予告犯
監督: 中村義洋
キャスト: 生田斗真、戸田恵梨香、鈴木亮平、濱田岳、荒川良々、宅間孝行、坂口健太郎、窪田正孝、小松菜奈、福山康平、田中圭、滝藤賢一、細田善彦、仲野茂、本田博太郎、小日向文世
公開: 2015年6月6日
2015年6月10日。劇場観賞
原作者は全く無関係なのに『アヒルと鴨のコインロッカー』を思い出した。カワサキの代わりにヒョロがそこに立っているような気がする。
「理不尽」の中にほんの小さな優しさと救いがあって温かいのが中村監督の作品だと思っている。「理不尽」な目に遭ったことがない「あなた」には、たぶん解らない。
「ほんの小さなこと」が彼らの中でどれだけ大きな事だったか。
◆あらすじ
インターネット上に、新聞紙製の頭巾にTシャツの男(生田斗真)が登場する動画が投稿され始める。彼は動画の中で、集団食中毒を起こしながらも誠意を見せない食品加工会社への放火を予告する。警視庁サイバー犯罪対策課の捜査官・吉野絵里香(戸田恵梨香)が捜査に着手するが、彼の予告通りに食品加工会社の工場に火が放たれる。それを契機に、予告犯=シンブンシによる予告動画の投稿とその内容の実行が繰り返される。やがて模倣犯が出没し、政治家殺害予告までもが飛び出すようになる。(シネマトゥデイより引用)
ポータルサイトでは「サスペンス」に分類されていて、それが意外だ。売り出し方も「クライムサスペンス」だったかしら。そこを期待して観に行くとガッカリするかも。「予告犯」の顔は観客には割れているし、大して解く必要のある謎もない。
人間ドラマである。痛々しい青春ドラマ。
日本は貧富の差がない国と言われていて、大抵の人たちが底辺の存在を知らない。「ワーキング・プア」と呼ばれる彼らの実情。働けない、仕事がない、与えられない、奪われる自尊心。
「シンブンシ」が体験してきた人生を見せられれば見せられるほど悲しくなる。「フィクション」ですか。真実だよ。あんな企業がいっぱいある。あんな人たちがいっぱいいる国だよ、ここは。
生田斗真の明るい瞳や無邪気に見えるほどの表情がだんだん死んだように曇っていく、そんな社会。
「No.1になれなくてもオンリーワンでいいんだ」とか「人生回り道してもいいからユックリ行こう」とか、優しげな歌や物語が溢れていて錯覚してしまうけれども、実情はこっちの方がずっと近い。「ユックリ」も「ブランク」も許されず、人と違えば馬鹿にされ奪われ続ける。だからゲイツは泣く。「ごめんな、こんな国で」。
中村監督作品にしては、ゆるさや意外性はなかったかも知れない。ホワーっとした温かさも個人的には残らなかったので、ちょっと物足らないのは事実。
「頑張れ」と言われるのがどんなに辛くても頑張ってもらいたかったのも事実。
それでも、あのビデオ映像にはちょっとだけ救われる。それが彼の「夢」だったのだから。
人生の底で彼らは出会い、勝ち組であろう人たちには理解できない「小さなこと」のために動いた。
「共感」が集まれば小さなことでも小さな声でもきっと世界は動く。その切っ掛けだけは見せてくれた。
個人的には「虐めもカーストも戦争も人間が人間である限りなくなることはない」と思っている。この考えは、とてもネガティブだ。
世界はもっと温かい声に耳を傾けるべきなんだ。小さな声を集めることをあきらめないで。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
どんなに小さなことでも人は動くんだ。
それが誰かのためになるのなら。
「ネルソン・カトー・リカルテ」彼らが使い続けたその名前はヒョロの本名だった。父親に会って「父ちゃんと呼びたい」ヒョロの夢を叶えるために行われた「予告犯」。
それぞれが抱えてきた「上手く行かない人生」の復讐のための犯罪では無く、世間から拾った小さな声のための復讐。本当は、あのブラックIT企業の社長にこそ制裁加えてやりたいのにね。
彼ら自身に直接加えられた理不尽な仕打ちに彼らが手を下したのはたった1度きりだった。ヒョロの遺体にショベルを投げつけた現場監督を殺してしまった時。
やり切れない話だ。最終的に努力してのし上がってきた強い吉野が彼らを理解する、という下りだけがこの作品の救いになるところ。
原作ありきだから仕方がないが、ゲイツには生きてほしかった。みんなの罪を1人で被る事は生きて刑務所の中に居ても出来ると思うんだ。ラストは全員の薬が青酸カリではなかった…それではダメだったんだろうか。
たぶん、もう生きるのも辛かったのだろうが、ヒョロを理不尽な死に追いやった男を抹殺したことが死の切っ掛けならば、それは逃げだと思うのだ。
ゲイツも救われなければ見ている方も救われない。彼が生きてやり直してこそ世界も変わると思うんだ。
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comment
kiraさん
そうですよね~。中村監督の視点はいつも弱い者に優しいです。
だから切ないんですよね。
>これはほぼ原作をなぞっているらしいのですが
そうなんだ!原作未読だけれど、だいぶ変わっているのではと勝手に思っていましたわ。
コミックなんですよね。読んでみようかな。
今回も、弱者の中にくすぶる正義の声を拾い、
でも決して振り回さない彼らの拳、を描いて
中村監督らしいなあ~という印象でした。
これはほぼ原作をなぞっているらしいのですが、
ラスト、やっぱし、、って思いましたよ(T-T)
BROOKさん
中村監督らしい人間ドラマではありました。
犯行動機も中村監督作品らしい優しさだったと思います。
実際、自分の身の周りにも色々と痛い思いをしている人がいるので切なかったです(;_:)
原作未読での鑑賞となりました。
サスペンスかと思いきや、人間ドラマでしたね。
しかも、それが感動してしまうような感じで…。
犯行動機に関してはちょっと弱いかなぁ…とも思ったのですが、
現代事情を風刺しているような展開がなかなか面白かったです♪