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『ソハの地下水道』諸国民の中の正義の人

ソハの地下水道~ W ciemności / IN DARKNESS ~

 

 

監督: アグニェシュカ・ホランド
出演: ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ、ベンノ・フユルマン、アグニェシュカ・グロホフスカ、マリア・シュラーダー、ヘルバート・クナウプ、キンガ・プライス
公開: 2012年9月22日

2013年5月3日。DVD観賞。

 

ポーランドというのは歴史的に見ると何やら不思議で不運な国である。

特に歴史に興味がない方々でも、教科書に「ポーランド」という国の名前が何度も「分割」や「占領」という単語と共に出て来た事は覚えておられるはず。

何度も分割されたり消滅したり復活したりしていたポーランドは、第二次世界大戦時にはドイツとソビエトによって分割されていた。

そのような歴史の中でポーランド人は長く他国の虐待に遭ったり虐殺されたりしてきている。

ホロコーストの象徴と言われている強制収容所はユダヤ人を収容・虐待する施設のように思われているが、ユダヤ人以外の精神障害者、身体障害者、捕虜なども数多く収容されている。

ポーランドのシュトゥットホーフ強制収容所にはナチスドイツの占領下で数多くの非ユダヤ系ポーランド人が送られ、虐待の末に命を落としている。

ナチス占領下では収容所以外でも約300万人もの非ユダヤ系ポーランド人が命を落としたと言われており、このような国は他にない。

 

そんな状況の中、ポーランド人は「Righteous among the Nations(諸国民の中の正義の人)」に世界で一番多く表彰されている。

これは、イスラエルが認定している「ユダヤ人を救った人」に対して贈られた称号であり、『シンドラーのリスト』で描かれたオスカー・シンドラーや日本では杉原千畝らが名を連ねている。

『シンドラーのリスト』1人の命を救う者が世界を救う
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『杉原千畝 スギハラチウネ』人のお世話にならぬよう、そして報いを求めぬよう
日本人で唯一の「諸国民の中の正義の人」を描いた伝記的映画。そのビザで救った命は6000人を超える…。

 

『ソハの地下水道』は、そのポーランドにおける「諸国民の中の正義の人」レオポルド・ソハを描いた実話ベースの作品である。

 

作中でもナチス軍によるポーランド人への虐待は描かれる。

ポーランドではユダヤ人を助けた人間だけではなく、その家族までもが処刑されていた。そんな中で正義を行うのはまさに命がけの行動だ。

抑圧され鬱屈した生活の中で、ポーランド人にとっては虐殺されるユダヤ人は他人には思えなかったのかも知れない。

…とは言え、ソハは特に虐待される人を救おうという正義に燃えてユダヤ人救済を始めたわけではない。

その行いは、初めはただ自分の利益のための行動だったのである。

 

1943年。ナチス支配下のポーランドで、ソハは下水修理工として働いていた。
下水修理業者の賃金は安く、ソハは修理の傍らゲットー(ユダヤ人隔離居住区)に収容されて空き家になったユダヤ人家庭からコソ泥を働くという悪行で生計を立てていた。
そんなある日、ソハはルヴフ・ゲットーから逃亡してきたユダヤ人たちに出くわし、金を出すから助けてほしいと頼まれる。

 

本来ならばユダヤ人を見つけたら当然通報しなければならない。匿っている事などがばれたら、自分だけではなく家族も処刑される。

しかし、ソハにはある程度の自信があったのだろう。下水道は自分の庭のような物だ。自分よりもここに詳しい人間は誰もいない…。

なんせ、作中のほとんどのシーンが下水道であるから(タイトルは「地下水道」だけれども生活汚水が流される下水道である)その閉塞感がハンパ無くつらい…。

 

その中で、争いも起きる。ユダヤ人もソハを信用しているわけではなく、ソハもユダヤ人を金の道具だとしか思っていない。

 

しかし、匿っている内に彼ら1人1人との関わりが出来てくる。関わってしまえば人種関係なく「人間」だ。

人の命など紙切れのような時代、狭い心で生きてきた男が異人種と触れ合った事で光の刺す方向へと歩き出す。

水が常に足元にあり、雨が降れば増水し、音がすれば怪しまれる…そんな中で14か月。

全てが終わった時に登場人物が受ける地上の光がまぶしい。

 

しかし、結末のテロップはまた残酷なものだった。

「人間は神を利用してまでお互いを罰したがる」

それは戦中ではなくても、現代でも。

国や人種が違う事。
人間がそれを乗り越える日はなかなかやって来ない。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね

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考えてもみて。
マリアも使徒もユダヤ人よ。
イエスも。

 

そう言っていた妻もいざとなれば危険な事に手を出している夫を責める。

人助けなんて生易しい正義感ではこの国でユダヤ人を救う事は出来なかった。

 

一緒に仕事をしていた同僚が縛り首になった時から、ソハの気持ちの中で何かが変わったのだと思う。

妻の気持ちもユダヤ人に傾いて行くのは、やはり母だから。

 

「金はもうないんだ」に、

「今回は要らない」と答えるソハ。

 

金を払う者と貰う者ではなく、人間として彼らを助けたいという気持ちが生まれて初めて通じ合う。

 

やっと地上に顔を出すことができたユダヤ人たちを支え、みんなで食べものを差し出すラストに心からホッとする。

明るい日の下でみんなが暮らせる時代がやって来たから。

それでも、世界の何処かではその後も、現在でも民族闘争や虐待、虐殺は行われ続けているんだけれど。

 

「その後、娘をソ連軍の暴走車から守りソハは死亡した」
と、いう残酷な結末をテロップは伝える。

 

「ユダヤ人を助けたから天罰が下ったという者もいた」
「人間は神を利用してまでお互いを罰したがる」

それは、「天罰」なの

 

映画の明るいラストから見れば、英雄のように感じられるこの行いを、そんな風にいう人もいたわけで…。

だから争いは終わらないんだなぁ、と思うと、虚しさが残る。

 

成長したクリシャは2008年に体験記を出版した。
生き延びた彼らはその後イスラエルや欧米へ渡った。
ソハ夫妻らポーランド人6千名以上がイスラエルから表彰された。

本作は彼ら全員に奉げる物である。

 

その人たちの行いが報われる世界にならなければいけないと心から思う。

決して善人では無かった平凡な1人の男の行いが人を救った。
その事実が多くの人の心に刻まれますように。

 

 


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・象のロケット

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