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『後妻業の女』良い夢見るには金がいる

後妻業の女

 

作品情報

監督・キャスト

監督: 鶴橋康夫
キャスト: 大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、笑福亭鶴瓶、津川雅彦、永瀬正敏、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、美村里江、樋井明日香、梶原善、六平直政、森本レオ、伊武雅刀、柄本明

日本公開日

公開: 2016年8月27日

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 2016年8月31日

 

人間、何歳だろうが孤独を埋めることに関して、そして金に関して貪欲でありつづける。

年寄りにとってはとんでもなく不謹慎な話だろうけれども、私はむしろこの作品は年寄りに活力を与えると思う。

悪事だろうが何だろうが、こんなに生き生きと執着する人たちを見たら!萎んでなんていられないと思うのではなかろうか。

これは、人を元気にする映画。

あらすじ

「武内小夜子、63歳、好きなことは読書と夜空を見上げること…わたし、尽くすタイプやと思います」結婚相談所主催のパーティで可愛らしく自己紹介する小夜子(大竹しのぶ)の魅力に男たちはイチコロである。耕造(津川雅彦)もその一人。二人は惹かれあい、結婚。幸せな夫婦生活を送っていた、はずだった—。2年後耕造は亡くなり、葬式の場で耕造の娘・朋美(尾野真千子)と尚子(長谷川京子)は、小夜子から遺言公正証書を突き付けられ、小夜子が全財産を相続する事実を言い渡される……(Filmarksより引用)

「後妻業」とは

原作は黒川博行の小説『後妻業』。

高齢者に近づき婚姻関係を結び、その死を待って(あるいは早めて)財産を根こそぎ奪う「稼業」。

筧千佐子の事件

実話の事件として4人の男性を殺害して遺産を手にした筧千佐子の事件が記憶に新しい。

京都、大阪、兵庫3府県で起きた連続青酸死事件で、夫や内縁男性ら4人に青酸化合物を飲ませて殺害したなどとして殺人罪と強盗殺人未遂罪に問われ、1審で死刑判決を受けた筧(かけひ)千佐子被告…
出典: 「連続青酸死控訴審は即日結審 筧千佐子被告出廷せず」産経ニュース

このニュースの時に「後妻業」という言葉が世間に一気に広まった。「後妻」を生業とするから「後妻業」。

元になったのは、まさにこの小説らしい。

通天閣やぁ!

この作品から受け取るのは、とにかく「精力」。

小夜子は貪欲。金が欲しくて認められたくて愛も欲しい。小夜子だけではなく、この映画に出て来る人出て来る人、誰も真っ白なんかではないのね。

善良の裏にある嫉妬、悪意の裏にある欲、正義の裏に罪悪感……何が起きてもみんな自業自得。

しかし、欲があるから人間生きているのであって。通天閣にはしゃぐ小夜子はとても人間らしいのだった。

大竹しのぶの腐れ女っぷりが凄い

キャストがもう、本当にクセモノ感が素晴らしくて
 

豊川悦司のとことん金と女に汚い感。

オノマチさんの正義振りかざして裏は欲だらけ感。

水川あさみの色っぽカワイイちゃっかり感。

風間俊介の純粋に悪い道まっしぐら感……。

そして、何よりも、とにかく、大竹しのぶの豪快なくそババアっぷりが凄い

欲づくめの厭らしさと、年齢だけではなく見た目に不相応の派手さと、あの、おばさん特有の猫背。

こんな女には誰も太刀打ちできないわ。
 

モデルケースの実話事件の方は笑って済ませられるものではないけれども、この映画は眉をしかめながらも笑ってしまう映画だった。

人間は、欲が失くなったらおしまい。

生きている限り、何かしら煩悩抱えていくんだね。

2019年1月期のドラマと比較して

映画の方は本当に汚くて。腐った精神が肉体が、臭うように汚くて。

恐ろしさをユーモアに変えて、不謹慎な笑いで溢れていた。

ドラマの方は、やはりおキレイすぎたのね。木村佳乃さんは面白いキャラをよく作り上げていて、それは素晴らしかったと思う。

けれども、彼女が映画の方の世界に入ってきたら、恐らく一本取られてしまっているよね。汚さが弱い。

もっとも、映画版のベクトルで3ヶ月10話もやられたら局にクレームが来そうだから(笑)ドラマ版はドラマ版で、あんな緩さでいいのかも知れない。

何だか「老人可哀想」のようなウェットな話になっていたのは受け入れられず。そこがドラマ版の一番残念だった所。この話は、もっと悪党でいいんだ。

 


以下ネタバレ感想

 

鶴瓶だもんなぁ(笑)ホレる要素が金と通天閣だもん(笑)目の輝きが良かったわ。
 

殺した小夜子をスーツケースにツッコむ時の柏木と博司の怯えよう。何て芝居の上手い人たちなんだと思ったよ。トヨエツと風間くん。「気色悪っっ!」言っちゃうもんね(笑)

原作は未読だが、博司は息子ではなくて弟らしい。(ドラマではここをもう一歩ひねって「弟として育てて来たけれども実は小夜子の子」という設定になっている(そんな面倒な設定、必要ないと思った(笑)))
 

動くスーツケースに爆笑。

そして、警察に捕まる寸前の柏木を前に小夜子は言う。
 

「私、被害者ですねん。」
 

「自分さえ助かればいい」で溢れる話である。悪党はそれでいい。
 

朋美と尚子の姉妹が、お父さんが遺してくれた家に2人で住んでいるラストが好き。

「よく考えてみたら、お父さんのお金はお父さんの物。どう使おうとお父さんの自由。」

騙されて変な女にやってしまおうが、自分のために全て使ってしまおうが。

そういう結論に達した、ここだけがこの作品の善意。そこで初めて救われる。

しみじみと、上手い。

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★前田有一の超映画批評★
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