駆込み女と駆出し男
作品情報
監督・キャスト
監督: 原田眞人
キャスト: 大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、内山理名、陽月華、キムラ緑子、木場勝己、神野三鈴、武田真治、北村有起哉、橋本じゅん、山崎一、麿赤兒、中村嘉葎雄、樹木希林、堤真一、山崎努、宮本裕子、松本若菜、円地晶子、玄里、中村育二、高畑淳子、井之上隆志、山路和弘、でんでん
日本公開日
公開: 2015年5月16日
レビュー
☆☆☆☆
2015年5月20日。劇場観賞
原作(原案)は井上ひさし氏の小説『東慶寺花だより』。鎌倉時代より格式ある尼寺として周囲から一目置かれ、江戸時代には幕府公認の「縁切り寺」として数多くの女たちを救った「東慶寺」に纏わる物語。
四季折々の風景、時代を再現した台詞回し、着物、メイク、小道具…駆け込む女たちそれぞれの事情。東慶寺の日常を切り取った世界に興味ある人間にとっては、ちょっとしたタイムワープである。楽しい。
◆あらすじ
江戸時代、幕府公認の縁切寺として名高い尼寺の東慶寺には、複雑な事情を抱えた女たちが離縁を求め駆け込んできた。女たちの聞き取り調査を行う御用宿・柏屋に居候する戯作者志望の医者見習い・信次郎(大泉洋)は、さまざまなトラブルに巻き込まれながらも男女のもめ事を解決に向けて導き、訳あり女たちの人生の再出発を後押ししていくが……。(シネマトゥデイより引用)
雑な歴史背景解説
時は天保十一年。12代・徳川家慶は45歳という当時としては高齢でやっと将軍職を譲られたが、実権は依然として父・家斉が握っていた。
抑えつけられた子どもは反発する物で、翌年、父が亡くなると家慶は老中・水野忠邦を重用して父派の家臣たちを排除、財政立て直しのための徹底的な奢侈(贅沢)の禁止を行わせた。いわゆる「天保の改革」である。
寄席や歌舞伎は閉鎖され庶民の抵抗を抑えるために言論統制も行った。南町奉行に「妖怪」鳥居耀蔵(劇中では北村有起哉)を据え、庶民を監視・弾圧させる。この鳥居さん、時代劇で有名な北町奉行・遠山の金さんを失脚させたりしています。
物語の冒頭で役者が役人に引っ立てられていたり、馬琴の『南総里見八犬伝』は無事に出版されるのか心配されたりしているのはこういう歴史背景があるのだが…そういう説明はほとんどなく物語は淡々と進んでいく。
なので、一応解説として頭の片隅に置いておいていただけると見やすいと思います。少しは。。
雑な東慶寺解説
自分は鎌倉とそう遠くない所で生まれたので家族のレジャーに友達との散歩にドライブにデートにと何度も足を運ぶ生活をしてきたから、鎌倉が舞台なだけで嬉しい。
しかも、昔からずっと「女にとっては特別な場所だ」と思っていた東慶寺が舞台である。感慨深い。
東慶寺の開基は北条氏だと言われているが、その辺の史実は割と曖昧らしい。戦国以前の事は火災などで史料が失われ、よく解らないらしいのだ。
ハッキリしている事は室町以前に皇女さまが住持になったため御所寺と呼ばれていたこと。徳川によって滅ぼされた豊臣家の遺児・天秀尼が家康の孫・千姫の養女となってこの寺の住持になり女たちを守った事。
つまり、この寺は家康にとっては曾孫の寺だったことになる。豊臣に嫁入りさせて苦労させた愛孫・千姫の願いもあって、家康はこの寺に大きな権威を持たせ続けた。
劇中で信次郎@大泉洋が「御所寺」と「権現様のお墨付き」について口上述べるシーンがあるのだが、そこはこういう背景に基づいているのです。
千姫は幼少の頃より豊臣に嫁という名の人質に入ったが秀頼との仲は睦まじかったらしい。しかし、徳川の娘だからと邪魔にされてか子どもは授からなかった。
秀頼は側室との間に二児をもうけ、大阪城落城の折には2人とも城を出ている。内、兄の国松は男児であるがゆえに捕えられて処刑されたが姫の方は助けられた。千姫が体を張って救ったとも言われている。
千姫の養女となった姫は東慶寺の住持として一生を過ごし、ここで豊臣秀吉の血は途絶えることになる。(もっとも、他にも豊臣の遺児だという者が現れたり、国松が生きていたという説もある。国松の子孫が代々大阪の人々に守られて大阪国を作ったというのが『プリンセストヨトミ』です。)
…なんだか歴史の話ばかりになった。。
現在は円覚寺の寺となりすでに尼寺ではないし、もちろん駆込み寺でもないが、当時の佇まいが残る静かな場所である。北鎌倉駅からすぐなので、この映画を見たらぜひ足を運んでみていただきたい。
満島ひかりの演技が凄い
え~歴史背景説明はこのくらいにして…。
どうしてこんなに書いちゃったかというと、こういう背景が解らない場合この映画は面白いんだろうか、と見ている間ふと思ってしまったので。
そう思ってしまうくらいクールにバッサリと説明を削って時代を再現して行く作品である。
言葉もきちんとしているし役者さんが醸し出す雰囲気も映像も嘘っぽさがない凄腕本格時代劇だった。
中でも堀切屋の妾・お吟を演じた満島ひかりの演技は本当に素晴らしい。この映画、満島ひかりが凄いというだけでもう70点行けるくらいだ。可愛く艶っぽく凛としてカッコいい。この2人のエピソードはもっと深く味わいたかった。もっと見たかった。
…というか…実は全てのエピソードがパキッパキッと切られてしまって。言ってしまえばヒジョウ~に断片的だった。次のエピソードに入った時に「えっ、さっきの話はあれで終わりかよ。 」と思う事しばしば…。
伏線を持たせて回収するという手は全く使わず、パッパと話を出しては片づけていく感じ。それがとてももったいなかった。
とはいえ観賞後の後味はとてもいい。この人たちの今後の人生に思いを馳せながらEDを楽しむ。
虐げられる人生から脱却する女たちと、彼女たちを救い支える人々を温かく描いた「素晴らしくて適わない=素敵」時代劇。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
以下ネタバレ感想
いつまで経っても妾のままで妻にしてくれないとか、血の付いた鎧兜が気持ち悪いし閨の回数が多すぎるとか…、えっ、そんな理由で駆け込むなんて、ないないない…。
と、思ったら、全然違うんだものね。
「眉、目、鼻、口、顎…そのどこにも強味と渋みがある。」
それは単にイケメンだから惚れたということではなくてさ、そういう顔に刻まれた堀切屋の生き方そのものを全て愛する言葉だよね。
そんな男に出会って抱かれた人生が幸せだったから、自分も凛として美しく死にたかった。やつれた死に顔は見せたくない。女の心意気。
それをみんなが理解する。粋な生き方はみんなに愛される。自分に自信を持てずに死にかけていたじょごの心を奮い立たせた人。
柏屋に下がる前のお吟とじょごの別れのシーンに一番泣いた。
「私の妹!」
満島ひかりという女優は何て心惹かれる声で叫ぶんだろう。今まで多くのドラマや映画でこの人を見てきて、ここまで好ましく思ったのは『愛のむきだし』以来かも…。
じょごに関しては、最初はトダエリに火ぶくれで醜い鉄練り…ないない…と思ったけれども、東慶寺に入ってからは黙々と働き勉強する姿がシックリきたわ。あどけない笑顔が可愛くて、ラストもホッコリした。
駆込み女の中では主要キャラとして内山理名@ゆうがいるのだと思うんだが…ちょっと中途半端な出数だよなと思うのだった。
駆け込む理由も駆け込み方も一番ドラマティックで悲惨だし夫もある意味最後まで活躍するのに、東慶寺の中でのあの存在感の無さはどうだろう。。
正直、彼女の部分をバッサリ削ってお吟とじょごの人生にその分の時間を割き、内山理名@ゆうのエピは丸々続編に(あるのか?)…っていうのが納まり良かった気がする。
じょごの夫とゆうの夫はクズ同志で意気投合していたみたいなのに、東慶寺を出る時にはじょごの夫はただの改心夫になっていたり、信次郎が堀切屋に捕えられてから脱走する時に「何でも持っていけ」と言われて武器類が映し出されたのに別に何の出番も無かったり…
じょごがゆうの夫をバッサリ斬った件も放りっぱなしだし、ラストなんかみんな無事だったんだ…よかったね…と、ちょっとポカーンとなってしまった。。もう少し、エピソードの片づけ方に丁寧さがほしい。
あと、個人的にはせっかくあそこまで馬琴を絡ませるのならば、離縁も何もなく目の不自由な舅の目になって大作の完成に力を尽くした馬琴の息子の嫁、お路も出してほしかった…あの時代に苦労した女として。
そういう不満やツッコみ所もあるけれども…。戦乱を描くのではなく江戸時代の市井の人々の暮らしを描く時代劇として興味深く満足できる作品だった。
時代劇はやはり侘・寂あっての粋だわ。
・『駆込み女と駆出し男』公式サイト
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・象のロケット
comment
BROOKさん
もう少しエピを整理して主要人物を描く時間に当てても良かった気がしますね~。
個人的には天保の改革と東慶寺の関わりはよく解らないので削っていいと思いました。
法秀尼さんは水戸の後ろ盾がある水戸出身の姫なので潰される気がしないし^^;
まぁ、削ると北村有起哉さんが見られなくなって寂しいけど(笑)
私もエピソードのぶつ切りはちょっと気になりました。
もっとその後の展開を知りたい…と思いつつも、
上映時間の関係でああなってしまったのかもしれませんね。
とりあえず、縁切り寺なるものがあったというのは初耳だったので、
自分の知らない“歴史”を知ることが出来たのは良かったです。