20世紀フォックス
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」
「ボヘミアン・ラプソディ」
「女王陛下のお気に入り」
・優秀賞 ギャガ株式会社
「グリーンブック」
「華氏119」
「スターリンの葬送狂騒曲」
「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」
・奨励賞 株式会社ツイン
「1987、ある闘いの真実」
「LBJ ケネディの意志を継いだ男」
「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」
・奨励賞 有限会社ロングライド
「女と男の観覧車」
「判決、ふたつの希望」
「ビール・ストリートの恋人たち」
以下ネタバレ感想
おじである黒人警官の言葉が世相を表して痛い。
「待てと告げた対象が車の中から何か取り出そうとしたら、それは大体、銃だ。だからこっちも銃を構える。」
「タキシードを着て高級車に乗った白人でも撃つ?それとも「手を上げろ」と言う?」
「……手を上げろと言う。」
カリルが撃たれたのは、やはり黒人だからだった。
カリルを撃った警官は白人だから無罪になった。「カリルは売人だったから」。
スターの証言は、カリルは売人だった、という証言にすり替えられた。
何という理不尽。
それでも、本当の事を叫ぶ道を選ぶことが出来たのは、黒人である誇りを持つことを父が教えてくれたから。
スター=輝くために生まれて来たから。
憎しみを続けることは、子どもに植え付けられ、また連鎖する。
これを断ち切るために、暴力で支配することがない世の中を。
「理不尽で可愛そう」ではなく、愛と希望に溢れる作品だった。
まずは、子どもたちが銃を持たなくていい明日を。
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