悼む人
監督: 堤幸彦
キャスト: 高良健吾、石田ゆり子、井浦新、大竹しのぶ、貫地谷しほり、椎名桔平、平田満、山本裕典、麻生祐未、山崎一、戸田恵子、眞島秀和、大後寿々花、佐戸井けん太、甲本雅裕、堂珍嘉邦、上條恒彦、大島蓉子、秋山菜津子
公開: 2015年2月14日
2015年2月16日。劇場観賞
天童荒太氏による直木賞受賞作である原作は未読。
天童荒太さんの作品は『永遠の仔』に感銘を受けた。
堤幸彦監督が映画化した『包帯クラブ』も大好きだった。
だから、もの凄く期待して観た。
結果……期待しすぎたかも。
あらすじ
坂築静人(高良健吾)は事故や事件などで不慮の死を遂げた人の現場を「悼む」目的で行脚している。
家では癌患者の母親が終末医療を受けながら静人の無事を祈っていた。
雑誌記者の蒔野(椎名桔平)は、ある事件現場で静人と出会い、その行動に興味を抱くようになる。
また、かつて夫を殺した罪の重さに苛まれていた奈義倖世(石田ゆり子)も静人の「悼む」行動に関心を持ち、旅に同行するようになっていた。
劇場予告では麻生祐未さんのシーンがクローズアップされていた記憶があるのだが、そういうストーリーなのだと思っていた。
つまり…坂築静人が亡くなった人の魂に祈りながら旅をし、遺族の声を聞くという…そういう話なのかと勝手に想像していたのだった。
(そうなると、かなりの「泣かせ」作品になる可能性もあってちょっとイヤだなぁ…でも、堤監督だからある程度クールだろ…)←これが観賞前の自分的想定。
しかし、全くそういう話ではなかった。(「全く」でもないけど)
色々な意味で想定外だった。
思っていたほど心動かされなかった。ウルっとなったエピソードもほとんどなく、バッグから出して用意していたタオルハンカチの出番もなかった。ほら、想定外……。そして138分、とても長い。
共感できなかった理由は主人公の行動である。あれが自己満足にしか思えなくて…。
けれども、あれに救われている人も確かに存在するんだよね。劇中に。その流れは全く不自然には感じられなかった。
家へ帰ってから色々と考えた。
そもそも、この物語の主人公は静人なのか?
主人公は母親なのだと考えると見方はかなり変わってくる。
死を前にして、自分の親よりも他人の死を悼んで旅する息子を見守る母親。
その辺は、全てネタバレ欄↓で。
ロードムービーとしての映像は楽しめる。けれども、どこを歩いているのかよく解らないのは残念。
ロケ地はほとんど福島辺りらしい。私が観ていて分ったのはたぶん小湊鉄道だと思われる2両編成の鉄道で千葉県。あとは宇都宮市の看板で栃木県。後は似たような山道が多くてよく解らない。
俳優さんたちの演技に引っ張られる作品でもあった。
少ないシーンだけれども麻生祐未さん…すごい。
そして、ARATA兄ぃはやっぱり怪演。
だから、堤監督…「SPEC」の感想にも書いたけれども、ホラー作ってください~。絶対にゾッとするもの出来るから~!
以下ネタバレ感想
誰に愛され、誰を愛し、何をして感謝されていたか。
あなたが確かに生きていたということを私は憶えておきます。
現場で必ず繰り返すあの言葉とあのポーズは自分自身で考えたらしいが、どうしてもやっぱり好奇の目で見ちゃうよね。あんなに大げさにやらなくてはならないものだろうか。
あれは原作通りなの?…と思っていたけれども、原作通りらしい。
亡くなった人をずっと忘れない、物事を風化させないという気持ちはとても尊い。福島という土地をロケ地に選んだのもテーマを思えば頷ける。
けれども「悼む」対象を調べるのが新聞記事だったり雑誌だったり…。
一応、話を聞いてから悼んでいるようではあるけれども、あの虐め事件のように真実が報道と違ったりもしているわけで。
間違った情報で悼んでいることもあるのよね。だからこの行為は本当に彼の自己満足なんだよね。「病気」は正しいのかもしれない。
…しかし、劇中ではそこもちゃんとツッコんでいる。
つまり、自己満足でもいいということ。対象を見つけて悼んで回る、この行為を息子が生きる糧として受け入れている死を間近にした母親の愛…描かれているのはそこなのかな。そう観た方が自分的にはしっくりする。
広島に原爆が投下された1945年8月6日、愛媛県今治市にも大空襲があった。今治にはその前、4月と5月にも大規模な空襲があり570人余りの民間の犠牲者が出ている。
8月6日は原爆記念日として現在に至るまで長く追悼されているが、今治の事はみんなが忘れている。
そういうバックボーンがあるから母親も何も言わない。息子の行いは意味がある事だと思う事が出来る。
子どものありのままを受け入れる事。
母が主人公だと思えば、そういう話なのかも知れない。
…と、観終えて時間が経ってから考えた。
あの子に人を愛してほしい。そして幸せになってほしい。
あのセリフに共感した。母親は誰だってきっと子どもについてそう願う。
静人を主人公だと考えた場合は…これはイエス・キリストやブッダ誕生物語と同じなのかも知れない。
実際に虐めで息子を殺された夫婦は静人に「恨みなどは覚えない。ただ愛されていたということだけを覚える。」と言われて、救われた。蒔野も自分が死の淵に立たされたことで救われた。倖世も救われた。
自分に死の呪いをかけて死んでいった夫を静人と同じポーズで悼む倖世。
ちょっとツッコミ所だと思っていたあのポーズがハッとするほど神々しく見えた。
洞窟の向こうで消えていく夫は望み通り倖世の胎内に入ったのかも知れない。
「あなたが確かに生きていたということを私は憶えておきます。」あのセリフもお経や祓詞のようなものだと思えば…あのポーズも宗教だと思えば…新たな神の誕生なのだとも受け取れる。
多くの救世主が初めは馬鹿にされたり石を投げられたりしていたわけだからな。静人にもこれから弟子が付いてくることになっても不思議はない。
けれども、そんな風に見ると本当にもうあのポーズしか記憶に残らないので…。
やはり、私はこの映画は母の物語だったのだと思う事にしておきたい。
その方が自然。
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