かぞくのくに
監督: ヤン・ヨンヒ
出演: 安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣、村上淳、省吾、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種
公開: 2012年8月4日
第62回ベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞受賞作
2012年10月3日。劇場観賞。
在日朝鮮人の帰還事業(ざいにちちょうせんじんのきかんじぎょう)とは、1950年代から1984年にかけて行なわれた在日朝鮮人とその家族による日本から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への集団的な永住帰国あるいは移住のこと。 by Wikipedia
日本で差別を受けるなどして、経済的に精神的に苦しんでいた在日コリアンは「地上の楽園」だと信じて北朝鮮へと渡った。
同胞協会で幹部を務める父は25年前、わずか16歳の長男ソンホを「楽園」へと渡らせる。実際にそこがどんな国であったかは、私たちがニュースなどで知っている通り。
それでも、日本で暮らすソンホの家族は「祖国」を信じて息子を託すしかない。
子どもは高圧的に育てると何も考えられない、意志のない人間になる。時には怒鳴りつけ時には脅し、親のいう事は絶対なのだという事を知ると、もう逆らわない人間になる。一種の洗脳だ。
かの国は、これを国民に植え付けている。「祖国」の国民は国に服従するしかないように教育を受けているのだ。
自由の国・日本で育った妹・リエには25年ぶりに日本の家族の元へ帰ってきた兄の言動が納得できない。兄について来る「祖国」の監視役も気に入らない。
相当自由に育ったように見えるリエにも、やはり鎖はある。「祖国」を信じ、「祖国」のために働いている父という鎖だ。
25年ぶりに病気治療という「任務」のために非公式に日本への帰国を許されたソンホによって、家族は…「祖国」に絶対服従だった父でさえも、過去への後悔の重さと鎖の煩わしさ、命令に絶対服従しなければならない理不尽さ、などを思い知ることになる。
映像はまるでビデオで録ったドキュメントのよう。
作品の中の人たちの感情がリアルに伝わってくる。
恐らく感情など無いように生きてきたソンホが、追い詰められるように自分を抑えている様子を演じる井浦新。
言いたい事を吐き出しながらも解決できない苛立ちを抱えるリエを演じる安藤さくら。息子と祖国に対する気持ちを抑えながら冷静な態度を取り続ける父を演じる津嘉山正種。出来る限り大らかに子どもたちに接し続ける母を演じる宮崎美子。
役者さんたちの演技が素晴らしいほど、痛々しくて涙が出た。
どんな国に住んでいても家族は家族であり、子どもへの親の思いは変わらない。
ただ、幸せであってほしいだけなのに。
家族について、子どもについて、親について考える…。
多くの方に見てほしい作品。
自由にものが言える、自由にやりたい事が出来る、日本はとても幸せな国だね。
【関連サイト】
・在日朝鮮人の帰還事業 byWikipedia
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
リエ、お前はそういうの持って、色んな国へ行けよ。
街で2人でスーツケースを見ながらソンホが言った言葉…。
あれは「色んな国へ行ってスパイをしてほしい」という願望と、ラストにリエに言った
お前はわがままに生きればいいんだ。
お前の好きな所へ行っていいんだ。
と…両方の意味を持っていたのかな…。
もちろん、妹にスパイなどさせたくない。
しかし、命令に逆らえば「祖国」の妻や息子に危害が及ぶ可能性もある。
「病気治療」よりも、彼らはスパイを引き抜く方が本当の任務だったのだろうか。
たった3ヶ月で脳腫瘍が治るわけがない。
もっと時間があれば手術は出来たかも知れない。息子は完治して生き延びられたかもしれない。
しかし「祖国」はそんな時間をくれなかった。
父の怒りと後悔は「絶対服従」の命令に飲み込まれる。
たぶん、この親子は二度と会う事は出来ず、息子は平壌で祖国に服従しながら短い人生を終えるのだろう。
だから、リエはスーツケースを手にする。
兄が言ったように、自由に生きるために。行きたい所に行くために。
あんたもその国も大嫌い!!
兄の監視係であるヤンに怒りをぶつける。
あなたの嫌いなその国で、私もあなたの兄も生きていく。
それは、もう動かせない運命。
でも、日本に生きているリエは動くことができる。
自由に生きてみたかっただろう兄のためにも、強く歩んでいく決意が感じられたラスト。
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