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『メアリーの総て』孤独な怪物を生み出すもの

メアリーの総て

原題 : ~ Mary Shelley ~

「メアリーの総て」感想

作品情報

監督・キャスト

監督: ハイファ・アル=マンスール
キャスト: エル・ファニング、ダグラス・ブース、ベル・パウリー、トム・スターリッジ、メイジー・ウィリアムズ、ジョアンヌ・フロガット、スティーヴン・ディレイン、ベン・ハーディ、ヒュー・オコナー

日本公開日

公開: 2018年12月15日

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 2018年12月19日

娯楽の規制で現代でも映画館が設置されないサウジアラビアの女性監督が撮る、世間の規制で女性に多くの権利や自由が与えられなかった時代の物語。

あらすじ

19世紀イギリス 小説家を夢見るメアリーは“異端の天才”と噂される、妻子ある詩人パーシー・シェリーと出会う。互いの才能に強く惹かれあった二人は、情熱に身を任せ、駆け落ちする。愛と放蕩の日々は束の間、メアリーに襲い掛かる数々の悲劇。失意のメアリーはある日、夫と共に滞在していた、悪名高い詩人・バイロン卿の別荘で「皆で一つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ちかけられる…(Filmarksより引用)

メアリー・シェリー

『フランケンシュタイン』の作者シェリーが女性であることと、母親がフェミニズムを謳う作家であることはおぼろげに理解していたものの、こんな生活だったとは初めて知った。

母も父も立派に文筆で身を立てて、サラブレッドなのだから恵まれた環境で執筆していたのだと思っていた。

愛が欲しいから情熱を持ち、ままならぬ青春の中に孤独を得、孤独と引き換えに生まれた化け物……。

ゴシック小説『フランケンシュタイン』で名を残したが、ブライアン・オールディス他多くの作家・文芸評論家らにより、SFの先駆者と呼ばれたり、あるいは創始者と見なす者も少なくない。フェミニズムの創始者、あるいは先駆者とも呼ばれるメアリー・ウルストンクラフトを母、無神論者でアナキズムの先駆者であるウィリアム・ゴドウィンを父として生まれた。詩人のパーシー・シェリーは夫。日本では単にシェリー夫人と呼ばれることもあった(Wikipediaより引用)

メアリー・シェリー - Wikipedia

「フランケンシュタイン」とは

「フランケンシュタイン」とはそもそも怪物の名ではなく、怪物を造った博士の名である。

生命の謎について研究していたフランケンシュタイン博士は、研究の末、遺体を繋ぎ合わせた人造人間を作り出すことに成功する。しかし、その容姿の醜さや存在そのものを恐れて捨ててしまう。捨てられた孤独な怪物は復讐を始める。

こんな話を18歳の女性が作り上げたのだとしたら、それは確かに「本当にあんたが書いたの?」と聞きたくなるかも知れない。

しかし、この「18歳の小娘」には、この物語を生み出すだけの空想の下地があった。この映画は「フランケンシュタイン」の生みの親の16歳から18歳までの波乱の青春を描いた物語。

鬱々とした背景とクズな男たち

貧しい生活の中で、母はおらず、継母は口うるさく、執筆もままならない。やっと抜け出したはずなのに追っても追っても幸せは遠い。

選んだ道が若気の至りすぎて……

それでも、自業自得の結果が名作を生む。
 

何もかも上手く行く人生を持っている人もいれば、何もかもままならない人もいる。

これを通らなければ辿り着けなかった。

 

パーシーがほんと、クズで。

「メアリーの総て」感想

ダグラス・ブースは、ちょっと瀬戸康史っぽい童顔王子なのに……だから、余計にやる事なす事、腹しか立たない(笑)

しかし、史実のこの人の運命もまた残酷なものである。

バイロンもこんな感じだし、作家や芸術家の恋愛感覚はどの国でも怠惰だなぁ。

 

だから、ポリドーリの清潔な雰囲気は好感度高い。(こういうベン・ハーディも素晴らしい)

しかし、史実のこの人の運命も……。

 

メアリー・シェリーの周りは死の香りがする。

映画の物語は16歳から18歳の2年間。

まるで一代記のように濃密なこの2年間に光を当てて描かれたのは本当に良かった。これ以上、見たくはない。きっと、もっと苦しいから。

 

エル・ファニングが可愛くて可愛くて可哀想で。
「メアリーの総て」感想

 

監督から音楽から、スタッフの多くをしめる女性たちが訴えかけてくる叫び。

 

切なく美しい名作。

 


以下ネタバレ感想

 

父・ウィリアム・ゴドウィンの言うことが、やはりただの父親とは違って。
 

「孤独を知って周りに影響されない物を書け」

娘を守りたい気持ちもあるけれども、放り出して開花させたい気持ちもある。芸術化の親は単純ではない。

結果、家を出た事でまさに、それを得ることになるメアリー。

 

愛した人に「元の妻を愛していた」と言われ、可愛い我が子の命を人形のように扱われ。

女と酒と借金の生活に振り回され。
 

私は孤独を知るために生まれてきた。
 

その寂しさに泣く。

貰い泣きではなくて、染み入るようにそう感じてしまったから。

孤独を知ることで、寂しさを知ってしまったから。
 

そんな思いをして書き上げた名作を、匿名で出さなければならなかった時代。

18歳の小娘には、孤独を描く賢さも手腕も、体験も空虚も無い。と思われた。

そんな時代。
 

ラスト、自分に孤独を与えた夫から認められる。

このシーンに心から救われる。

 

孤独も、失った命も、失くしかけた愛も、この時だけは戻ったのだと思えたから。

走り抜けた2年間の魂だけは昇華したと思えたから。

 

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