サンセット
原題 : ~ Napszállta ~
作品情報
監督・キャスト
監督: ネメシュ・ラースロー
キャスト: ユーリ・ヤカブ、ヴラド・イヴァノフ、スザンネ・ヴェスト、エヴェリン・ドボシュ、マルツィン・ツァル
日本公開日
公開: 2019年03月15日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2019年3月7日(試写会)
「サウルの息子」のネメシュ・ラースロー監督作品。
主人公追い視点のため、全体が見えない、おぼつかない足元。
何処へ行きたいのか何をしたいのか分からない感覚が物語と相まって不安を煽る。
あらすじ
1913年、オーストリア=ハンガリー帝国が栄華を極めた時代。イリスは、ヨーロッパの中心、ブダペストのレイター帽子店で働くことを夢見てやってくる。そこは、彼女が2歳の時に亡くなった両親が遺した高級帽子店だ。だが今のオーナーであるブリルは、突然現れた彼女を歓迎することはなく追い返してしまう…(Filmarksより引用)
イリスの視点
冒頭からヒロイン・イリスの視点が何だか何処にも合わないのだ。
これは「サウルの息子」の時にも感じた違和感だったけれども、あの場合は状況が状況。ゾンダーコマンドとしてあちこちに走らされ、明日の自分がどうなるかも分らず、「息子」の行方も分からず……そりゃ視点も合わなくなるよね、と思ったもの。
だが、イリスの場合は最初は希望を持ってブダペストへやって来たらしい。イリスの視点がいつも宙を見ているようで、表情も硬く、とてつもない決心をしてここへやってきたように見えるのだった。
後々から考えたら、それはあながち間違った見方でもないのかも。
「オーストリア=ハンガリー帝国」解説
時代は1913年。前身である強大なオーストリア帝国は、この時、ハンガリーとの同君王国として栄えていた。君主はハプスブルク家。映画でもたびたび現れるマリー・アントワネットさまのご実家である。
1887年のオーストリア・ハンガリー帝国の言語分布図。 pic.twitter.com/aNpXmtF2Ym
— 民族と国境bot (@NationBorderBOT) 2017年7月25日
この5年ほど前にオーストリアはオスマン帝国の革命に乗じてボスニア・ヘルツェゴヴィナを併合する。この強制併合は民族や宗教問題の遺恨を作り、オーストリアは多くの民衆から恨みを買う事になる。
そして、劇中に出て来るフランツ・フェルディナント皇太子とゾフィー夫人が巻き込まれるサラエボ事件へと繋がっていく……。
「サンセット」の意味
サンセット(sunset)とは言うまでもなく「日没」のことで、上記の歴史背景も踏まえると、この時期はオーストリア=ハンガリー帝国の没落期手前にあたる。
映画の中では人は華やかに行き来し、ゴージャスな帽子屋は繁盛しているが、ハプスブルク家はサンセットの時を迎えようとしていた。
皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の息子は自殺し皇后は刺殺された。
そしてフェルディナント皇太子夫妻が暗殺されたサラエボ事件。そこから勃発する第一次世界大戦……。
まさにサンセット前の混乱したブダペストに、イリスはちょうど居合わせた。
史実ではなく……
とはいえ、別にイリスがサラエボ事件に巻き込まれたわけではなく(それは後年の話)、このヒロインは、とりあえず自分のために精いっぱい動く。
先にも書いたけれども『サウルの息子』と同じような主人公背後視点の映像なので、ちょっと3Dロールプレイングゲーム感覚。
けれども、イリスというキャラはゲームのように思い通りに動いてくれない。どうしてそんな所に行ってしまうんだ!と叩きたくなることしきり(笑)
表情の堅さもあって、なかなか読み取れないヒロインである。物語も淡々、ヒロインも淡々……淡々と、でも、行動しまくる。
自分解釈で見ても良い作品だと思われたが、監督のコメントを読むと明確に狙いはあるっぽい。それはちょっと分らなかったな。
帽子屋が行っているという「アレ」も、この時代だし、相手が王宮なら別段悪い話ではないような気がしてしまったのだけれども、監督コメントを読んだら、
『サンセット』は、1910年代の女性の価値観から逸脱した、自らの信念と欲求に従い大人になっていく少女の話とも言えますね」と説明する。
(映画ナタリーより引用)
と、あったので、現代感覚で書いたらしい。
そう考えると、ますます「歴史もの」というよりも、自由な創作物として楽しむ方が良いのかも。
色々と独自解釈できる作品なので、監督コメントは観てから読んだ方が良いと思います。
主演のユーリ・ヤカブは「サウルの息子」にも出演していたらしい。あまり記憶にない。ラストに行くにつれ強くなっていく表情は中性的な魅力がある。(だから選ばれたのよね。たぶん)
個人的な好みはゼルマだ。かわいい、美しい。
自分の独自解釈はネタバレ欄で。
でも、とにかく、これは「サウルに息子なんて…」の再来でしょ。
貴女は一体誰を……
以下ネタバレ感想
どうして、この娘は「行くな」と言われた所にずんずん行ってしまい、「ここに居ろ」と言われても勝手に動いてしまうのだろう。
貴族の家も王宮もセキュリティ甘すぎでビックリするわ!!
店の子に何度も「私ばかり仕事している」「貴女の代わりに仕事した」と言われていたけれども、私だってたぶん言うわ。監督インタビューではジャンヌ・ダルクのように思えると書いてあったけれども、個人的には何だか勝手すぎる迷惑行動に辟易しながら見ていた(笑)仕事中にフラフラしまくる新人、ウチの会社には要らん(爆)(雇ったわけではないと言われてはいたけど)
解釈(という名の独自考察)
一体、何をやってるの……という、以上の点も踏まえて。
医者に言っていた通り
「私は病気なのでしょうか」
という事なのかなぁと思った。
兄は一体、どこへ行ったのか。兄は本当に始末されたのか。
兄の遺体はなく、視点は常に定まらず、屋敷はセキュリティ甘くスルスル入ったり出たりできる。まるで悪夢の中のよう。
これは、妄想なのでは。
「ただの水だ」
と皇太子が言っていた通り、ただの水なのだ。毒など何処にもなく。
そうして、妄想の中でイリスはついに兄と同化した。
ラスト。
戦場に居るのは兄であり自分であるイリス。
兄探しは結局、自分探しの旅だった。
女たちを手籠めにした(?)皇太子を憎んでいるのだから、サラエボ事件にも関わったのかも。
そんな風に思えてしまった。
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