めぐり逢わせのお弁当 ~ DABBA ~
監督: リテーシュ・バトラ
キャスト: イルファン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキー、デンジル・スミス、バーラティー・アーチュレーカル、ナクル・ヴァイド、ヤシュヴィ・プニート・ナーガル、リレット・デュベイ
公開: 2014年8月9日
2015年3月18日。DVD観賞
エンディングで踊り出したり歌い出したりしないインド映画である。
けれども、クスッとなっちゃう部分はある。大真面目なのに「クスッ」となっちゃうの。
勘違いしたり間違った方向に乗ろうとしたりしながらも、一生懸命考えながら生きている人間たちの姿って国が何処だろうが言葉がどうだろうが愛おしい。
<あらすじ>
インドの大都会ムンバイでは、ダッバーワーラーと呼ばれる弁当配達人たちがランチタイムに弁当をオフィスに届けて回る。ある日、主婦のイラ(ニムラト・カウル)が心を込めて作った弁当が誤ってサージャン(イルファン・カーン)のもとに届く。イラは料理を通じて夫の愛を取り戻したいと願い、妻に先立たれたサージャンは久々の手料理の味に心動かされる。
「シネマトゥデイ」より引用
昔、『おべんとうレター』というような題名の童話か絵本を読んだ記憶があって…。たぶんお母さんが幼い子供の弁当にお手紙を入れてあげる話なのである。
それに憧れた私は自分の息子たちが小さい頃にやってみてあげた。結果、彼らは大して喜ばず、字を覚えるための役にも立たなかった。…従来飽きっぽいので、いつの間にかその行事は消えた…。
…いえ…ただの駄目な親子の話です……。
それはこの映画の本編とは何の関係もございません。(でも、ちょっと思い出したんだ)
インド・ムンバイには「ダッバーワーラー」という職業があるらしい。自宅で作った弁当をダンナさんの会社まで届けてくれるシステムである。
出かける方は重たい弁当を持ち運ばなくて済むし、作り手は無理して朝早くから支度しなくて済む。何だか画期的なシステムだぞ。
しかし、実際にこうして目にしてみると、弁当を集めたおじさんたちが自転車で会社に届けに行くという極めてアナログな手法である。これで誤配送が600万個に1つなのだというから、そっちの方にビックリする。
また…
そんな1/6000000の確立に当たるのだとしたら、それもそれで奇跡と言えるかも。
インドの弁当配達事情が珍しいという以外は、割と普通にどこの国にもある男女の日常生活を切り取ったドラマだ。恋愛物語一歩手前ってところ。
「作る人」イラの描写はほとんど台所である。いつも何かしら料理をしている。インドなのだから味付けはカレーっぽい物なんだろうな~と想像しつつ…だからこそカレーが食べたくなっちゃう。
「受け取る人」サージャンの舞台はほとんどが社内である。4段もの弁当箱を受け取る幸せ。…だが複雑な心境なのは解らなくもない。
ただの弁当感想文が次第にお互いの境遇や内面を語り、場面も外へと移っていく。
1/6000000の奇跡によって生まれた往復書簡が生活を彩っていく様子を楽しむ作品。
「手紙」も「手作り弁当」も、気持ちを繋げるアイテムである。
それを受け取る事が出来ないのならば、夫婦でいる意味ってもう無いのかもしれない。
インドだろうが日本だろうが、パートナーを一番孤独にするのは無視だから。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
「おじさんはファンを見ている」
「夫は携帯を見ている」
「家族を見ていない」
「おべんとうレター」の内容がだんだんと深刻になるにつき、他人に無関心だったサージャンが慰めの言葉を掛けてみたり笑わせてみたりする。
こう訴えるからこう返す…
そのやり取りは毎日続けているからこそのものであり、最終的にはイラの夫は「弁当を食べてくれる人」と入れ替わってしまっているのよね。
本物の夫が本当に浮気しているのか、イラとの別れなんて望んでいるのか、それは分らない。けれども無視するのは不在と同じだ。ずっと階上から声だけ掛け続けている叔母さんよりももっと存在感がない。
イラの世界にいるのはお人形を抱いた娘と、弁当を食べてくれる人だけ。だから出て行くんだね。
「祖父の匂いを自分から感じた」というサージャンは男としての自分に自信がない。
イラに頼られ、シャイクに張り付かれて、やっと外に目を向けられるようになっていく。
この作品の世界は、引きこもった大人からの脱出。
孤独から脱して外へ出て行くためには、まずは間違っていても電車に乗らなくてはならない…そういうお話なのだった。
だからこそ明るいエンドロールの曲を聞きながら、ちょっと驚きつつも清々しい気持ちになってしまうのだ。
あの歌は「ダッバーワーラーの歌」なんですよね。
つまり…イラもサージャンも、1/6000000の確率で誤配されるのだろう。 「正しい場所」に着くために。
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