ジャッジ 裁かれる判事
~ THE JUDGE ~
監督: デイビッド・ドブキン
キャスト: ロバート・ダウニー・Jr.、ロバート・デュヴァル、ヴェラ・ファーミガ、ヴィンセント・ドノフリオ、ジェレミー・ストロング、ダックス・シェパード、ビリー・ボブ・ソーントン、レイトン・ミースター、サラ・ランカスター
公開: 2015年1月17日
2015年9月13日。DVD観賞
法廷サスペンスということで楽しみにしていた1本。体張って戦いまくる役のイメージが強いロバート・ダウニー・Jrさんが頭で闘うらしい設定にも惹かれるものがあった。
結果、事件その物は思ったよりも小規模。そこを楽しみにして観る方は肩透かし食らうかも。
長らく相容れない時を意固地に生きてきた父子の関係を解く家族の物語。
個人的な事情で、公開時ではなく今見て良かった。今見るべき奇跡の1本だった。
◆あらすじ
金で動く辣腕(らつわん)弁護士として知られるハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、絶縁状態の父ジョセフ(ロバート・デュヴァル)が殺人事件の容疑者として逮捕されたことを知る。判事として42年間も法廷で正義を貫き、世間からの信頼も厚い父が殺人を犯すはずがないと弁護を引き受けるハンクだったが、調査が進むにつれて疑わしい証拠が次々に浮上し……。(シネマトゥデイより引用)
「無罪の貧乏人は僕を雇えない。」
勝つための裁判に力を注ぎ辣腕弁護士と言われ自信満々に生きてきたハンク・パーマーが自身の父親の弁護に立つ。
父は田舎町で42年間も法の番人だった正義の判事。そんな父が法を犯すはずがない。誰かに陥れられているのか…それを暴いていくミステリー……。
なのかと想像していた。(たぶん、そう思って見た方が多いのでは)
しかし、蓋を開けてみれば「ミステリー」部分はむしろパーマー一家に何が起きて来たか。父が隠しているのは何なのか、なぜなのか。そういう部分にあった。つまり家族の物語である。
父親と確執があった主人公が長く離れている間も田舎の町は「ちっとも変わらない」。
しかし、ちっとも変わらないだろうと思っていた父親には様々な異変があった。
可愛がられていた兄には見えるが自分には見えない事。一緒に暮らしている弟には解るが自分には解らない事。自ら望んで家から遠ざかったクセに子どもはそういう部分に敏感に寂しさを感じる。
寂しさの裏返しで親への恨みや憎しみが倍増する。出て行った者にとっては田舎は捨てたい思い出ばかりだから。
しかし、帰ってみればそこに沈殿している思い出のあれこれが蘇る。家族には悪い記憶も良い記憶もある。時折差し挟まれる過去映像にどうしようもなく泣かされた。
自分だけが「おみそ」のように感じていた所に「自分だけが父親を救える」事件が持ち上がる。
兄でも弟でもなく辣腕弁護士である自分だけが出来る事。
事件なのか。事故なのか。
それを紐解いていく事が、同時に父子の関係をほどいていく事にも繋がるという巧妙なストーリー。
解決のある『8月の家族たち』という印象もある。
いずれにせよ、ウチの実家と被るものがある。主人公と父親の関係も自分と似たところがあると思いながら見た。
私ごとだけれども、実はひと月前に父を亡くしたばかりで。だから余計にこの作品と今の自分の心境がリンクする部分がありすぎた。諭されてる…と思う部分もたくさんあった。たぶん、見させられているんだなと思った。
1月の公開時に観に行きそびれた作品だったのだが、当時見ていたらまだ父の死の前だった。今見るのとだいぶ感覚が違っていただろう。自分にとっては今見て良かった映画。
映画を見る感覚というのは見る側の人生経験や立場で大きく変わる。改めてそう勉強させられた。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
「あなたは達者な毒舌で人をやりこめる。側にいると自分が消えるの。」
そう言われて初めてたぶん気づく。自分が父親に感じていた人格を自分自身も受け継いでいる事。
「42年間、町の法律だった」父が何に拘っていたから化学療法を受けていたことを言わなかったのか。
記憶が飛ぶことが知られてしまったら町の法律その物が揺らぐから。法が自分の全てだったから。それを守っていることが誇りだったから。
父にとっては刑務所で死ぬことの方が「晩節を汚すよりマシ」だったのである。
これは決して意固地でも狂気でもない。死んでいく者がこの世に残す自分の足跡の価値観だ。
そんなガチガチの法の番人の判断を狂わせたもの。それが確執のあった次男に対する思いだったのである。
「強情で反抗的な態度が息子と被ったから。道を誤ったなら救ってあげたかった。」
ハンクは「ピカソの絵のような家」と言ったが、父は普通の愛情深い親だった。
感情の行き違いが違う風景を見せる。頑固で冷たい父親の心の裏を察してやることなんて人間なかなか出来るもんじゃない。
事故は悲しい結末だったけれども、これのおかげで父子はお互いを解りあい、息子の心の帰還は父の最期に間に合った。
素晴らしいジャッジを天から下されるだろう、ジョセフ・パルマー判事。
ここからは、ただの日記なんで読み流し推奨します。。
医者もゲームも大嫌いだったはずの父が、今は医者とゲームをするために会っている不思議。家を出て連絡も取らない自分は知らなかったことを弟は知っている。
そこが引っかかったから謎が解けたわけだけれども寂しいよね。自分だけが知らないことが実家にある。
ステージ4の大腸癌はウチの父とまさに同じ。化学療法を受けた日は食欲もなく眩暈がし、本当に辛かったらしい。それをこのお父さんは隠し続けてきたのである。それはもう気力で生きている以外の何ものでもない。
トイレで1人倒れながら吐き、汚物まみれになる…たぶん妻が生きている間は介抱してくれていたのだろう。その姿を偶然見つけてハンクが手を貸すシーンで涙が出たよ。
お父さんは支えよう手伝おうとするハンクを振り払うわけ。家を捨てて行った息子なんかの手を借りるもんかという意思にも見えるけれども、この病気に罹った多くのお年寄りが同じらしい。人の手を借りたくないのだ。ウチの父もそうだった。私が手を出そうとすると物すごく不機嫌になった。
この時、私は「頑固ジジイだから」と手を引いてしまって積極的に支えることを止めた。ハンクは振り払われても父親を支え、汚物を処理してやった。シャワーを使う時にはもうお父さんはされるがままになっていた。
これだよ…と思った。私はこれをやらなければいけなかったんだ。振り払われても怒鳴られても手を貸して父を支えるべきだった。
家を出ていくような形で長く帰らなかった息子が父の死を前に弁護だけではなく介護までする。今までなかった絆が蘇る。昔の話をいっぱい聞いてやり、言いたい事は言って禍根は残さない…。私には父の最期まで出来なかったことがこの映画の中にたくさんあった。
私の父親も本を投げつけるような人だった。そんな印象がぬぐえないまま、私は父の最期の一息まで看取った。
ハンクはとても幸せだ。私には父を救う事はできなかった。
ただ、この映画に出会って諸々気づかされて良かったよね。自分にとっては死者からのメッセージを受け取る1本になった。それは本当にありがたい。
|
・ジャッジ 裁かれる判事@映画生活トラックバック
・象のロケット
comment