Fukushima 50
作品情報
監督・キャスト
監督: 若松節朗
キャスト: 佐藤浩市,渡辺謙,吉岡秀隆,安田成美,緒形直人,火野正平,平田満,萩原聖人,吉岡里帆,斎藤工,富田靖子,佐野史郎,堀部圭亮,小倉久寛,石井正則,和田正人,三浦誠己,須田邦裕,金井勇太,増田修一朗,堀井新太,邱太郎,池田努,田口トモロヲ,皆川猿時,小野了,天野義久,金山一彦,金田明夫,阿南健治,伊藤正之,小市慢太郎,矢島健一,段田安則,篠井英介,前川泰之,津嘉山正種,中村ゆり,ダンカン,泉谷しげる,ダニエル・カール
日本公開日
公開: 2020年03月06日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2020年02月18日(試写会)
あの311後の福島第一原子力発電所に残った人々を描いた実話ベース作品。
戦争でもない時代、命を掛けて仕事しなきゃならなくなった現場の人たちには本当に頭が下がる。一本の映画としては見ごたえあるエンタメ。
ただ、当時の政権や、この映画公開後に五輪を控えているという背景を考えると、観賞する時に平たい目が必要かも知れない。映画は映画だ。
あらすじ
2011年3月11日午後2時46分に発生し、マグニチュード9.0、最大震度7という、日本の観測史上最大の地震となった東日本大震災時の福島第一原発事故を描く物語。想像を超える被害をもたらした原発事故の現場:福島第一原子力発電所に残った地元福島出身の名もなき作業員たちは、世界のメディアから “Fukushima 50”(フクシマ フィフティ)と呼ばれました……(Filmarksより引用)
あの津波映像はほぼ無い
311を描く作品では付き物の「津波」映像。あの時、あの場に関わっていた方々、何の関わりも無くても毎日映像をテレビで見ていた人たちのトラウマ呼び覚ます、あれ。
この映画では、そこはあまり描かれない。
物語はほぼ室内。
観客のほとんどは知らない風景だと思われる。
そういう意味では、津波映像トラウマを恐れる人にとっては見やすいのかも。
けれども物語は辛い方向へと進む。あの日々を確かに思い出すシーンの連続。
福島第一原子力発電所の戦い
この作品は震災時の福島第一原発内で実際に作業していた人たちの奮闘や苦悩が描かれている。
日本国民がテレビの報道でしか知り得なかった原発事故の実情。中の作業員たちが決死の覚悟で放射能流出を防ぐために戦かったこと。行政と東電本店(ここでは「東都電力」なんですけどね…)、そして現場の指揮班の板挟み。そして、現場の人たちの避難家族。それぞれのドラマ。
前例のない混乱の中、現場を知らない外部がアレコレ見当違いの指示をしてくる。見ている間、何度も「事件は現場で起きてるんだよぉぉぉ!」と言いたくなることしきり…。
真実の物語?
で、こういう作品の場合、どうしても記憶の中の現実と同化して見がちなので、泣きながら「今見るべき」とか思ってしまうのだけれど、一本の作品としては思う所もある。
汚染が進んでいる原子炉建屋に突入してベント(気体を外に排出させて圧力を下げる措置)を行う作業員の姿にハラハラするシーンも、ちょっと演出が一本調子に見えたり、官邸の馬鹿っぽさがステレオタイプに見えたり……。
個人的には、この手の作品では煩くて見疲れしてくるマスコミが、それほど煩くなかったことには救われた。(官邸が十分煩いので、この上、マスコミまで要らない…)
逃げ出したくなる状況、本当に「命を掛けて」ここに残った人たちが居た。このドラマの中でそこだけは間違いなく真実であり、その上に今の私たちが暮らしているのだということだけは忘れてはならないと思う。
キャスト
熱かったりドキドキしたり泣かされたりしたけれど、やっぱりアレよね。浩市さまよりケンワタナベより、津嘉山正種さんにやられたわ。持っていくなぁ……表情だけであれだもん。名優、すごい。
「当時の総理」はご立腹かも
この試写会の帰り道、「当時の首相って……」と友達と話し、「菅さんだよね」→「ああ、そうか」→「そういう映画か……」と、だんだん冷めていく感覚はあった(笑)
まぁ、この手の映画でプロパガンダは必須だし、私は映画製作者が作品に思想を練りこむことは間違いではないと思っている。芸術に作家の思想が反映されるのは太古からの定番。そもそも人は何か訴えたいから表現する。
けれども、主張ではなくて「なにか」に阿る背景を見た気がした時、ちょっと背筋が寒くなる感覚を持つ……ってことはありません?
この映画の場合は東京オリンピックである。
『新聞記者』が選挙に向けて上映されたように、この映画はオリンピックに向けて上映されている。(作中でハッキリとそう言っているので、それは間違いじゃない)
そういうのって「思想」とは違う何かのような気がして……。
そういえば、「当時の総理」のツイートがあった。
ブログに「映画『 #Fukushima50 』を見て」を投稿しました。リンクを追加して再送します。https://t.co/5WRcEALhBa https://t.co/IG5IzD44lg
— 菅直人(Naoto Kan) (@NaotoKan) March 4, 2020
このブログの中で、菅直人さんは言っておられる。
※事故対応とくに、なぜ福島第一原発にヘリで飛んだか、「海水注入」の真相、なぜ東電本店に乗り込んだか、についてウェブサイト「福島原発事故」特設ページで説明しています。
この映画の中で、「当時の首相」(作中の役名は「総理」であって実名は出ていない)は結構散々な描かれ方をしているので(笑)
「真実の物語」という宣伝文句をそのまま受け取るか、ちょっと疑って見てみるかは観客次第だけれど。
『新聞記者』でも描かれていた通り。
「与えられた真実は疑わなければならない」
映画は映画だ。
ただ、いつもいつも、困るのも最前線に立たされるのも市井の人であるということだけは事実。
以下ネタバレ感想
避難所でずっと表情もなく何を考えているのか分からなかったお爺ちゃんが、息子が帰って来た途端に安堵か怒りか喜びか…全てが噴き出したような表情で顔をクシャクシャにして迎える……あのワンシーンに持って行かれた。津嘉山正種さんに持って行かれた。泣けた。
けれども。
前述したけれど、「この50人はFukushima 50と讃えられた」とか「2020年の東京オリンピック」うんたらのラストテロップで一気に涙が乾いた感がある……。(その前の吉田さんの葬儀も「要るのか、これ?」だったけれど)
吉田氏の葬儀や綺麗な桜で「全部終わった感」を醸し出し、「トモダチ作戦」で救ってくれたアメリカへ感謝し、そして「2020年復興五輪」。
相当政治に疎い人でも、何だこれ?と思うのでは……。
ラストのラストで、そこまで頑張った市井の人たちの苦労描写が水の泡である。結局、下々は国の宣伝に利用されるだけなんだなぁと思ってしまった。
大きく見れば、国を救うために戦った素晴らしい人たちの物語で迫力もある良い映画だった。
けれども、政府がオリンピックを成功させるための宣伝映画だった(笑)
そんな感想。
前述した元総理お薦めの『太陽の蓋』は、絵面は地味だけれど、もっと必死で悲壮感のある政府が描かれていた。
もっとも、あちらは元総理が好人物に描かれているからお薦めもするよね……(笑)。(『太陽の蓋』は、舞台は「架空」とされているのに総理は実名になっている。この映画と正反対。)
どちらにも色々と思うことはあれど、エンタメとして見比べてみるのも一興かとは思う。
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★前田有一の超映画批評★
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