対馬丸-さようなら沖縄- 感想
原題 : ~ 対馬丸-さようなら沖縄- ~
作品情報
監督・キャスト
監督: 小林 治
キャスト: 田中真弓、安達忍、丸山裕子、納谷悟朗、
日本公開日
公開: 1982年10月24日
レビュー
☆☆☆☆
観賞: 2015年11月10日(NHKEテレ視聴)
昭和19年8月22日。
政府の命令により沖縄から本土へ学童と民間人約1600名を疎開させるために出港した疎開輸送船対馬丸が、アメリカ海軍の潜水艦により沈没させられた「対馬丸事件」を描く史実ベースのアニメ映画。
この事件で生き残った児童はわずかに59名だという。
あらすじ
「対馬丸遭難事件」は1661人の乗客のうち、生存者わずか156人という惨事です。犠牲者は罪もない学童や幼い子、一般人ばかりという、他に類をみない悲劇でしたが、戦後まで知らされませんでした。沖縄は太平洋戦争で唯一地上戦が繰り広げられ、多くの市民が犠牲になったところで、人々は「疎開に行くも地獄、残るも地獄」という窮地に立たされていたのです。……
Aisa Wide Communicationsより引用
沖縄戦 民間人の犠牲と事件の隠蔽
劇場公開はなく、公民館や学校での上映で子供の頃に見た方が多いと聞く。当方はテレビ放映で視聴。
可愛らしく単純な絵柄で、いかにも「昔の漫画」という感じだが、その絵柄だからこそ、死にゆく子供たちの描写が恐い。正直、本当に恐い。
可愛いキャラクターたちが白目をむいて動かなくなったり血みどろになっていく様はトラウマレベルである。
これが実写になったら、むしろこの恐さは出ないだろうと思うのだ。
子どもに見せるための映画だと決めつけず、大人もみんなこの恐さと悲しさを味わうべき。
実際にこの日、友達の死を、大人の身勝手さを、寒さを水の恐さを……15歳に満たない子どもたちが体験したのだから。
弾に当たって死ぬのは嫌だという描写だけではなく、この作品では権力に逆らえない理不尽さ、圧力に抗えない恐怖など「戦争の恐ろしさ」が詰まっている。
絵面が子供のトラウマになるから、などと思わずに教育機関は積極的に見せるべき。戦争映画なんてトラウマになるほどじゃなきゃ駄目だと思うのである。
エピソードは脱出して生き残ることが出来た当時の「子どもたち」への取材から作成されており、主役の清くんにあたる人の「恐怖」として一番心にのしかかっているのは、目の前で友達が次々と亡くなっていったことよりも、生き残りの子どもたちへの軍部の緘口令だったらしい。
疎開させるといって民間人を乗せていった船が攻撃されて「目的」を果たせなかったこと。疎開が進まなくなることを恐れた軍部は生存者に「船が沈んだことを喋ったらスパイ容疑で銃殺する」と脅したという。
当時、沖縄から本土(または台湾)へ老人や子どもを疎開させることは、沖縄本土の兵士の食糧確保のためであった。民間人を島から外へ出すことは厚意ではなく、作戦の一旦だった。
いつだって犠牲になるのは弱い者。
戦争で一番苦しむのは力のない子どもたちだ。
沖縄返還50年
本年2022年は沖縄が日本に返還されて50年の記念の年。
NHKなど各種メディアも沖縄を取り上げ、朝ドラも沖縄舞台の『ちむどんどん』を放映している。
そのような中、那覇の小学校では対馬丸の慰霊モニュメントが作られるのだとか。
この映画も、もっと広く放映されればいいのに、と思う。
戦争は現代もまだ世界のあちこちで続いていて、たくさんの民間人、子どもたちが犠牲になっている。
日本で唯一地上戦が行われた沖縄。
たくさんの犠牲。たくさんの悼み。
沈没した対馬丸の船影は発見されたものの引上げは実現せず、今もなお海底に眠っている。
ダイジェスト動画
対馬丸 -さようなら沖縄- DVDなど視聴方法は
『対馬丸-さようなら沖縄-』は、教育団体にはVHSのビデオ媒体として貸し出されている。
発売元の H&M Incorporated からは個人用のディスク販売もあるようだ。
2022年5月現在、ネット配信やテレビ放映予定はなく、Amazonからはアニメ絵本のみ販売されている。
体験記「ボクは対馬丸に乗った ~声の絵本」
★前田有一の超映画批評★
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