そこのみにて光輝く
監督: 呉美保
キャスト: 綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、田村泰二郎
公開: 2014年4月19日
2014年12月7日。DVD観賞。
家族という鎖、貧困、抑圧、不運…。
見始めから中盤、終盤に到るまで嫌な予感しかしないストーリー、感情移入の隙ない登場人物、クズな権力者…。
それでも生きてゆく…な話。
くすぶり続ける人生の中で、空から射す一筋の光。そこのみが光り輝く。
あらすじ:
過去の辛い記憶から逃れるために仕事を捨てた達夫は、ある日パチンコ屋で拓児という青年と出会う。
拓児に誘われて彼の家について行くと、そこは海辺の貧しいバラック小屋だった。
そして、達夫は拓児の姉・千夏と巡り会う。
日本は貧富の差があまりない国と言われているけれども、だからこそ本当に貧しい家は無視されていると思う。「見ていない」だから「貧富の差なんかない」と思わされている。
人の心が無くなっても金が欲しい。
その気持ち…。
かつては親子仲良く、貧しくてもそれなりに暮らしていたのだろう事は、拓児の明るすぎるほどの屈託なさを見ていればよく解る。「飯食わせてやるよ」って自分の家に連れていく人、なかなかいないもん。
この拓児の明るさが、私にとってはこの映画の「光り輝く」部分だった。お馬鹿なんだけど…本当に憎めない。
いつもニコニコというよりはニタニタ笑っていて、単純だから純粋。
菅田将暉くんの演技力にますます磨きがかかって見えた。
今はどん底に沈み込んでしまっている家族をそれでも見捨てず家族のために生きている千夏からも家族愛は見て取れる。愛されていた過去が無ければ親のために「あそこまで」は出来ない。
どんな沼底に住んでいても、どんな生活をしていても、過去には輝いていた思い出がある。だから生きている。いつか抜け出すために生きている。
主人公である達夫のトラウマは断片的にしか語られず、本当に全容が見えるのは後半もだいぶ過ぎてからである。ほとんどが拓児と千夏を中心に進むストーリー。達夫は彼らに関わって、次第に現実に引き戻されていく。
主人公に対する思い入れは薄い。
正直、誰にも感情移入できずに傍観する感じで見る作品だった。
感情的に理解できると言ったら…もしかしたらあの母親かもな…。疲れ果てて逃げたくなるよ…彼女を見ていて本当に辛くてイヤだと思ったんだ。冷たい人間だと思われてもそうなるよ。
鬱々とした人間模様を描きながら、映し出される函館の海は茶色い陽に照らされて美しい。
セピア色の背景。そこのみ光り輝く場所。
以下ネタバレ感想
『共喰い』でも感嘆させられた菅田くんの演技の凄さをあの祭りのシーンで見たわ。
鬼に変わったな…あの形相。
死んだか?
死んでねえよ。
死ぬと思ったのに!
死ねばいいと思ったよ…。あいつさえいなければ抜け出せたのに。
部下を死なせてしまったトラウマから抜け出して、達夫は山へ戻るだろう。
しかし、拓児と千夏とあの家族の今後を考えると個人的にはちっとも幸せな気持ちにはなれず…だって何も変わるとは思えないんだもの。あのラストを明るい方向に観る事はできなかった。
ただ、役者さんたちの体当たりの演技に感動させられた。
※脳梗塞って…恐い…。
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