ファーストキス ~ 1ST KISS ~
![映画『ファーストキス 1ST KISS』感想と考察](https://www.cinemarev.net/wp-content/uploads/2025/02/1stkiss.jpg)
この記事は
- ネタバレなし感想
- ネタバレ感想
- 考察…という名の妄想
の三部構成になっています。
人の人生はきっと三部構成のミルフィーユよりも複雑なのだから……どのようにお読みいただいても良いのです。
作品情報
監督・キャスト
- 監督 : 塚原あゆ子
- 脚本: 坂元裕二
- キャスト: 松たか子,松村北斗,吉岡里帆,森七菜,YOU,竹原ピストル,松田大輔,和田雅成,鈴木慶一,神野三鈴,リリー・フランキー
受賞
この項目は追記します
日本公開日
公開: 2025年2月7日
レビュー
☆☆☆☆☆
劇場観賞: 2025年2月8日
坂元裕二脚本の お松さんは、早口で普通の中年女性で、ちょっと攻撃的で、そして可愛らしい。
松村北斗くんの演じるキャラクターはいつもちょっと理屈っぽくて、好きなことだけよく喋り、口を閉じればセクシーで、そして愛に溢れている。
可愛らしい人たちのドラマがドタバタカオス状態で展開される。
「夫婦の幸せ」について深く考える1本。
あらすじ
結婚して十五年目、長く倦怠期だった夫・硯駈が事故で死んだ。 残された妻・カンナは第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする術を手に入れる。若き夫に再会したカンナはもう一度彼と恋に落ち、事故死してしまう彼を救うべく奔走しはじめる………
『ファーストキス』ネタバレなし感想
夫を助けるために妻が時間を奔走する話……ということは、もう予告でも宣伝でも語られているのでネタバレではない、という前提で書かせていただいております。
いつものセリフの多い坂元裕二作品。そして、この物語も「それでも生きていく」のです。
時間を行き来し、走り回る お松さんを見ながら、私自身も結婚生活について色々と考えました。
付き合い始めた「あの時点」に戻ったら、自分はどうしていただろう。
相方の「死」というゴールがすでに見えていたら、どれだけ相手に優しくなれるだろう。
この映画は、ファンタジーであり、コメディであり、恋愛物語であり、そして夫婦の物語です。
劇中でも語られていましたが、「恋愛はプラスしていく」「結婚はマイナスしていく」作業だと(笑)
色々と……反省させられます。
タイムリープ作品は数あれど
恋人が死なないように過去に戻る作品は数あります。ここ近年でますます増えてきた気がします。
たぶん、みんな過去に戻りたいのだろうな……と、よく分かります。(私もです)
そこを軸として、どういうドラマにするのかが「手腕」というものだと思います。この作品はとにかく上手い。
ちょっと滑稽なタイムリープを繰り返すカンナは人間臭くて可愛いおばさんで、それを受ける駈は戻るたびに純朴で美しい青年で、2人の世界は始まったばかりのキラキラした恋に溢れていて、何度も、何度も見たくなる。
観客も何度も戻りたくなる世界観がそこにあるのです。
思い出って美しい。そして楽しい。
これを継続させる人生を送り……そして悔いのない終わりを迎えたい。
素直にそう思える作品でした。
松村北斗が醸し出す愛情深さ
他の作品も充分見てきたつもりですが、私が作中における「松村北斗の存在感」にまじまじと魅入ったのは『カムカムエヴリバディ』だと思います。
第97回の「終戦の日」は神回で、そこに透明な色を射す北斗の存在には鳥肌立ちました。
その優しい佇まいに「愛」を見てしまうんですね。天性のものだと思います。
この作品でも、そこが十分に生かされていました。駈くんは北斗。それしか考えられないです。
若返り演技も映像技術も凄い
今回、松たか子さんと松村北斗さんはそれぞれ20代から40代までを演じられます。
役者として凄いのは、はつらつとした表情や動き。老けてからは声の出し方や姿勢の悪さ。
お二人とも凄かったわけですが……。
これだけは演技だけではどうにもならない「肌艶とハリ、そして輪郭」ですね。
当方は個人的にお松さんが好きで、テレビドラマデビューの頃から見てきているのですが、20代のお松さんは本当に『花の乱』で日野富子をやっていた頃の松さんだったのですよ。輪郭が違う!
これはメイクの力とは違う凄い技術が使われているな……21世紀の映像、すげぇ……、と改めて思いました。
同じく、40代の北斗くんの肌が垂れて疲れた感じ……。
ああ、本当に映像、凄い。
人生やり直したい地点を考える
人生どの時点でやり直ししたいか。
年が行くほど、タイムマシーンで行きたいのは未来じゃなくて過去だと思うのですよ(笑)
![映画『ファーストキス 1ST KISS』感想と考察](https://www.cinemarev.net/wp-content/uploads/2025/02/1st-1.jpg)
個人的には、やり直したい地点はいくらでもありますが、近々ではこの『ファーストキス』の試写会ですよ。
私、この日からコロナになり、試写会に行けなかったのですね。
こうなることを知っていたら、何日か前、当家のダンナ氏が熱を出して寝ていた時(すぐに平熱になったので、この時点ではコロナを疑うことはありませんでした)、そこからずっと隔離しておけば良かったですよ。(夫婦愛とは……)
おかげで今日までずっとジクジクと観られる日を待たねばなりませんでした。観れて良かった!
結婚していない方も、している方も、どこか戻りたい地点を思い返しながら、これからの人生に思い馳せられる名作です。
『ファーストキス』ネタバレあり感想
たぶん、駈くんはりっちゃんと結婚しても、そんなに大事にはしてもらえなかったと思うのです。父の教授があんな人間ですからね。
「私だったらもっと彼を幸せにしてあげられた」というのは、タラレバですね。
全くお悔やみになっていないし、失礼な女ですよ、プンプン。(坂元裕二脚本で行けば、『カルテット』の「人生チョロかった」女を思い出します(笑))
しかし、人間、後悔や「思い当たり」があれば他人の言葉がグサグサ来ます。
そういうトゲの一部分を拾うのも坂元脚本の上手なところ。「ミゾミゾする」わけです。
この作品は「結婚しているかしていないか」「現状どんな結婚生活か」「パートナーを大切にしているかいないか」「むしろパートナーに生きていてほしいと思っていrk……(略」などで大きく見方が変わる作品だと思います。
カンナだって、すでに心はバツイチだったわけですから、何もなければ、たぶんあの駈のためにこんなに走り回らないと思うのです。
しかし、出会ってしまった。15年も前の「可愛くて目なんてキラキラしちゃって初々しい」彼に。
別人かも知れないほど愛しい彼に再び恋をする。
ああ、あり得るなぁ……という説得力が松村北斗にあるわけです。
上手いなぁ……本当に。
再び若い駈くんに会って、自分を振り向かせるために着飾って着飾ってウィンクなんてしちゃう、そんな痛々しいおばさんカンナもアルアルすぎて。同じおばさんとしては心から笑えない痛さがありました。
どんなに着飾っても、頑張ってセクシーを醸し出しても、若さの範疇には届かない。結局、駈くんの心を一番引き付けたのはファースト段階の犬に襲われている自分だったと……。そこに気づけ気づけと思いながら薄く笑って見ていました。
でも……
自分が北斗くんの気を引きたくて頑張るとしたら、きっと同じことをやっちゃうだろうな……(笑)
自分の魅力がどこにあるのか知るのは大事なことですね。
結婚って何だろう……という人間愛の物語
よく「結婚とは忍耐である」と言われますが、個人的には「結婚とは人間愛である」だと思っています。
恋愛はいつか終わります。年を取った時に相方に「容姿なんてどうでもいい好ましさ」がなければとても続けていけません。
あるいは「好ましくなくても長年の思い出とともに人間として愛する」ですかね。
一緒に暮らしていて、いつもいつも電気がつけっぱなしだったら、そりゃイライラするでしょう。
フキハラしながら消して回る時点で、もう「口もききたくない」わけで、そこに至るまでにきちんと話し合いが出来ている関係だったら良かったね、ということになります。
喋る、って大事なことです。寡黙な夫婦は恐らく溜まっていると思います。
良い「ちゅん」を迎える
これもドラマなどでよく見聞きしますが、1人の孤独よりも2人で居る孤独の方が寂しいのです。
誰かと一緒に居るのに1人よりも寂しいなら1人の方がマシじゃないですか。
人間はいつか死にます。硯駈は15年の時間軸をずらした妻のおかげで孤独な「ちゅん」を避けることが出来ました。
遺族に良い思い出を残すか、最低の思い出を残すか、それも生き様ですね。
今現在、とてもできていませんが、良い「ちゅん」をしたいです。
坂元裕二脚本はバイブルのようです。
『ファーストキス』考察 (という名の妄想)
まぁ本当に考察でも何でもなくて、ただの妄想なのですよ。
物語は「結果的にはそういう結末になっちゃったけれど、そこに行きつくまでの夫婦の時間は豊かになった」で完結しているのだから。
けれど、あの手紙には「頑張ったけれどどうにもならなくて……」のように書いてありませんでしたか(ありましたよね)。
駈くんもまたカンナのために「やり直し」を計ったのではないか。と私は思っているのです。
トンネル崩落事故
首都高に山手トンネルという長い長いトンネルがあり、日祭日は渋滞もしていたりして、実家に帰る時に「このトンネルが崩落したら逃げようがないよね…」と、たまに思ったりします。
大きな道路の大きなトンネルが崩落し、巻き込まれるとは大変なことです。そう簡単に抜け出せるとは思いません。
カンナが巻き込まれたトンネル事故も復旧に時間のかかる大きな事故だったと推測できます。
それで、私、「1回目」からそう思ってしまったのです。
「この人、本当に生きてるの?」
もちろん、崩落事故の後も彼女は舞台セットの仕事をしているのですが、それもミルフィーユの一枚かも知れないですし。
カンナのために…
セカンド硯駈はカンナから全てを聞き、自分が7月10日に亡くなることを知ってしまいます。
その結果、結婚人生をやり直し、次は44歳まで仲の良い夫婦生活を送ることができた。「未来は変えられた」わけです。
そして、7月10日に死なない人生を手に入れることができた。……という可能性もありますよね。
死なずに仲の良い夫婦として過ごしたのち、今度はカンナの方がトンネル崩落事故で亡くなってしまった。
そこから今度はカンナを取り戻すための駈のタイムスリップが始まるのです。
そしてお取り寄せギョーザ
駈がカンナのためにどう動いたのかは描かれないので分かりません。
しかし、駈は「そういう方法」で運命を変えることが出来ることを知っていました。教えてくれたのは15年先の時間軸にいるカンナです。
りっちゃんと結婚して教授になってみたりもしたかも知れません(そのパターンの時の「あの博物館」とか……)。
試行錯誤した結果、駈のターンが導き出した答えは
「やはり自分は7月10日に死ななくてはならない」
「お取り寄せギョーザはもっと早く届くように指定する」
だったのではないでしょうか。
それが、どう作用したのかは私には分かりません。
どっちにしろ、妄想ですし。
そして、どちらにせよ、切ない。
・象のロケット
★前田有一の超映画批評★
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