「泣ける映画」というものも人それぞれ。しかし闘病ものや人が死ぬから泣ける話はもうたくさん…と思っておられる方は多いはず。心の琴線に触れるグッと来る邦画一覧。
「お涙ちょうだい」じゃない。大人「涙活」のための泣けるおすすめ日本映画まとめ
涙活(るいかつ)をご存じ?「泣く」ことは精神安定剤になるという話
仕事で恋愛で、泣きたい気持ちになったことや涙も出ないほど落ち込んだ経験は誰にでもあるはず。泣くことはストレス解消になるので我慢せずに辛い時には意識的に泣こうという考え方。それが「涙活(るいかつ)」です。
涙を流すことにより、人間の自律神経は緊張や興奮を促す交感神経が優位な状態から、リラックスや安静を促す副交感神経が優位な状態に切り替わる。涙活は、この仕組みを利用したストレス解消法とされている。
ストレス解消に効果があるのは、悲しみや感動などによる情動の涙。なお目を潤すための基礎分泌の涙や、タマネギを切った際に出る角膜保護の涙には、ストレス解消効果はない。
涙活はストレス解消に効果があり、泣き終わったあとはよく眠れます。子どもの頃、泣き疲れてグッスリ眠ったという経験を持つ人も多いのではないでしょうか?
一番いいのは、自分と直接関係がなく、それでいて共感できるものを見たり聞いたりして泣くこと。「共感脳」と言われる前頭前野部分に刺激を与えることが重要なのです。
出典:「涙活」発案者が語る “涙の効能” — 泣くだけでストレスは吹き飛ぶ! | PHPビジネスオンライン 衆知|PHP研究所
「意識的に泣く」というのは勝手にできることではない。一番簡単なのは心に響く物を見たり聞いたりして感じることでしょう。それに一番適した物は映画!
しかし、いかにも「泣かせよう」として作られた作品にはシラけてしまうという方は多いですよね。
そこで、「泣かせよう」として作られたものではない…と思われる感動作をご紹介します。
課せられた運命の重さと人の情に泣く
直貴(山田孝之)の兄(玉山鉄二)は、弟の学費欲しさに盗みに入った屋敷で誤って人を殺し服役中だった。大学進学もあきらめ、工場で働く直貴の夢は幼なじみの祐輔(尾上寛之)とお笑いでプロになることだったが、毎月刑務所から届く兄の手紙が彼を現実に引き戻す。そんな彼を食堂で働く由美子(沢尻エリカ)が見ていて……。
◆「犯罪者の身内」であるという宿命を背負った主人公が逆境に追いやられる中、自分のやるべき事は何なのかを学んでいくストーリー。辛い展開だがその中で描かれる人との触れ合いに救われる。「謝罪」と「罪と罰」「自分の生きる世界を受け入れること」について考えさせられる。
遺伝子を研究する泉水(加瀬亮)と芸術的な才能を持つ春(岡田将生)は、一見すると仲の良さそうな普通の兄弟だ。そんな二人の住む街では、謎の連続放火事件が発生していた。泉水と春は事件に深く踏み込み、家族を巻き込みながら次第に家族の過去にも近づいていくのだが……。
◆仲の良い家族にまつわる悲しい過去を現在の事件に絡めて紐解いていく。原作は伊坂幸太郎のベストセラー小説『重力ピエロ』。家族とは何なのか、人を守るとはどういうことなのか。兄弟の絆の深さに感動する。
映画『重力ピエロ』予告編
時代の波で閉鎖に追い込まれた、とある炭坑の村では、危機的な状況の中、炭坑で働く人々はツルハシを捨て、北国の寒村を“常夏の楽園”に変えようと立ち上がった。村の少女たちは腰みのをつけ、肌もあらわにハワイアンムード満点のフラダンスを踊りはじめるのだが……。
◆男は炭鉱 夫として女はそれを支えて生きてきた古びた炭坑の町興しとして新風を呼び込むフラガールたち。伝統から抜け出せない人間と新しい人生に夢を託したい人間。時代の移り変わりには必ず起きる対立が描かれる。役者さんたちが吹き替えなしで演じるハワイアンダンスは圧巻。
第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞他、この年の映画賞を数多く受賞した。
東京でカメラマンとして成功している猛(オダギリジョー)は母の一周忌で帰省する。彼は実家のガソリンスタンドを継いだ独身の兄の稔(香川照之)や、そこで働く幼なじみの智恵子(真木よう子)と再会し、3人で近くの渓谷に行くことにする。猛が単独行動している間に、稔と渓谷にかかる吊り橋の上にいた智恵子が転落する。
◆弟は目撃したのかしなかったのか。育ってきた環境が引き起こす兄弟間の確執が、ある事件を切っ掛けに露わになっていく。家族の歴史には良いことも悪いこともある。主人公の心情と吊り橋の映像が表す「ゆれる」。ラストシーンの後まで引きずる作品。
楽しいからこそ何か泣けてきちゃう
大晦日を迎えた「ホテルアバンティ」では、ホテルの威信がかかった年越しカウントダウンパーティーの準備で大忙し。そんな中でも副支配人の新堂平吉(役所広司)は、様々な問題に機転を利かせて対応するのだが……。
◆とあるホテルの年越しを描くコメディ。ストーリーとして何かを得られるというわけでもないが、ドタバタした中に人情が見える三谷喜劇の真骨頂。豪華キャストのコメディアンっぷりを充分楽しんで、何も悲しいことが無いのにラストにはホッコリしながらなぜか目が潤む。
宮城県仙台市、生まれた年も日にちも一緒の2人は成長した後、片方はプロ野球の人気選手、もう片方は空き巣というまったく異なる人生を歩んでいた。ある日、空き巣をなりわいとする今村(濱田岳)が恋人の若葉(木村文乃)と共に、地元のプロ野球選手(阿部亮平)の家に盗みに入っるが、今村は一向に仕事を開始するそぶりを見せない。すると部屋に女性から電話がかかってきて……。
◆伊坂幸太郎作品と中村義洋監督の秀逸タッグ。のぼっとした癒し系俳優・濱田岳と、どう展開していくのか解らないストーリーの相性が最高。エピソードの数々は伏線なので余さずご覧ください。痛い人たちへの温かい優しい視線に泣ける。
映画『ポテチ』予告編
青春時代が懐かしくて泣ける
とある田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、クラスの中では地味で目立たないものの、映画に対する情熱が人一倍強い人物だった。そんな彼の学校の生徒たちは、金曜日の放課後、いつもと変わらず部活に励み、一方暇を持て余す帰宅部がバスケに興じるなど、それぞれの日常を過ごしていた。ある日、学校で一番人気があるバレー部のキャプテン桐島が退部。それをきっかけに、各部やクラスの人間関係に動揺が広がり始めていく。
◆学校・教室の中で自然に作られていくスクールカーストが描かれているものの、イジメ描写など見ていて辛いシーンは特にない。無いからこそ学生時代に自分はどんな人間だっただろうかと見ながら考える。この作品の中に自分を見つけた人にとっては懐かしい気持ちがこみ上げる1本。
映画『桐島、部活やめるってよ』予告編
高校2年生の紺野真琴は、自転車事故をきっかけに、時間を跳躍する能力を持ってしまう。その能力のことを叔母の芳山和子に相談すると、それは“タイムリープ”といい、記憶の確かな過去に飛べる能力だという。半信半疑の真琴だが、日常の些細(ささい)な不満やストレス解消などのため、むやみやたらに能力を乱用しだし……。
◆原作は筒井康隆の超有名小説だが、物語は20年後が設定されており、原作の面影はほぼ無い。男友達と楽しく日々を送り特に何の夢も悩みも持たなかった主人公が能力を手にする事で世界が動き出す。ファンタジックな演出で描かれる甘酸っぱい恋物語が切ない。
命の重さを考える
終戦近い神戸は連日、B29の空襲に見舞われていた。幼い兄妹・清太と節子は混乱のさなか、母と別れ別れになった。清太が非常時の集合場所である国民学校へ駆けつけると、母はすでに危篤状態で間もなく息絶えてしまった。家を焼け出された兄妹は遠縁に当たる未亡人宅に身を寄せた。
◆非常に理不尽なストーリーである。戦争だから理不尽なのが当たり前であって誰が悪いということもできない。子どもたちの話なので見ていて辛い。不快に感じる方も多いだろう。演出的には悲惨さが前に出過ぎないファンタジーになっている。
結婚を目前に控えた刑務官の平井(小林薫)は有給休暇を使い果たし、新婚旅行に出掛けられずにいた。披露宴を週末に控えたある日、収監中の死刑囚、金田(西島秀俊)の執行命令が下る。執行の際、下に落ちてきた体を支える“支え役”を務めれば1週間の休暇が出ることを知った平井は、誰もが嫌がる支え役に自ら名乗り出る。
◆死刑執行官の仕事と死刑囚の日常を知るという意味のトリビア的見どころも多いが、この仕事を執行することの重みをズッシりと受け止める。「死刑」について深く考えさせられる作品。
東日本大震災の発生直後。定年まで葬儀関係の仕事に就いていた相葉常夫(西田敏行)は、仕事柄遺体に接する機会が多かったことから、遺体安置所でボランティアとして働くことになる。一人一人の遺体に優しく話し掛ける相葉の姿を見て、膨大な遺体に当初は戸惑っていた市職員たちも、一人でも多く遺族のもとに帰してあげたいと奮闘し続ける。
◆まだ日本人の記憶に新しい東日本大震災に深く関わる作品だけに、見たくない方は見ない方がいいかも知れない。けれども決してステレオタイプに泣かせようとする作品では無く、真摯に「ご遺体の尊厳」と向き合った内容になっている。
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