黄金を抱いて翔べ
監督: 井筒和幸
出演: 妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン、西田敏行、青木崇高、中村ゆり、田口トモロヲ、鶴見辰吾
公開: 2012年11月3日
2012年11月7日。劇場観賞。
原作は、1990年に新潮社から出版された高村薫氏の小説。未読です。
大阪を舞台に6人の男たちがハイテクを駆使した計画を練り、銀行から6トンの金塊を強奪する…。
という話だ。という事以外は何の前情報もなく観た。
だから、観賞前の印象は作品のタイトルと予告映像のみ。
そして、その印象とは大きくかけ離れたストーリーだった。
一体、どういう期待を持ってこの映画を観たのかという話は…それもネタバレになってしまいそうなので下↓のネタバレ欄で。
とにかく、見終わった感想は、どっぷりドンヨリ…である。
駄作だとか、何だこの話、とかではなく、もうやり切れない思いが沸々と湧いてくる感じ。
前半は仲間が集まり計画を練っていくシーンと、各々の鬱々とした過去が語られる。
後半はハラハラドキドキする展開で、何度も手に汗握りしめた。
しかし…これだけは言っちゃうと、決して爽快感はないのである。
それどころか…は、ネタバレ欄で。
暗くて薄汚れた空気が漂う映像はストーリーの雰囲気にピッタリで、この人たちの過去も現在も明るい太陽の下には無かった事を窺わせる。みんな裏を歩いてきて、だから黄金に輝く金塊を手にしたかった。
お金が欲しいとか、女がほしいとか、そういう物質的なものよりも精神的に満たされたかった。
特に、モモと幸田は。
だからこそ、モモと幸田の過去はもう少し丁寧に描いてほしかったな…という気がする。原作を読んでいない身にとってはその辺りが薄すぎて、肝心のあの教会のシーンに充分な思い入れが出来ない。
だって、たぶん、これってモモと幸田の物語…なんだよね。(思い込みだったらすいません )
モモという人がどれだけ危険な立場にいるのかという事も、政治背景をよく知らない人が見たら理解しづらいかも知れない。一体、何から逃げているのか、鶴見辰吾@末永がモモにとってどれだけ危険な男なのか、冒頭で実の兄までもがなぜモモにあんな事をするのか…そこが解らなかったら完全に感情移入できないだろうなぁ、と思いながら観ていた。
孤独な心を抱えて日本という国で1人で怯えながら生きるモモという青年をチャンミンが好演。
映画出演はこれが初だという事だけど、この透明感と甘いマスクにして鋭い目。これから俳優としてのお仕事がどんどん増えそう。
そして、もう1人、過去を背負いながら生きる孤独な男・幸田を演じた妻夫木くん。仏頂面を続けつつもモモへの優しい眼差し。そして、クライマックスになって初めて溢れさせる感情。「泣きの妻夫木」は健在。これにやられちゃうんだよね、いつも。
みんなを引っ張っていくリーダー・北川・浅野忠信。すごく合ってた。途中、妻夫木くんと「ジャイアン、のび太」と言いあうシーンはちょっと笑った…某車会社のCMネタか。
青木崇高兄さん、今回は悪かったなぁ……。最初から最後まで汚すぎたわ。
得体のしれないオヤジ・西田さん、リスカ癖のある暗い男・溝端くん、明るくてちょっと軽い・野田@桐谷健太。
キャストの魅力は爆発していた映画だと思う。
とりあえず、キャストが好きな方はぜひ劇場で観てください。
そして、たぶん、原作は読んだ方がきっと入り込める作品。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
見終わって一番最初に口から出たのは「翔べないじゃん…」。
あんなにたくさん人を殺したり傷つけたりしちゃって、北川なんか無関係な奥さんと幼い子供まで殺られちゃって…弟まで重症患者になって…。
モモを失って、それでも銀行に向かう幸田。
自分がモモに言ったから。
「やり抜けよ」。
思えば初めからグループ内に爆弾はあった。
余所の危険な国から狙われている爆弾魔。
内通しちゃうような裏切り者のオヤジ。
死ぬことが恐くないリストカット青年。
ちょっと何かあるとビビッて逃げ出しそうなサラリーマン。
こんなメンバーで、よくやろうと思ったよな。
計画も「ハイテク」という感じは全然しなかった。上に「手に汗握る」と書いたけど、文字通り冷や汗だよ。
警備を何人も殴り倒したり響き渡る警報器を無理やり壊したり、よく屋上まで運び出せたもんだ。
あれだけのケガを負って、たぶん動いているのも不思議なくらいだった幸田は、モモを失い、内通した男が自分を庇って刑務所に入った親父だったと知り…もうそれで終わったと思ったんだろうか。
初めて感情に顔をゆがませる幸田を見た。
黄金と一緒に「翔ぶ」のではなくて「飛んだ」幸田。
金塊を手にしただけでは翔んだとは言えないでしょう…?
それとも、幸田もモモのように「やりきった」ことに満足したかなぁ。
マンホール下の排水路で爆弾を仕掛けながら、
楽しいよ。これは自分がやりたくてやってる事だから。誰の命令も受けてない。
と、言っていたモモが切ない。
北のスパイをやらされて、辞めたら追われて、家族まで自ら殺さなくちゃいけなくなって…。そんなモモにとってこそ、この仕事は「翔べる」仕事だったんだと思う。
幸田という孤独な仲間にも巡り合って、誰かにやらされるんじゃなく、誰かのために仕事をした。
食べたかった物を食べさせてもらって、大好きな人の側で死んだ。
少なくとも、モモは「やり抜いた」のだ。
だから「翔べた」かも知れない。幸せだったかもしれない。
そう思わないとやり切れない。
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