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『万引き家族』誰も知らない

万引き家族

英題: ~ Shoplifters ~

『万引き家族』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: 是枝裕和
キャスト: リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林、緒形直人、森口瑤子、蒔田彩珠、山田裕貴、片山萌美、柄本明

受賞

  • 第71回 カンヌ国際映画祭 パルムドール
  • 第91回 アカデミー賞 外国語映画賞ノミネート
  • 第43回 報知映画賞 助演女優賞(樹木希林)
  • 第40回 ヨコハマ映画祭 主演女優賞(安藤サクラ)助演女優賞(松岡茉優)
  • 第61回 ブルーリボン賞 助演女優賞(松岡茉優)
  • 第92回 キネマ旬報ベスト・テン 第1位・主演女優賞(安藤サクラ)
  • 第42回 日本アカデミー賞 最優秀作品賞・監督賞・主演、助演女優賞など8冠
  • 他・多数

    日本公開日

    公開: 2018年06月08日

    レビュー

    ☆☆☆☆

    劇場観賞: 2018年6月14日

     
    家族とは、親とは何か。という普遍的テーマ、近年特に作品化されやすい「福祉」「孤立無縁」「子育て」「老人」などについて、鬱々と、本当に鬱々と描き出す。

    それでも同じ鍋をつつき、ココ。で繋がっているのが温かい家族なんだ。

    こんな家族日本に居ない。と言い切れる人は、きっと豊か。

    あらすじ

    高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。
    冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る…(Filmarksより引用)

    温かさと理不尽

    この家族もこの笑顔も、ずっと続けばいいのに……と思いながら見た。

    確かにやっている事は犯罪だし、どうして警察に連れて行かないのだろう。と思うんだ。

    連れて行かない理由は、単に「欲しかったから」。
    人助けだの志だのという立派なものではなく。

    予告でも流れていたセリフの通り。

    「捨てたものを拾ったんです。」

    それは、本当に拾ってはいけないものなのと、つい思ってしまう。

    自由と幸せと「孤独という犯罪要素」について考える。

    役者さんの凄み

    みなさん当然素晴らしいけれども、運命と戦い続けるような安藤サクラさんの目力にやられる。

    目力といえば、城桧吏くんは一体どこから現れたんだろう。是枝監督は本当に子役さんの発掘力が凄いなぁ。柳楽くん、蒔田彩珠ちゃん、みんな雄弁なデカい目。

    是枝作品に出るたびに違うキャラ、リリーさんの愛しいクズっぷり。

    自分を使って稼ぐ、どこか達観した妹、松岡茉優さん。

    そして、どこにでも居るような自然な佇まいの希林さん。

    普通にどこにでも居るように自然なこの家族が。
    どこにも居ないような大きな秘密をバラバラに抱えている……。

    「万引き家族」は、そこここに転がる実話

    この映画がカンヌでパルムドールを獲得して話題になった頃、Twitterで「自国自虐映画」だの「時代錯誤」だのというツイートをよく目にした記憶がある。

    まさにこれは、そういう人たちの谷間で誰にも知られずひっそりと生きる家族の物語。

    虐待はタイムリー、年金だけでは生活できず孤独死する老人はあまた、万引き家族も実際に存在する。
     

    以前勤めていた店は万引きがよくいらっしゃる店で、万引き家族は実際に存在した。「日本にはこんな家族はいない」ではなくて、いるのである。子どもも連れて行動している様子が防犯カメラにガッツリ映っているのだもの。

    老人もよく来ていた。

    カット野菜と焼きそば麺。

    学生の万引きには「こんな物盗ってどうするんだ」と訊ねることが多い店長も、この老人には何も聞かなかった。食べる以外の目的などないもの。

    「老人は平均1000万以上の貯金を持っている」という年金支給時期を延ばすための国策ニュースを鵜呑みにしている人は、こんな年寄りがいるとは思いもしないだろう。

    日本は充分貧しい。福祉は全く行き届いていない。誰も知らないだけで。

    自虐ではない

    しかし、この映画は「日本は貧しい」ことを描いているわけでも「犯罪国家」だと言っているわけでもない。

    それに関する無関心を描いているのだ。

    まさにカンヌを始め世界に「コレエダ」が注目された2004年『誰も知らない』の家族バージョン。あれから日本はちっとも変わっていないという事。
     

    樹木希林さんが「近所の家に誰が住んでいるか知らないなんておかしいでしょう」と、この設定について語っているインタビューを見たけれども、町内会も(個人的には苦手なんですけれども……)機能しなくなってきた時代。集合住宅など特に誰が隣に住んでいるのかも分らないのがこの国の現状。

    人づきあいが苦手な家の評価なんて、「あの家、何だかたくさん住んでいるみたいだね。」程度の関心しか得られない。

    なのに、ひとたび事件が起これば人の関心はネットや報道に乗って無限に広がる。

    「こうなる前に誰か気づかなかったのでしょうか」

    1年間に何回も聞くフレーズ。

    だったら。
    気づかないならば、気づかぬままでいてあげるのが善意のようにすら思えてしまった。
     

    『万引き家族』は、とてもリアルに現代を映し出した物語だ。虚像でも自虐でも何でもなく。

    崩壊する社会の中で一生懸命繋がりを作ろうとした家族の話。

     


    以下ネタバレ感想

     

    樹木希林さんが亡くなった後で放送された密着番組の中で初めて知ったのが、あの亜紀の両親の所に初枝おばあちゃんが通っていた「旦那の浮気の慰謝料を貰いに行くシーン」が希林さん発案だったということ。

    個人的にはこの映画の中のあの設定にものすごく違和感があったので、驚いた。

    親の不倫の代償を子どもが払うことはあるまい……と私は思っていたのだけれども、希林さんは、そう描いて欲しかったんだね。(Y.Uさんは、この映画を観て何百回も謝ってほしい……)

     

    でも、おばあちゃんは決して亜紀を単なる金づるだと思っていたわけではない。と、思う。あの家は結局、孤独な人たちが集まってきたというよりも、初枝おばあちゃんの孤独が集めたんだよ。

    あんな所に遺体を埋めちゃうのにも驚いたし、父ちゃん、クズなんだけれど。でも、それでも家族でいたかった。

    柴田家揃って笑顔で映ったポスター。

    あれを見るたびになぜか泣けてくる。

    血の繋がりだけが家族なのか。

    と問いかけて来る笑顔。

    犯罪という秘密が無ければ繋がれなかった痛み。

    人には人生にたくさんの事情がある。

    そこは墓まで持って行ってもいい気がする。

    みんなが幸せならば。

     

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    ・象のロケット
    ★前田有一の超映画批評★
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