レイルウェイ 運命の旅路 ~ THE RAILWAY MAN ~
監督: ジョナサン・テプリツキー
キャスト: コリン・ファース、ニコール・キッドマン、ジェレミー・アーヴァイン、ステラン・スカルスガルド、サム・リード、石田淡朗、真田広之
公開: 2014年4月19日
2014年11月16日。DVD観賞
タイ・カンチャナブリには「JEATH戦争博物館」がある。
ここには第二次世界大戦時、劣悪な環境の中で日本軍に虐待され、タイ-ビルマ間を結ぶ過酷な泰緬鉄道建設に強制的に従事させられた捕虜たちの記録が展示されている。
この映画は、捕虜としてこの建設に関わり、何十年経過してもその記憶から逃れる事が出来なかったエリック・ローマクスの自叙伝『泰緬鉄道 癒される時を求めて』を原作とした実話ベースの作品である。
日本人が見るべき映画である事に間違いないが、「日本は戦争の完全な犠牲者で虐待した事実なんて全部捏造で反日か…」とかいう派の方は見なくても良いです。
<あらすじ>
鉄道愛好家のエリック・ローマクスは、ある日、列車でパトリシアという美しい女性と乗り合わせる。2人はやがて結婚するが、エリックはパトリシアには想像もつかない過去の体験に苦しみ続けていた。
1942年。第二次世界大戦時下。イギリスの通信兵として従軍していたエリックは日本軍の捕虜となり、タイとビルマを結ぶ泰緬鉄道の建設に関わることになる。
出だしは鉄道好きのおじさんが列車の中でキレイなおばさん(ごめんね、ニコちゃん。この映画ではそこそこ老けているけれども綺麗だよ)と出会って恋が芽生えるという、なんだかほのぼのしたレイル・ムービーであり、あれ、一体どんな話だったっけ?と思ってしまうほど…。
列車の窓に流れる美しい風景。何かの組織っぽいおじさんたちに囲まれた微笑ましく感動的な結婚式…と、暗い影は1つも見えない。
しかし、新妻は知らなかった。夫は日々、暗い過去の扉の向こうを恐れて生きていることを…。
妻目線で見れば、えーーーっ…無理…こんなこと結婚前にちゃんと言っておいてよ~。と言いたくなっちゃう部分はある。
けれども、この結婚が無ければエリックはずっと過去を振り返る勇気も立ち向かう勇気も持てないまま一生を送っていた。人との出会いは奇跡。
虐待しているのが日本人なだけに、見ている間はかなり辛い。
鉄道が大好きだったエリックが、思いがけず本当に鉄道建設に「関わらせられる」ようになる。皮肉。「好きでやる」のと「やらされる」のは違う。過酷な労働、非人道的な行為…。みんなが、ただ死んだように生きている。
そして、その記憶は戦後40年経っても彼らの頭にこびりつく。
「我々は生きてなどいない。フリをしているだけ。」
PTSD。虐待の傷痕は深い。
描写のことをいうと、虐待映像はそれほど(いや、ホロコーストを描いたあまたの作品などに比べると、ですよ)酷い物では無かった。痛々しかったけれども…例えば殴る映像は引きにしてリアルに棒が肌に当たっているようには映さないなどの配慮?が感じられる。
あの小屋で起きた事にはさすがに目をそむけたけれども、やはりしつこくはない。
だから、個人的にはPTSDに陥るほどの苦しさは視覚的には感じられなかった。
その重苦しさを受け止められたのは全て俳優陣の演技の素晴らしさゆえ。
1980年代に記憶を封印して生きているエリックの過去との葛藤を見せるコリン・ファース、拷問を受ける恐怖と苦しさを見せる若いエリックのジェレミー・アーヴァイン。自分も苦しいのにエリックをずっと見守ってきたフィンレイを演じたステラン・スカルスガルド。
そして、この方を全く知らなかったのですが、若い永瀬を演じた石田淡朗。
日本が作ったお涙頂戴映画だったら拷問する時に戸惑ったり悲しんだりしそうなものなのだけれども、容赦ないのね。本当に憎々しいの。戦後のワンシーンも……あ、この男クズだ、と思った。まぁ生きるためだから誰もが必死なのだけど。
そういう石田さんの演技が素晴らしかったために、1980年代の永瀬を演じた真田広之が割を食ってしまった気がした。
いや、演技力の問題ではなく(出番自体が少ないので)憎らしく図々しい面影が永瀬という人物に付いてしまっているのであった。そして永瀬が改心するに至る描写がこれまた少ないので…同情に値する人物だと脳内で切り替えることが難しかった。
そこはエリックと同じくらいこの人にも悩む機会を与えてやらないと、ラストのあの流れに感情移入していくのは苦しいよな…まぁ…やられた側から描いたものだから仕方ないか。ともあれ、そこも真田さんだからこそ多少はカバーできたのだと思う。
何にせよ考えさせられる映画であったことは確か。
特にね…「戦争という悲劇を伝える」という現代視点から見ても考えさせられる点が多かった。
当事者からしてみたら「悲劇を伝える」って何だ?という事は戦争以外にもたくさんあるだろう。
「何もしらないクセに」というヤツである。
傍観者が口先だけで「感動しました~」「伝えなくちゃ」という空々しさをこの作品は鋭く突いてくる。
「個人レベルで」「相手の身になって」「お前は」どう思うのか。
上辺だけで伝えられた歴史はただのお涙頂戴で終わってしまうのである。
以下ネタバレ感想
あの扉の向こうには……。
エリック・ローマクスが水責めに遭った拷問部屋がある。何度も何度も濡れた布で顔をふさがれてホースで口の中に水を注ぎこまれる。
それをエリックは誰にも話さなかった。新妻のパトリシアにも話せない。
あまりにも屈辱的な体験は誰にも話したくない。特に愛する人には。
それはよく解る。無理に人の心をこじあけるのは、それもまた拷問なのである。
しかし、フィンレイはパトリシアという存在がエリックに付いている事に賭けた。彼の自殺はエリックの背中を押したんだよね…。そこまでされてようやく永瀬と向き合う決心をする。
憲兵隊だったのに「ただの通訳だ」と偽って戦犯刑罰から逃れた永瀬。鉄道沿いに歩き、多くの死骸を弔い、そして初めてこんなにたくさんの人が「死んだのだ」と悟ったという。
永瀬の言葉をいちいち直していくエリック。
「死んだ」「殺されたというべきだ」
「戦争の悲劇を」「悲劇では無く犯罪だ」
「我々はあの時」「”私は”と言え」
これを聞いている時に思ったのだ。
ああ、多くの人がこうやって言葉で逃げている。
私もそうだ。この人と同じ。傍観者になっている…。
向き合わなければ過去から逃れられない。
エリックは向き合う事で「赦し」の心を得た。
カンチャナブリで起きたことは忘れない。しかし、お前の事は赦す。
永瀬との友情は彼が亡くなる2011年まで続いたという。
国と国の話ではなく、組織や集団の話ではなく「個人」を知り「個人」を赦す。
それが人と付き合うということだよね。どんな時代でもどんなシーンでも。
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