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『小さいおうち』小百合のおうち

小さいおうち

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監督: 山田洋次   
出演: 松たか子、倍賞千恵子、吉岡秀隆、黒木華、妻夫木聡、片岡孝太郎、橋爪功、吉行和子、室井滋、木村文乃、夏川結衣、中嶋朋子、松金よね子、笹野高史、ラサール石井、林家正蔵、螢雪次朗、市川福太郎、秋山聡、あき竹城、米倉斉加年、小林稔侍
公開: 2014年1月25日

2014年1月27日。劇場観賞

正直、あまり気乗りしない状態で観に行ったのである。
私は近年の山田洋次監督の作品とはすこぶる相性が悪く、また、予告で見た雰囲気では「家政婦は見た」的ストーリーだと思っていたので面白くなる気がしなかったのだ。

けれども、これは全くただの「家政婦は見た」では無かった。
赤い屋根の「小さなおうち」の中の秘め事ではなく、これはこの家のお女中のタキちゃんの秘め事を語る物語だった。

ストーリーは、老齢の布宮タキが甥の息子・健史から自叙伝の執筆を勧められる所から始まる。
昭和11年、タキは雪深い山形から東京の文筆家の家に女中奉公に出てくる。
やがて、その家の親戚・平井家の女中としてタキは働きはじめた。
近隣では目立つ赤い屋根のモダンな家。美しい奥様。可愛い坊ちゃん。
タキは家族のように平井家に馴染み、尽くし、平穏な日々を暮らしていた。
しかし、ある時からタキの平穏な日々に波風が立ち始める。
奥様の秘密を知ってしまったのである。

回想は戦前から戦争開始までが描かれ、世の中の情勢が刻々と変わっていく様子が新聞やラジオ、平井家の会話などによって伝えられる。

大学生の健史の頭の中にあるステレオタイプな近代史の知識が、タキの暢気な回想とズレているのは、なかなか興味深い。

田舎から出てきた平凡な一女中であるタキには大日本帝国が有利な戦争をしているように伝えられる当時の新聞での世情認識しかなく、当時の日本はもっと暗くて民衆は全員戦争を憂いていたに違いないと思い込んでいる健史には信じられないのである。

贅沢に暮らしていた平井の家も開戦が近づくにつれて深刻な事態に陥っていくが、タキの重大事は戦争よりも奥様の事にある。

だから、私は特にこの作品は戦争のせいで理不尽な目に遭った人たちの悲劇……だとは思っていない。

戦争が起こらなくても…たぶん、タキちゃんの想いは叶う事はないのだから。
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松さんの時子奥様は、可愛らしくて美しい。この人だからこの役…というハマりよう。昭和モダンの中にそのまま生きている空気感。

そして、タキちゃんの黒木華さんが本当に良かった
他のドラマなどでは割とエキセントリックな役柄が多い人で、上手いと思いつつもそれほど好きではなかったのですが…。今回、落ち着いた舞台で普通に平凡な女性の役柄。その中で見せる感情の揺れ。凄かった。
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キャストが思い切り『東京家族』で笑えるほどだ。
あまり必要ないような役柄の方も多かったので…本当に特別出演枠という感じ。
とりあえず、自分的には中嶋朋子さんの役の人とあのシーンは要らなかったなぁ…。そこは観る人が想像力働かせた方が深みが出るというもの…。

全体的に説明が多過ぎたような気はする。ラストの方、ここで終わってくれても~…という部分もかなりあった。

それでも、私は泣いた。
タキちゃんの想いの深さと苦しみを思うと。
戦争の悲劇ではないけれども、戦争が切っ掛けだった事は確か。

思い出が美しいから回想シーンも美しい。
アコーディオンが奏でる久石譲さんのワルツと共に、タキちゃんが愛した赤い屋根の小さなおうちが心に残る。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


タキちゃんの秘めた奥様への想い。

タキが板倉に手紙を渡さなかったのは、もちろんタキが大好きな平井家の崩壊を見たくなかったからである。
でも、同時に嫉妬心でもあったはず。

女学校でも人気があって、結婚が決まった時は自殺しようとした後輩までいたという時子奥様。
美しく華やかに笑う。話す仕草は可愛らしい。いつも機嫌が良いわけでは無い。機嫌がいい時は優しく、機嫌が悪い時には冷たく…タキを悲しくさせたり嬉しくさせたりする。
女子力が高いんだよね、時子奥さま。天然のモテ女。

戦争が起こらなくても…いや、むしろ、あの時出征で板倉が居なくならなければ、平井家は壮大な昼ドラ展開、そしてタキちゃんの心はベルばら展開で崩壊している。

それでも、タキちゃんにとっては戦争が奪った青春時代なのだ。
ずっとずっと続くような気がしていた甘美な時代。

荷物を持って実家に帰る時。
奥さまにはタキちゃんを抱きしめてあげてほしかった。
あの時、板倉が奥様の代わりにタキちゃんを抱きしめたように。

そこに、ちょっと欲求不満を感じたのだけれど。

今から思うと、奥様は何もかも察していて、タキちゃんを抱きしめなかった事はささやかな復讐だったのかも知れない。

女子力の高い女は何を目論んでいるか解らないから。

そんなお茶目な奥様と、悔恨の気持ちを抱えて長く生きすぎたタキちゃんが、初めて出会うシーンを流したエンドロール。

天国で、再びあそこから始まっているようにも見えて、また泣いた。


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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